第3話 他人の幸福と自分の幸福

文字数 22,549文字

インヴィジブル・ファング
他人の幸福と自分の幸福





   どんな不幸のなかにも幸福がひそんでいる。どこに良いことがあり、どこに悪いことがあるのか、我々が知らないだけである。                           

ゲオルギウ



































































            第三牙 【 他人の幸福と自分の幸福 】









































  「・・・ってことらしいけど、合ってるのか?都賀崎?」

  「・・・・・・。そうだな。その場に居合わせたわけではないから何とも言えんが、そんな感じだったんだろう。まあ、そこはどうでもいい。俺が頭を下げた話は何処へ行った。あれについて俺は聞きたいんだ。なぜそれで恨んでいる。」

  「えーっと・・・。」

  ミラーの様子を窺うようにそーっと視線を合わせると、ミラーはシャルルとは違って特に眉間にシワを寄せることも舌打ちをすることもなく、友也と目を合わせる。

  普通の会話なら簡単に終わるのだろうが、聞いたことをまたシャルルに伝えると言う、二度手間が友也をさらに疲労させる。

  徐々に耳鳴りに襲われ始めた友也だが、ミラーの言葉を逃すまいとなんとか耳を傾ける。

  「覚えてるらしい。それに、都賀崎に恨みがあるわけでもねぇって言ってるけど・・・。」

  「・・・・・・不可思議だな。怪奇だ。ならばなぜ貴様は俺を狙っている。」

  「えーと・・・?こいつ的には、狙ってたつもりはないらしいぞ。ただ、都賀崎を恨むのはお門違いだって知ってるからこそ、それでもまだ治まらない怒りに、自分なりに決着って言うかけじめをつけたいんだってよ。」

  「お前はさっきから自分の言葉で話しているな。俺の言ったことを忘れたのか。・・・まぁ、結局貴様はまだ完全に赦したわけではないということだな。それで、俺と勝負をして・・・成程な。わかった。なら話は早い。今から勝負だ。」

  言い終わるが早いか、シャルルは座っていた石から軽めにジャンプするように立ち上がると、ミラーの返事も聞かずに勝負の準備を始めた。

  手始めに何をするのかと見ていると、何よりも先にジキルとハイドを避難させた。

  その後、光とミシェル、他の魔女たちにも避難をさせると、最後の最後に友也に避難するようにと簡単に言っただけであった。

  モルダンがミシェルの許からシャルルの方に近寄って行くが、シャルルが今までにないほどキツイ目つきでモルダンを睨みつけた為、モルダンは上げた前足をピクッとその場で停止させた。

  友也に連れられてミシェルに戻されると、モルダンはただニャーと啼いた。

  傷を負っているシレ―ヌとファウストも仕方なく避難はさせたが、ミラーの事が相当気になるようで、身体のほとんどを隠すこと無い状態で息を呑んだ。

  「遠慮は無用だ。ああ、殺したいほど憎い相手に遠慮もないか。」

  「・・・・・・。」

  ゆっくりと動き始めたミラーは、マントをバサリと動かし瓜二つのシャルルへと姿を変えると、風邪を切る様にしてシャルルに向かって牙を向ける。

  闇夜にギラリと光るその光を見ると、シャルルは不敵な笑みで同じように牙をむき出しにする。

  ミラーの牙がシャルルの首を掠めたかと思うと、空いている手でシャルルの腹を抉る。

  だが、そのミラーの攻撃を足で止めると、シャルルはその足を重心にしてひらりと宙を舞う。

  空中では見動きは出来まいと、ミラーも脚力とマントを使って空中に飛び、シャルルの背後に回り込もうとする。

  自分の目の前に来たシャルルの項を確認した後、ミラーは牙で噛みつく。

  正確には、噛みつこうとしただけであって、実際にシャルルに噛みつくことは出来なかったのだが。

  それは、シャルルがマントを広げて風の向きを変え、身体を反転させてミラーの背後に回ったからだ。

  そんなシャルルを無表情で眺めているミラーに、何の攻撃もしないシャルルはため息を吐く。

  「貴様、それで俺を殺せると思っているのか。」

  「・・・・・・。」

  何も答えないミラーだが、先程までにはない殺気を出していることからも、シャルルを殺そうとしていることは理解出来る。

  単に運動不足なのか、それともシャルルを馬鹿にしているのか、ミラーは全くといっていいほど戦闘には向いていない。

  それから何度も何度もシャルルとミラーの攻防は行われたが、有利不利もなく、ミラーの攻撃をシャルルは受け流しているだけなので、傍から見れば遊んでいる様にも見える。

  ふと空気が一変したのは、二人が戦い始めてから数十分経った頃・・・・・・。

  ミラーがシャルルの肩を掴み取り力を入れて折ろうとすると、眉をピクリとも動かさないシャルルが、無言でミラーの首を掴んだ。

  急に肺に入ってくる空気が薄くなってきたことで、ミラーは自分の今の状況を知る。

  「・・・どうした?俺を殺すんだろう?」

  「・・・・・・。」

  「貴様の俺に対する恨みは、その程度のものだったのか。本気で殺すほどでも無かったのか。それなのに他の奴らまで巻き込んで、ここまで大事にしたというのか。ガキのやることだな。」

