第1話
文字数 1,334文字
その日、初めてのバレンタインチョコを手に、私は友永くんの部屋を訪れた。
友永くんは「ありがとう」と受け取ってくれた。
ホワイトデーに友永くんから返事があり、私たちは付き合い始めた。
初めての告白。初めての恋人。初めてのデート。初めてのキス。
友永くんはどれも初めてじゃなかっただろうけど、私にとっては全てが初めてだった。
二十歳の私は、ドキドキしながら初めて尽くしの日々を過ごしていた。
友永くんちのダニャンの頭をなでながら、こたつでぬくぬくしていると友永くんが言った。
「今度の土日、泊まりにおいでよ」
少し顔を赤らめて、私の顔を見ずに。
それって、そういうことだよね。
友永くんはなにもかも初めての私を思いやってか、先を急いだりしなかった。
ゆっくりゆっくり、大切に時を重ねてくれた。
そうなることがいやなわけじゃない。初めてで少し不安もあるけど、友永くんと心も体も結ばれたいと思う。
でもその前に話さないといけないことがある。
私はダニャンの小さな顎をなでた。
約束の土日、その日はふたりで鍋を食べた。部屋は温かい湯気で包まれて、私たちはとても幸せだった。
ダニャンはこたつ布団の上で目を閉じている。
話さなきゃ。
「友永くん」
「うん?」
「私、小学5年生から高校を卒業するまで不登校だったんだ」
「え?」
「だからみんなが経験してるようなことをほとんど経験してない」
「…………」
「地元を離れて大学に入学して、今度こそ青春するぞって、今までの私はなかったことにして普通のふりをした。だから恋するのもバレンタインデーもホワイトデーも全部初めてなんだ」
「うん」
「こんな私がいやだったら別れるから。今まで話さなくてごめんね」
「……木谷はそれでいいの?俺がいやだって言ったら別れるの?」
「……別れたくなんかないけど、こんなこと聞いたらいやになるんじゃないかなって」
友永くんは煮詰まっていく鍋の火をカチッと消した。
「俺は……木谷がすきだよ。今の木谷があるのは今までの木谷の人生があったからこそだろ。それを聞いて嫌いになるなんてあり得ない。できることなら過去に飛んでその頃の木谷と友達になりたいよ」
「うん」
こらえていた涙が込み上げてくる。
「セックスしたいからこんなこと言ってるんじゃないからな」
「え?」
私は泣き笑いになって友永くんの顔を見る。
「なぁっ、ダニャン」
照れ隠しなのか、友永くんは心地よさそうに目を閉じていたダニャンを抱き寄せて膝の上に乗せる。
「ニャアッ」
不服そうな鳴き声を上げて友永くんの膝におさまるダニャン。
「こんな私でもいいの?」
「そんな木谷がいいんです!!」
翌朝、ザラザラの舌で顔を舐められて目が覚めた。すごい目覚まし時計だな……と思ったら、ダニャンが「おはよう」と言わんばかりに「ニャア」と鳴いた。
友永くんはすやすやと眠っている。
服の上からじゃわからなかったけど、友永くんの肩はしっかりとして頼もしい。その肩に布団を被せ、私はベッドから起き上がった。
ダニャンがニャーニャー言いながら餌置き場に先導する。
「お腹空いたんだね」
キャットフードをお皿に入れると、すごい勢いで食べ始めた。
ダニャンのお水も入れ替える。
心の中で、昔の私がにこっと笑った。
友永くんは「ありがとう」と受け取ってくれた。
ホワイトデーに友永くんから返事があり、私たちは付き合い始めた。
初めての告白。初めての恋人。初めてのデート。初めてのキス。
友永くんはどれも初めてじゃなかっただろうけど、私にとっては全てが初めてだった。
二十歳の私は、ドキドキしながら初めて尽くしの日々を過ごしていた。
友永くんちのダニャンの頭をなでながら、こたつでぬくぬくしていると友永くんが言った。
「今度の土日、泊まりにおいでよ」
少し顔を赤らめて、私の顔を見ずに。
それって、そういうことだよね。
友永くんはなにもかも初めての私を思いやってか、先を急いだりしなかった。
ゆっくりゆっくり、大切に時を重ねてくれた。
そうなることがいやなわけじゃない。初めてで少し不安もあるけど、友永くんと心も体も結ばれたいと思う。
でもその前に話さないといけないことがある。
私はダニャンの小さな顎をなでた。
約束の土日、その日はふたりで鍋を食べた。部屋は温かい湯気で包まれて、私たちはとても幸せだった。
ダニャンはこたつ布団の上で目を閉じている。
話さなきゃ。
「友永くん」
「うん?」
「私、小学5年生から高校を卒業するまで不登校だったんだ」
「え?」
「だからみんなが経験してるようなことをほとんど経験してない」
「…………」
「地元を離れて大学に入学して、今度こそ青春するぞって、今までの私はなかったことにして普通のふりをした。だから恋するのもバレンタインデーもホワイトデーも全部初めてなんだ」
「うん」
「こんな私がいやだったら別れるから。今まで話さなくてごめんね」
「……木谷はそれでいいの?俺がいやだって言ったら別れるの?」
「……別れたくなんかないけど、こんなこと聞いたらいやになるんじゃないかなって」
友永くんは煮詰まっていく鍋の火をカチッと消した。
「俺は……木谷がすきだよ。今の木谷があるのは今までの木谷の人生があったからこそだろ。それを聞いて嫌いになるなんてあり得ない。できることなら過去に飛んでその頃の木谷と友達になりたいよ」
「うん」
こらえていた涙が込み上げてくる。
「セックスしたいからこんなこと言ってるんじゃないからな」
「え?」
私は泣き笑いになって友永くんの顔を見る。
「なぁっ、ダニャン」
照れ隠しなのか、友永くんは心地よさそうに目を閉じていたダニャンを抱き寄せて膝の上に乗せる。
「ニャアッ」
不服そうな鳴き声を上げて友永くんの膝におさまるダニャン。
「こんな私でもいいの?」
「そんな木谷がいいんです!!」
翌朝、ザラザラの舌で顔を舐められて目が覚めた。すごい目覚まし時計だな……と思ったら、ダニャンが「おはよう」と言わんばかりに「ニャア」と鳴いた。
友永くんはすやすやと眠っている。
服の上からじゃわからなかったけど、友永くんの肩はしっかりとして頼もしい。その肩に布団を被せ、私はベッドから起き上がった。
ダニャンがニャーニャー言いながら餌置き場に先導する。
「お腹空いたんだね」
キャットフードをお皿に入れると、すごい勢いで食べ始めた。
ダニャンのお水も入れ替える。
心の中で、昔の私がにこっと笑った。