本編

文字数 842文字

 奴の右腕が動こうとした時、俺は撃鉄を起こしていた。
 耳を(つんざ)く銃声。その僅か数コンマ後に奴の身体が吹っ飛び、砂煙舞いたつ乾いた街に倒れた。
 歓声が挙がる。街の住人だった。
 口々に、俺の名を呼び称える。

「ジェシー最高だ」
「ジェシー・クランスこそ、最速のガンマンだ」

 俺は相棒のオリヴィア二世を掌で弄んでホルスターに収めると、観衆に向かって肩を竦めた。
 よせやい、本当の事を言っちゃ冗談にはならねぇもんだ。
 倒れた男は、大鼻(ビックノウズ)のカーストン。このセブンスポイントを牛耳る無法者(ギャング)の親玉である。
 歳は五十二。死んだ親父と同じ歳だ。だからとて、何の感慨も無いが。
 大鼻(ビックノウズ)のカーストン。元はトゥーラン牧場の牧童(カウボーイ)だったという。だが、先の戦争で良心というものを忘れてきたのか、戦後は牧場主を撃ち殺すと、そこを根城にして子分二十五人を抱える首領(ボス)と化した。
 それも、これからは過去形で語られる。この三日で、二十五人の全員撃ち殺したのだ。
 仕事だった。子分一人で金貨五枚。カーストンは、金貨五十枚。依頼者は、この街の住人で、わざわざ俺を探し出し、依頼したのである。

「あんたしかいない。街を救ってくれ」

 殺し文句だった。男を(くすぐ)られたのだ。俺は二つ返事で引き受け、今カーストンは倒れている。

「まだ、勝負は決しちゃいねぇぜ、街の衆」

 俺は、燐寸(マッチ)革靴(ブーツ)で擦ると、葉巻に火を着けた。そして、倒れたカーストンに歩み寄る。銃は手から離れているのは確認済みだ。
 元首領は、赤い髭面を俺に向けた。鳩尾を押さえ、苦痛に顔を歪めている。
 葉巻の煙を吐く。甘ったるい臭い。南部バージニア産の煙草だ。この匂いを嫌う奴もいるが、俺にはこれが堪らない。

「腹か。胸を狙ったのだが」

 呟き舌打ちをすると、カーストンが微かに笑った。

「まぁ、笑われても仕方ねぇわな」

 オリヴィア二世を抜き、カーストンの眉間に突き付けた。

「言い残す事は?」

 俺は訊いた。

(ファック)
「他には?」
(ファック)だ」
「上等だぜ、悪党」

 俺は低く笑うと、撃鉄を起こし、引き金を引いた。

〔了〕
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