プロローグ(2)

エピソード文字数 4,090文字

「コングラチュレーション! コングラチュレーションっス!」

 パチパチパチっと拍手をしたリリウさんは、そんな祝福の言葉を投げかけてきた。

「おめおめっス! アナタはワタシが管理している次元で、7777777番目に誕生日のプレートに不手際があった人っスよ!」
「……それ、全く嬉しくないんだけど……。むしろ腹が立つ」

 つーか、そんなにミスされた人がいるのかよ。どの世界のケーキ屋にも、正島堅斗君な方がいらっしゃるんですね。

「おっと、そうムカチンとしないでっス。記念として、キミには細やかなプレゼントがあるんスよ~」
「プレゼントぉ? なにくれるの?」

 スカイ&シー関連の品だったら、ゴミ箱にポイする。さあどうなるかな?

「プレは、二つあるっス。とっても嬉しい方とそれなりに嬉しい方、どっちからゲットしたいっスか?」
「んー。じゃあ、とっても嬉しい方からにする」
「了解っス。ではではこちらの、スカイ&シーで使えるアイテムが貰えちゃうコードを――」
「ゴミ箱にポイ!!

 紙幣サイズの紙をぶんどり、丸めてゴミ箱にぶち込んでやった。
 ちなみにこのゴミ箱は高知が誇る清流・『四万十川(しまんとがわ)』と鮎のイラスト入りで、鮎が『ゴミはゴミ箱に捨てて欲しいアユー』と仰っている。鮎さん鮎さん、ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てましたアユー。

「わあああああああああっス!? これ超レアなんスよ!?
「人間界にそんなゲームはないんだよっ! こんなのをセレクトするな!!

 目の前の机に拳を落とし、非常に力を込めてがなる。
 こいつは、あれだ。昔クリスマス会のプレゼント交換で悪友(男)に貰った、『オレと一日デートできちゃうチケット』張りにくだらないぞ。

「…………ショック、ス……。喜んでくれると、思ったのにっス……」

 イライラしまくっていると、リリウさんは肩を窄めてショボンとなった。

「……それ、ワタシのとっておきだったんス……。でも、嬉しくなかったっスか……」
「うん、ぶっちゃけ1ミクロンも嬉しくなかった。が、これはいけないわな」

 俺はゴミ箱に腕を突っ込み、ガサゴソやって紙を回収。お次はソレをアイロンで丁寧に伸ばし、両手でお返しする。

「リリウさん、雑に扱って悪かったです。気持ちだけ受け取っとくんで、これはアナタが使ってください」
「ぅん……ス……。そうするっス……」
「ほら、ケーキ食べなよ。チョコプレートも付けるからさ」
「……ありがとーっス。あむあむ」

 ナイフで切って皿とフォークを用意すると、潤んだ瞳を擦ってパクパク。新鮮な生クリームとふわふわのスポンジが売りの、大人気な一品を食す。

「ここのは、美味しいって評判なんだよ。お口に合いますか?」
「ケーキもチョコも、美味っス。……キミ、やさしーっスね」

 神様は、屈託のない顔になってにへらと笑う。
 え、なに? なんでこの神様、幼児っぽくなってんの?

「この程度は普通で、これはお詫びだよ。やり過ぎちゃったからね」
「ううんっス。平然とそう言えちゃう人が、優しい人なんスよぉ」

 神様は俺の隣にやってきて、再度にへらと笑いハグをしてくる。
 だーかーらー。なんでコイツは幼児っぽくなってるんだ。

「アンタ、神様なんでしょ? もっとしっかりしなさいな」
「神様だって、女の子っスよぉ。普段はお仕事が大変だから、たまには甘えたくなるっスぅ」
「……ふむ。神ってのも大変なんだね」

 人間でも、仕事で相当苦労してるんだ。次元を管理するとなると、もっともっと疲れるんだろうな。

「ねえ。いつもは一日何時間くらい、どんなお仕事をしてるの?」
「朝の九時から正午まで、担当している次元の監視をしてるっスよ。そのあとは、部屋に籠ってネトゲっスね」
「てめぇ世の中舐めんなよ!? 3時間しか働いてないじゃねーか!!

 甘やかすのはもうヤメ。俺はヤツの脳天にチョップを打ち込み、突き飛ばして元の位置に戻した。

「オメーはとっとと帰って世界に貢献しろ。ですから可及的速やかに、『それなりに嬉しい方』というプレゼントを発表してください」
「ぇ~っス。キミを気に入っちゃったから、もっと甘えたいっスぅ」
「リリウさん――いや、リリウ。逆らったら、コードが書かれたその紙を破るぞ」
「アイアイサーっス! 言うコト聞きますっスっ!」

 マジな目付きで睨んだら、ビシッと敬礼した。
 そうそう。それでいいんだ。

「はぁ。んで、なんなの?」
「二つ目のプレゼント! それは、なんでも一つだけ願いを叶える、っスよ!」

 そっかぁ。もう一方は、願望の実現かぁ。
 相変わらず、神さんの思考回路は謎ですね。アイテムのコードより、こっちが何億倍も嬉しいんだけどなぁ。

「さあっ、遠慮なくお申し付けくださいっス! さあさあ早くっス!」
「急には無理だって。ちょっと待ってよ」
「おっと、それはできないっス~。なぜならそろそろ、滞在終了のお時間っスからね」

