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文字数 745文字

階段を登って 屋上に向かったのは
特に死にたいとかそんな明確な意志はまったくなくて

ただ、なんとなく
上の空気は底辺の空気と違うのか確かめたくなった…くらいの理由だったと思う

ある日突然 目が覚めたら何もかも無くなっていて
なんなら これから自分自身も消えて無くなっていくんだよ と告げられても
特別な感情なんか湧いてこないだろうと思えるような
そういう ありふれた朝だった

そもそも、建物の屋上には登れるのかもわからなかった
もしかしたら【立入禁止】の文字に阻まれて
結局、途中で引き返すことになるかもしれないな、と目的地に辿り着くはずの一歩手前
最後の踊り場で立ち止まった

目的地



無感情の声が聴こえたよう気がしたから。

薄暗い踊り場から見える外は
やけに明るくみえた

転落防止柵などはなく 少し高い壁のようなものしかない

「マンタを見に来たの?」

突然の背後の声に驚いて勢いよく振り向いた

「…え?」

確かに声が聞こえたのに
振り向いたら誰もいなかった

しかし
上へと階段を駆け上る気配と足音

ー あぁ…なんだ…
屋上に入れるのか
でも、先に知らない他人がいるのは面倒くさい
今日は帰ろう

そう思った瞬間
扉をガタガタと無理やり開けようとしているような音が響いてきた

ー あの子…力技で開けようとしてるのかな?

あまりに必死な感じがして
巻き込まれたくない気持ちよりも
好奇心が勝ってしまった

階段を登ると
いつの間にか開いた扉は、すでにあの子を向こう側に吸い込み
再び閉じようとしていた
慌ててその後について屋上に出た

重い扉がゆっくりと動き
バタンッと大きな音をたてて最後の隙間が閉まる

フェンスもなにもない
ただ大きな貯水タンクだけが設置されている屋上

先に入ったあの子は
少し大きな絵本を抱えてギリギリのところに立って 何かを探すように空を見渡していた
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