旅人と奴隷の”日記の話”
文字数 3,690文字
あれを体の中に吸収した時にあまりの得体のしれなさに意識が飛び、まるで時間が戻っているような感覚に陥ったからだ。
というか、
も う 二 度 と 食 べ た く な い 。
少し中身が気になった。
私が出会った時、もしくは出会う前には何をしていたのだろうか?
だがその旅人の言葉は、私の仲の好奇心という名の獣を呼び起こすには相応しいほどの餌になった。
私は旅人の寝言を背にその場で立ち上がり、馬車の外へと飛び出していった。
外は寒くもなく、また熱くもなく、丁度いい温度の心地よい風が吹いていた。
天気も悪くなく、左右に揺れる草原の草を月光が照らしている。
私は外に置かれていた組み立て式の椅子に腰を下ろす、すると目の前の簡単な作りでできているテーブルの上に何かが置かれていることに気が付いた。
・・・・・今、旅人は寝言を呟くほどにグッスリと寝ている。
つまりこれは好機なのではないだろうか?
私は迷うことなく近くのランプに明かりを付け手記を手に取り、最初の1ページを読み始めた。
ついに秋の季節がやってきた。
この時期の馬車での移動は寒がりの僕にとっては毎年辛く、全身に冷えた風が当たり体の芯まで凍えるので好きではない。
だからといって俺は夏が好きなわけでもない、水分をいつもより多く取らないといけないし、食べ物も腐りやすくなるからだ。
春がずっと続いてほしいと心から願う。
とりあえずできるだけ今日に近い場所から読み始めようとページをめくる。
町で乞食をしていた少女を拾った。
最初は俺のことを警戒していたようだが、服や飯や風呂に入れさせるとすっかり機嫌も良くなって今は馬車の中で毛布にくるまって寝ている。
最近この国では王政が混乱しており経済が上手くいっておらず、その波に飲まれて失業する人々も多くはなかった。
最初出会った時に、いや、今もだが宝石がぶら下がったネックレスを右手でずっと握りしめていた。売却せずに大切にしているあたり形見か何かなのだろう。
この経済の波は商売をしている僕にとっては悪いものであるが、同時にいいことでもある。これからここに来れば沢山手に入るからな。
だがそれよりも気になることがある。この”これからここに来れば沢山手に入る”というのは何のことなのだろうか?そして少女は私に会う前に一体どこへ行ってしまったのだろうか?
そんなことを考えながら私はページを適当にめくる。
少女の様子は初めて出会った時よりも良くなっていた。
ちゃんと目を見てよく話し、善と悪の区別がしっかりしているとてもいい子だ。
元は宝石店の娘だったらしく、計算や読み書きができるのはそこで教わったからだそうだ。
両親はとても優しい人だったそうだ。だけどそんな両親も、最近の国の経済で店が上手くいかず、引っ越しをしようと隣の国へと移動していた最中に山賊に見つかってしまったらしい。
幸い両親が囮となり少女は助かり、歩いてそのまま元居た町まで歩いて移動し、そこで偶然俺と会ったらしい。
それは不幸なのか、それとも会えるのだから幸せなのだろうか?
だけど・・・この違和感は何なんだろうか?
そんなことを考えながら私はページを適当にめくろうとする・・・が、なぜかそのページだけはのりでも貼られたかのようにぴったりとくっついていた。
隙間に爪をねじ込む、すると敗れそうな音と共にゆっくりと隙間が空いていく。
丁寧に、なおかつ破れないように開いたページに映っていたのは、真っ赤に彩られ萎れて曲がり、インクが滲んだ光景だった。
少女を殺して食べた。
買ってきてあげた絵本を読んでいる間に手と足を縛って身動きを取れなくしたまま食べやすい、または用途別に切り分けた。
まず上半身と下半身を分断して足と腕を胴体から切り離し、お尻の肉をそぎおとす。腕と足は食料用、下半身は性欲を解消するために、そしてやわらかいお尻の肉はステーキにするためだ。
少女は最初は泣きわめいていた。まあ、命の恩人がいきなり殺そうとしてくるのだから当たり前だろう。
けどその鳴き声は体を分断すれば分断するほど死にかけの蝉のように掠れていく。いつ死んだかはしらないが、下半身を堪能していた時には死んでいたから意識は結構持っていたのだろう。天国で両親と出会えていることを祈る。
脳みそと目玉はくりぬいて砂糖漬けにしておき、残った頭は髪の毛は毛布の一部にし、肉片は食用にする。
しゃれこうべには次はどの花を飾ろうか考え中だ。食費を抑えることができるからいつもなら買えない高い花でもいいかもしれないな。
明日町の花屋に言ってみたいと思う。
体と手の震えが止まらない、足腰が震えると同時に眩暈が起きる。
これは本物の・・・なのだろうか?いや、まずこれは事実なのだろうか??だが服やご馳走や風呂も全てしてくれたるまりこれは旅人本人の日記帳???
私 も 生 き た ま ま バ ラ バ ラ に さ れ る ・ ・ ・ ?
初めは普段通りの表情だったが、時間が経てた経つほど気分がわるそうな表情に変わっていった。
旅人は馬車から取り出した麻袋の中に手記を放り込み、口元を縄で力いっぱいに絞めた。
無人の馬車も近くにあった。
馬車の中には小さなしゃれこうべに土が入れられて花が育てられていたりもしたが、今思えばあの馬車の中は・・・・・。
しかし、旅人は死体から何故そんな物を拾ったのだろうか?金や用途が分かるものならまだしも人の手記なんて・・・鈍器に使うとか?
私は緊張感から解放された反動でその場に座り込んだ。
足や腕に力が入らない。ああ・・・本当によかった。
私は旅人が馬車に乗る前に発した言葉を聞きとれなかった。