新羅本紀第一 赫居世居西干

文字数 1,947文字

 古朝鮮が滅んでから、遺民たちは山間に六つの共同体を作って暮らしていた。閼川楊山村、突山高墟村、觜山珍支村、茂山大樹村、金山加利村、明活山高耶村。辰韓の六部だ。

 蘇伐公は高墟村の長だった。
 その日、蘇伐公が楊山の麓のあたりをながめていると、蘿井近くの木々の間にうずくまって苦しそうにする馬が見えた。近くまで行ってみたけれど、馬はいない。代わりにあったのは大きなタマゴだ。その中から男の子が出てきた。赫居世の誕生だ。

 蘇伐公に拾われてから十年と少し、赫居世は大人びた賢い子に育った。生まれのことは知られていて、六部の人たちから神様のように敬われた。それで彼らの王に選ばれた。国号は徐那伐。前漢孝宣帝の五鳳元年、四月丙辰のことだ。この時、赫居世は十三歳だった。
 辰韓の言葉では瓠のことを朴という。赫居世が生まれたタマゴは瓠のようだったから、朴姓を名乗った。それから王のことを居西干という。だから書物には赫居世居西干と記されている。

 四年、四月辛丑、日食が起こった。

 その昔、閼英井に龍が現れた。龍の右脇から女の子が生まれ落ちるのを老婆が見ていた。きっと特別な子だ。老婆は女の子を育てることにした。女の子は閼英と名付けられた。名前は井戸に由来する。
 五年、正月、成長した閼英は淑やかできれいな女性になっていた。そのうわさは赫居世にも伝わって、王妃に迎えられた。閼英は自分の役割をよく理解して、赫居世の支えになった。辰韓の人々にとっても自慢の国王夫妻だった。二聖。そう呼ぶようになった。

 八年、倭人が国境地帯に攻め込んできた。しかし赫居世のことを知り、彼らは撤退していった。
— 赫居世、あいつはホンモノだ。手を出していいヤツじゃない
 倭人たちもそう思ったらしい。

 九年、三月、王良に彗星が現れた。

 十四年、四月、参宿に彗星が現れた。

 十七年、赫居世と閼英は六部を巡行した。各地の領民を激励し、農政指導を行った。

 十九年、正月、卞韓国が帰順してきた。

 二十一年、金城を建設した。辰韓国の都城だ。
 同年、高句麗で始祖東明聖王が即位した。

 二十四年、六月壬申、日食が起こった。

 二十六年、正月、金城内に王宮を造営した。

 三十年、四月乙亥、日食が起こった。
 楽浪の軍勢が攻め込んできた。ところが彼らの目に入ったのは、夜でも戸締まりをしない人家や置きっぱなしの家財。誰ともなく感心の言葉が出た。
— 他人のものに手をつけるヤツがいないんだろう。いい国じゃないか。これじゃあオレたちがただの泥棒だ。格好悪ぃ
 楽浪軍は撤退していった。

 三十二年、八月乙卯、日食が起こった。

 三十八年、二月、瓠公を馬韓国に派遣した。
「もう何年も貢物が納められていないが、自分たちの立場を忘れたか? それとも、それがオマエたちの礼か?」
 馬韓王は瓠公を叱りつけた。瓠公も黙ってはいなかった。
「二聖を迎えて我々は変わったんですよ。辰韓王は優れた指導者だ。天の祝福を授かってもおられる。飢える者はいなくなったし、礼節を修めるようにもなった。だからこそ、六村の遺民だけでなく、卞韓・楽浪・倭の人々からも敬われているんです。しかし、我が陛下は謙虚なお方だ。貴国との友好のために下臣を遣わされた。下手に出てやってるんですよ。必死ですね、馬韓王。それで脅しですか? 何様のつもりです?」
 馬韓王は激怒した。瓠公を殺そうとしたが側近たちに止められ、結局、そのまま帰国させた。

 かつて秦の暴政に苦しんだ人々が東方に逃げ込んだ。その多くが馬韓東部に住み着いて、この頃には辰韓人と雑居するようになっていた。馬韓王の敵意が強かったのもそれが原因だ。
 瓠公の出身氏族はわかっていない。倭人だったということだ。腰回りに瓠を結びつけて海を泳いできた。それで瓠公を名乗った。

 三十九年、馬韓王が薨去した。前年、馬韓王が挑発してきたことに辰韓人たちは苛立っていた。
「いい機会だ。馬韓を叩いてやろう。今なら余裕で勝てる」
 そんな声も上がったけれど、赫居世は聞き入れなかった。
「オレを悪者にする気かよ。他人の不幸につけこむのはナシだ」
 そうして弔問の使節を派遣した。

 四十年、百済の始祖温祚王が即位した。

 四十三年、二月乙酉、日食が起こった。

 五十三年、東沃沮から使者が訪れた。
— 南韓に凄ぇヤツが現れたっていうから来た。こいつはウチのオヤジからの進物だ
 使者は良馬二十頭を献上していった。

 五十四年、二月己酉、河鼓に彗星が現れた。

 五十六年、正月辛丑、日食が起こった。

 五十九年、九月戊申、日食が起こった。

 六十年、九月、金城の井戸に二頭の龍が現れた。すぐに雷雨になった。金城の南門が震えるほどだった。

 六十一年、三月、赫居世が薨去した。曇巌寺の北にある虵陵に埋葬された。
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