  シャルルの言葉に、ただ浅く呼吸を繰り返すミラー。

  「俺に復讐すると決めたなら、腹括って俺を殺す心算で来い。中途半端な気持ちでいても、俺には傷一つつけることは出来ない。」

  押し返す様にしてミラーを解放すると、ミラーは自分の首元を摩るわけでもなく、シャルルを見て規則正しい呼吸をする。

  目を閉じて精神を統一させると、ミラーはゆっくりと目を開けてシャルルを見据える。

  肌がピリピリとした空気を感じ取るのと同時に、ミラーの殺気を感じ取ることが出来た。

  「そうだ。それでいい。」

  地を這うような低音でシャルルが口を開くと、ミラーがヴェアルの姿になってシャルルの許に勢いよく飛びかかってきた。

  ヴェアルの脚力を知っているシャルルは、空中にひらりと飛んで攻撃をかわす。

  だが、シャルルが避けたのと同時に、今度はシレ―ヌに変身したミラーは、水で通路を作りそこを通って空に舞うシャルルに近づいた。

  人魚の水泳速度は速かったが、シャルルは迷わず水に突っ込んでいき、ミラーを蹴飛ばす。

  地面に向かって蹴り落とされたミラーは、今度はミシェルに姿を変えて、自分が落ちるであろう場所にマットを出現させた。

  そこにスポッと落ちると、そのままファウストに変身して再びシャルルに向かって行った。

  時間が幾ら経っても、ミラーがシャルルに触れることは出来ない。

  軽く避けているだけのシャルルに対し、相当動き回っているミラーだが、呼吸も乱れること無く、動きも鈍くなることはない。

  「・・・・・・。そろそろ決着をつけるか。」

  スタン、と地に足をつけながらシャルルが言うと、ミラーはまたシャルルに姿を変えた。

  「ドッペルゲンガーの平均寿命は、確か二十五年。」

  「二十五年?そんなに短いのか?」

  ずっと草陰で二人の戦いを見ていた光が声を出した。

  「その一方で、ドッペルゲンガーには“死”が存在しない、という説もある。」

  「どっちなんだよ。」

  「俺が知るか。死神の寿命も定かではないんだ。ドッペルゲンガーにも寿命が無いという考えの方が納得いく。命を与えられた者には“死”が待っている。それは“生”の終着点であり、誰もが恐れる通過点だ。だが、“死”を与えられることによって、“生”を感じられる。死神やドッペルゲンガーといった“死”を告知したり命を奪う存在は、自らは死を選ぶことが出来ず、また与えられもしない。永遠の命を持ちながら、永遠に死を報せなければいけない。幸か不幸か、それが生まれながらに与えられた任務であり、命なき命だ。」

  一歩、一歩、ゆっくりとミラーに近づいていくシャルルは、眉間にシワを寄せて言い放った。

  「哀れな奴だ。」

  ヒュンッ、と風が通り過ぎていったかと思うと、いつの間にかミラーはシャルルの目の前にいて、シャルルの首を両手で強く握りしめていた。

  徐々に細くなっていくシャルルの首では、口や鼻から入った酸素を肺へ送り出すことが出来ているのだろうか。

  至近距離で自分そっくりの顔を眺めているシャルルは、同じようにミラーの首を掴んだ。

  「どうした?同情でもしてほしかったのか?そんな存在に産まれてきて可哀そうだな、と。それとも、親身になって人生相談でもしてほしかったか。」

  「・・・・・・。」

  一向に何も言わないミラーに、シャルルは首を掴む力を強める。

  「甘ったれるな。ドッペルゲンガーに産まれようが死神に産まれようが、狼男に産まれようが魔女に産まれようが人魚に産まれようがブラックドッグに産まれようが、吸血鬼に産まれようが人間に産まれようがな、貴様はどうせ自分の存在を恨んだ。産まれてくる存在を選ぶことは出来ないんだ。綺麗な花に産まれようとも、枯れなければ愛でられない。雑草に産まれようとも、アスファルトをも貫く強さを持ち、踏まれてより強くなる。俺達は貴様と違っていつか死ぬ。だが死ぬことを恨むことは出来ないし、恨む奴は多分いない。死ぬまで生きて、死ぬその時まで自分の存在を証明し続ける。死ぬにしろ死なないにしろ、貴様は貴様の納得のいくように生きろ。次々に知ってる奴が死んで行って孤独になっても、また新しい出会いがある。そいつらがまた死んでも、次また新しい出会いがある。貴様は繰り返される生と死を愛し、産まれてくる命と死んでいく命を見守り見届けなければいけない義務がある。自分は不幸なんだと悲観する前に、自分のやるべきことを全うしろ。」