 彼女が左右の人差し指をクロスさせると、おぉぅ。リリウの身体が透明になり始めた。

「いやはや、危なかったっス。ド忘れで、世界が大変なコトになるトコだったっスよ」
「は? 世界が、大変……?」
「神様が地上人にテレパシーを送り過ぎたり地上に居過ぎたりすると、色々問題が発生するんスよ~。そのうち、全世界がリセットされちゃうっス」
「さらっと怖いことを言うな! あーもうっ、マッハで考えますよ!」

 願い事……。願い事……。うーん……うーん…………うーん………………。

「ど~っスか? 決まりましたっスかね~?」
「………………よし決まった! 俺を、魔法使いにしてください」

 魔法が使えたら傷付いた人を治せたり、悪い人間を簡単に倒せたりするのだ。
 れれれ? 僕、意外と真面目だな。

「リリウっ。俺の願いは、魔法使いにしてくれ、です」
「ぇっス? なんスか?」

 神様は、やや前傾姿勢になって眉を顰めてる。うそっ、目と鼻の先にいるのに聞こえてないのっっ?

「魔法使いだよっ! 魔法使いっっ! ま・ほ・う・つ・か・い!」
「…………帰還の準備に入った影響で空間が急激に歪み、その歪みが安定するまでは音を拾いにくくなるんスよね~。大きな声でお願いするっスよ」
「こちらの希望は、魔法使い!! 俺を、魔法使いにしてください!!

 思いっきり息を吸い込み、近所迷惑を憚らず大呼する。
 どう? これなら届いたよねっ?

「ほほぉ~、っス。渋いトコを突くっスねぇ」

 リリウは感心したように顎を引き、グググッ! なんでか、無駄に力強くOKサインを出す。
 よっし、とにかく届いた。あとは速やかに力を宿して、帰ってくれ。そんでもう二度と来ないでください。

「タイムリミットまで、五分しかないっス。パパッといくっスよ~」

 それ、結構あるじゃん。消えだすの早くない? なーんて思っていると、彼女は真剣な顔になった。

「…………こほん。ワタシリリウは、この者の願いを叶えるっス。※※※※※※※※※※※※※※!!

 彼女は聞き取れない不可解な言語を発し、それが終わると――っ! 俺の身体が発光する。
 その輝きは、まるで太陽の如し。異常とも言える明るさが一瞬にして視界を覆い尽くし、およそ4秒後にその光は消えた。

「はいっ、これで完了っスよ。細かい部分はこっちで調節してるんで、右手を前に突き出してくださいっス」
「お、おう。了解です」

 よく分からないが、とりあえず指示に従う。
 右の手を、前。こうしとけば、いいんだよね。

「なあ、リリウさんや。これって、どういう意味があるの――おわっ!?

 突如右の手の甲に、『☆』が何個も重なった刻印が出現。更に目の前には、直径2メートルはある魔法陣が現れた。

「ぇ? へっ? へっっ?」

 ポカンとなっていると、その陣が床から天井へと真上に動き――


「ここ、は……? どこ……?」
 眼前に、漆黒のゴスロリ服を纏った美少女が現れた。


「な……。なぁ……っ」

 ブロンドよりも金に近い、左右で二つに結わえられた長い金髪――。
 冷たさと威厳を孕み、闇の如く黒い光彩を宿したツリ目――。
 白磁のように白くてキメが細かい、見つめることでさえも罪と感じてしまう程に美しい肌――。
 身長は155センチ程度なのに、圧倒的な存在感を放つ肢体――。
 やや高めではあるが冷酷な色しかない、極悪非道の暴君を連想させる声音――。
 そんな少女が、数十センチ先に顕現したのだ。

「うっし、召喚完了っス! お疲れ様っスよっ」
「ちょ、おい。この方誰?」

 わけが分からん。魔法使いと関係がある御方なのか?

「ぇ~、なに仰ってるんスか。ここにいるのは、『魔王(まおう)』っスよ」
「は? 魔王って、物語とかに出てくるあの魔王?」
「そうっス。ゲームやアニメによく出てくる、あの魔王っスよ」

 ですよねー。そうなりますよねー。

「…………なあ、リリウさん。そんな存在が、どうしてここにいるの?」
「そりゃあ、色紙さんが希望したからっスよ~。今回は大サービスで、ワタシが契約を結び異世界から召喚したんス」

 契約? 召喚?

「お、おぃ。俺、魔王と契約したの?」
「? そうっスよ?」
「?? アンタは何故(なにゆえ)、『当たり前でしょ』って顔をしてるんだ?」

 ワケがわからない。あのお願いと魔王との契約、何が関係あるの?

「もーっ、さっきからどうしたんスかぁ? 自分で願ったじゃないっスか~」

 脳内がクエッションマークだらけになっていると、神様はアイドルみたく右方向にクルリと一回転。それを終えると満面の笑みを浮かべ、ゴッド様はこう仰られた。

「ワタシは願い通りにキミを、『魔王使い(まおうつかい)』にしたっス。だから、魔王を使えるように喚び寄せたんスよ」
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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