文字数 528文字

風があまり吹いていない…はずの日だった

高い場所だからか
足を踏み外さないギリギリの位置
吹き付ける風があの子の髪を乱す

空を見渡して探しているその何か以外には
まったく無関心

暫くすると諦めたように 中央の方に戻って
貯水タンクを固定している部分に座って
抱えていた絵本をこちらにかざして見せてきた

大きな絵本とはいえ、
それがなんの絵本なのかわからなかった

黙って立っているのも限界
本当は関わりたくなかったけど
決心して歩み寄った

「なんの本?」

声をかけると
目を見開いて驚いた顔をしていたが、
側に来るように手招きする
本のページを開いて内容をみせようとしていた

ー タイトルを言ってくれるだけで良かったんだけどな…

自分から声をかけてしまったので
しかたなく近くに座った

そのページには
濃紺の夜空に光るマンタが飛んでいるように描かれている
文字は書かれていなかった

次のページも、またその次のページも
なにも変わらない同じ絵?

いや、違う
少しずつ風景は変わってる
急に不安が襲ってきた
鍵をかけた記憶が突然解放されてしまうのを拒む
それなのにその記憶を取り戻したいと焦る
感情が込み上げてきて涙で視覚が歪む
つい 声に出して言ってしまった

「…独りぼっちの…マンタ?」

あの子の口元が笑みに変わったのをみた
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み