  互いに指先の力を弱めて手を離すと、首には圧迫した跡が微かに残っていた。

  僅かに表情を変え、明らかに怒りを孕んだミラーの顔を見ると、なぜかシャルルは満足そうに笑った。

  「貴様にも感情があったとはな。」

  「・・・・・・。」

  一ミリにも満たないほど唇を開いたミラーだが、その口からは何も発することなく、また上下の唇を合わせてしまった。

  その様子を見て妖艶に笑ったシャルルは、真っ赤に染めた目を光らせ、歯の隙間から牙を覗かせた。

  瞬間、黒いマントが風に靡いて泳ぎ出し、シャルルの背中の月が不気味なほど蒼くなる。

  「俺は手加減しない。いいな。」

  「待て!都賀崎!!!」

  突然、友也が叫んでシャルルを止めるが、もうその言葉を聞く前に決着はついてしまった。

  向かい合っていたはずのシャルルとミラーは、一瞬にして背中を向け合っていて、ミラーは膝をついていた。

  顎を少しだけ引いてミラーに視線だけ送っていると、友也が草陰から乗りだしてきた。

  「おい都賀崎!待てっていっただろ!!?そいつはさっき、自分を殺してくれって頼んでたんだよ!そんなこと頼むそいつの気持ち、分かんねぇのか!?」

  膝をついたままピクリとも動かないミラーから友也に視線を移すと、シャルルは何事もなかったかのように無表情だ。

  そんなシャルルに苛立ちを隠せない友也は、シャルルに近寄り胸倉を掴みあげた。

  「お前がそんな冷酷な奴だとは思わなかったぞ!!」

  感情をむき出しにしている友也に対し、シャルルは平然としている。

  「・・・。貴様は馬鹿か。」

  「は!?何がだよ!?」

  「確かに、ドッペルゲンガーに寿命は無い。即ち“死”も訪れない。だがな、死なないのであれば、世の中にドッペルゲンガーが溢れるだろうが。それに、こいつの両親は死んでいるんだぞ。」

  「は???は?え?」

  「本には“死”はないと記載されていた。何百年、何千年と生きているからそう思われたのかもしれんが、こいつらにも“死”はあると俺は思っている。」

  「こ、根拠は?」

  「ない。」

  「は?」

  いつもであれば、ここぞとばかりに理屈や理論をズラズラ並べてくるシャルルが、今回に限って何も御託を並べない。

  それに驚いたのは友也だけでなく、ずっと近くでシャルルを見てきた光とミシェルも同じだった。

  「きっとドッペルゲンガーという存在は、自分の仕事を全て終えた時、“死”というものを迎えるのだろう。」

  「仕事って・・・?」

  「俺達に“死”を伝えることだ。それが全て終わらないと、こいつらはこの世から消えることは出来ないんだ。」

  ゆっくりと腕の力を緩めると、シャルルのくしゃくしゃの襟元が自然と目に入る。

  友也はそれに対して謝ろうとするが、シャルルが足早にミラーの方へと歩いて行ってしまったため、友也はただその背中を眺めた。

  「選ばれたドッペルゲンガーが、ずっと、一生、“死”を報せているのかとも思ったが、こいつに両親がいたことを思い出してな。残る可能性を考えた。死んだと言うよりも“消えた”という表現のほうが正しいのなら、任務を終えたらいなくなる、それだろうと思った。」

  ミラーの前にきて片膝を地面につけると、シャルルはミラーの襟元を掴み自分と目線を合わせた。

  心配したシレ―ヌとファウストもミラーへと寄ると、ピクッとミラーの肩が動く。

  瞼が徐々に上がって行くと、目の前にいるシャルルに多少驚いたのか、ミラーの目は一瞬見開かれた。

  「ミラー!大丈夫か!?」

  「ミラー様!」

  「気絶してたたけだ。言っただろう。こいつは仕事を終えるまでは死ねないんだ。」

  ミラーの胸倉を掴んでいるシャルルの腕を払うと、ファウストとシレ―ヌはシャルルを押しのけてミラーの顔を覗き込む。

  二回ほど瞬きをしたミラーは、ゆっくりと視線をあげる。

  それはファウストを見ているわけでも、シレ―ヌを見ているわけでもなく、自分を見下ろしているシャルルへと向かっていた。

  「なんとも滑稽だな。貴様が今まで何を見てきたのか、俺には理解しかねる。だがそれと同時に、貴様も俺の見てきた世界を知らない。その両者が互いを理解しようとした結果、こんな事態になった。他人を巻き込んでまで解決すべきことでもないのにだ。」

