最終話 夢は続くよどこまでも
文字数 2,250文字
ドアが開くやいなや、私たちは弾丸のように飛び出し、ゴールへ向かって一目散に走り出しました。
残された時間はほとんどありません。
飛ぶように階段を降り、忍者のように人波をすり抜け、手を繋いだカップルは容赦なく弾き飛ばし、迷路のような博多駅の構内をゴール目指して全力疾走で駆け抜けて行きます。
そして、ようやくスタジオテラス広場の入り口に辿り着き、そのドアを開いた瞬間、午後七時を告げる鐘が広場に鳴り響きました。
私たちは何とかギリギリ、ゴールに間に合ったようです。
気力体力の全てを使い果たし、四人ともその場にへたりこんでしまいました。
そう言ってやっとこさ立ち上がり、他のチームが整列している場所へ歩いて行こうとしたその刹那。
不意に視界がぐにゃりと歪み、全身のチカラが蒸発したように消え失せ、私は膝から崩れ落ちました。
そして、そのまま意識を失ってしまったようです。
どうやら大丈夫みたいだよ。
あら、ありがとう。
……。
……ん?
はっ!
そしてあずさが悲しそうな顔で視線を落としました。
私たちは駅員さんにお礼を言って、救護室を出ました。
そこには、三原ひかりさんと火の山女子学園のみなさんが立っていました。
三原さんは優しく微笑み、火の山女子学園チームのみなさん揃って拍手で讃えてくれました。
駅ビルの会議室で行われた懇親会で、私たちは参加チームのみなさんと沢山お喋りしました。
最近は様々なメディアで取り上げられる機会も増えてきたとはいえ、世間一般的にはまだまだ稀少種の鉄道女子。
普段なかなかできない鉄分豊富な会話に心も弾みます。
三原さんとのお話で分かったのですが、実は火の山女子学園もドクターイエロー出現の可能性には気が付いており、博多駅のホームでその到着を待っていたそうです。
しかし、時間の猶予ギリギリまで待った挙げ句、現れたのはドクターイエローより後に到着するはずのこだま875号。
そう、私たちが乗っていた列車です。
それでドクターイエローの撮影を諦め、ゴールに向かったそうなのです。
もしもドクターイエローが本来のダイヤ通りに運転していたならば、優勝は火の山女子学園チームだったのです。
由布院で私たちを翻弄した雨が、最後の最後に味方してくれた、ということですね。
全く何が幸いするか分からないものです。
みんなの気持ちが天に通じたのかもしれませんね。
さて、あやめちゃんが『優勝の舞』を披露するなど、和気藹々と楽しかった懇親会ですが、その最後に優勝チームの代表として、私が挨拶をすることになってしまいました……!
あの、緊張し過ぎて吐きそうなんですが……。
ええい、女は度胸だ!
──私はこの旅を通じて、大切なことを沢山学びました。
九州の自然の豊かさ、美しさ、強さ。
九州の人の温かさ、地域ごとの食文化の多様さ。
そして、最後まで諦めない心と、共に歩む仲間との絆。
本当に素晴らしい旅ができました。
全国選手権では、九州代表として、みなさんの分まで精一杯頑張って、必ずゆうちょっ、優勝してきます!
八月、夏休みも終わりに近付いた頃、東京を拠点に全国女子高校生レールアスロン選手権が開催されました。
九州地区代表、竹田清峰高校チームは健闘及ばず、惜しくも三位に終わってしまいました。
全国制覇、そして英国旅行の夢は幻と消えましたが、私たちには未来があります。
夢叶うまで、何度でも挑戦してやるのです。
私たちの夢の旅は、この二本のレールのように、どこまでも果てしなく続いていくのです。