1-1-序〜親子の旅路にて〜

文字数 1,483文字

 彩やかな木々が広がる夕焼けの下...。
 赤みを帯びた葉が枝からぽろりと落ちて、吹く風に乗って刹那の旅に行く...。
 その葉の旅の終点は、優しく差し出した少女の手の平のようだ。
 少女は、葉柄(ようへい)の部分を右手でつまみ、指先でくるくると転がす。

 この少女は、名を汐鸞(セキラン)といい、病弱で外にあまり出たことがない。
 ましてや、この季節の木々を見ることさえ初めてなのである。
 汐鸞(セキラン)は、母親と汐鸞(セキラン)の兄である少藍(ショウラン)が引いている木製の荷車に載せられ荷物に寄っかかっている。

 すると急に空が暗くなり、雨がざーっと降る。
 少藍(ショウラン)は荷車の隅にある傘を引っこ抜き、荷台に登って汐鸞(セキラン)に差し出す。
(セキ)。傘持てる?」

「うん...。持てるよ。ありがとう」
 汐鸞(セキラン)は傘を受け取る。
 母親は荷物の下敷きになっている防水性の皮を取ろうとするため、取っ手の部分と荷台の輪をぬけ、横に回ろうとする。

 少藍(ショウラン)は、母親の姿を見て、
「お母さん!うしろ!」
 すると、一瞬にして母親の首に赤黒い闇が巻き付き、脚は半分ほど赤黒くドロドロした液体に溶け込んだ。
 母親の後ろ側には、一瞬にして赤黒い闇に包まれた世界に代わり、地面は赤黒い液体のようなものが荷車の車輪すれすれまで来ている。
 汐鸞(セキラン)もその事態に気づき、恐れ(おのの)く。

 母親は力を振り絞り、
少藍(ショウラン)...。汐鸞(セキラン)...。先に行ってなさい...」

 汐鸞(セキラン)は、涙を流しながら、
「嫌だよ...。お母さん...」

 母親は、少藍(ショウラン)の方を見て、声を振り絞り、
「あなたは...強いから...私が...いなくても...大丈夫よ...」

「お母さん!!」
 少藍(ショウラン)は、立ち上がって母親がいる側に手を差し伸べる。

 すると、少藍(ショウラン)の右耳から、「そなた、怖くないのか?」という優しい声が聞こえ、手を下ろし横を見る。
 右側に光をまとった紳士がいるのである。
 もう一度、「怖くないのか?」と問われ、少藍(ショウラン)は、「怖くない」と答える。

「ほう。面白い」
 すると、横にいる柏麟(ハクリン)は、少藍(ショウラン)の右腕を真っ直ぐになるように持ち上げた。
「手を広げて、前に向けてみよ。」
と言われたので、少藍(ショウラン)は手の平を前に向ける。
 すると、柏麟(ハクリン)の支えているところから、少藍(ショウラン)の腕に光る水のようなものが巻きつけられて、手の平の前に大きな光の玉ができる。

 柏麟(ハクリン)は、少藍(ショウラン)の腕の支えを外し手の甲に、左手を添えて、光の玉を押し出す。
 すると、光の玉は、滝となり地面へ落ち、瞬時に大河となった。
 その川の真ん中の部分が母親の後ろへ回り込み浮き上がり、他はそのまま真っ直ぐ勢い良く流れる。浮き上がった水は(むち)となって母親に巻付いている赤黒い闇を打ち、砕けて消滅した。
 すると、赤黒い闇は消え去り、元の風景よりも山々が美しくなったように見える。
 そして、巨大な青い円盤のようなものが何層にもなり、地面に収納されていった。

「主様。こちらを...」
 
「間違いなく、我の神殿の破片...」
 神殿に祀られている神は、その神殿の周りの状況をある程度知ることができる。
 しかし、管理されていなかったり壊されたりすると、その情報を知ることはできない。
「我の神殿を荒らし、連絡を途絶えさせ、我の神殿の近くに居座るとは、我への宣戦布告か...」
「ほお。いい度胸だな」

「だが、星命(セイメイ)。慎重に行動せねば」
「下界の者達も巻き込んでいるのだからな」

「承知しました」
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注釈
葉柄(ようへい):葉の一部で、葉身を茎や枝につないでいる細い柄の部分。
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