  「・・・違うわ。」

  シャルルの言葉を遮ったのは、横座りしているシレ―ヌだった。

  両手を地面につけて身体を支えているが、指を土に食い込ませているため、地面には指の跡が残っている。

  「私は巻き込んで欲しかったわ。もっと。ミラー様のことで知らないことがあるなんて・・・。ミラー様の問題は私の問題なの。」

  「そうだぜ。俺達は好きでミラーについてきたんだ。てめぇなんかにそれが分かるか!?」

  続いて叫んだのはファウストだ。

  ミラーの顔を見た後立ち上がったファウストは、ギロッとシャルルを睨みつけ、目前まで近寄って胸倉を掴もうとした。

  だが、その前に光が現れ、ファウストの手を止めた。

  「俺も同じだ。ミシェルもな。」

  出せるだけの力を出して光の手を振り払おうとしたファウストだが、どう足掻いても振り解けない光の力に、ただ睨みつけるしか出来ない。

  「確かに、これはシャルルとミラーの二人の問題であって、俺達には関係ないのかもしれない。・・・でも、俺はシャルルを尊敬してるし信頼してる。力になれることがあるなら、少しでも力になりたい。それはお前たちも同じだろう?」

  ファウストの腕を解放すると、光はシャルルの方を向く。

  「シャルルは確かに口は悪いし、上から目線で見下した言葉を言うかもしれない。でも、それがシャルルなんだよ。俺は、変わらないでいてくれることが嬉しい。ファウストとシレ―ヌだって、シャルルなら簡単に息の根を止められる。それをしなかったのは、シャルルは本来優しい奴だからなんだよ。争い事は嫌いで、何もせずにのんびりしてるのが好きな奴だ。」

  「ヴェアル、いい加減なことを言うな。戻っていろ。」

  「そうよ!シャルルは口も性格も悪いけど、面倒見だっていいんだから!!」

  「・・・・・・。」

  会話に参入してきたミシェルの肩にはハンヌが、そして腕にはしっかりと抱きしめているモルダンがいる。

  きっとモルダンを抱きしめているのは、放した瞬間にシャルルのところに行ってしまうと分かっているからだろう。

  そんなミシェルを、シャルルは肩眉をあげて目を細くして見ていた。

  「・・・俺は、いつ死ねると思う?」







  目の前にいるミラーからではなく、後方から聞こえてきた声にシャルルたちが反応を示す。

  そこには、忘れかけていた存在の友也がいた。

  「って、言ってる。」

  「・・・・・・。」

  決して友也の気持ちではないのだと分かると、言葉を発した人物の方へとその場にいた全員が視線を移す。

  未だシャルルを見つめているミラーと、目を赤く染めたシャルルの視線が絡まる。

  「言っただろう。貴様自身の任務を終えれば、死ねる。」

  「・・・えっと、今すぐだ。って言ってる。」

  「分からん奴だな。それは無理だ。」

  「・・・・・・お前ならなんとか出来るんじゃないかって。」

  「・・・はぁ。」

  ワザとらしく大きなため息を吐くと、シャルルは優雅に舞う髪の毛をガシガシとかき乱し、シレ―ヌとファウストをかきわけてミラーの胸倉をもう一度掴む。

  鼻が触れるほどに顔を近づけると、腹の底から出した様なドスの効いた低音を出す。

  「“死ぬまで生きろ”、俺はそう言ったはずだ。貴様の脳味噌はピーマンか?死ぬまで、つまり貴様の任務が終わるまで、貴様は生きなければいけないんだ。例え目を伏せたくなるほどのことがあっても、死ぬ以上に辛いことがあっても、何があってもだ!」

  珍しく声を張り上げたシャルルに、友也も光もミシェルも、みなが目を見開いた。

  「誰かが死んで悲しむということを、貴様もこいつらもよく知っているはずだ!それでもなお死にたいというなら、自分でなんとかしろ!他人の手を汚してまで自分の安楽の死を望むなど、愚か者の何ものでもない!希望も未来も無くても、生きなければいけないんだ!」

  今胸倉を掴まれている方が本物のシャルルなのではないかと疑いたくなるほど、シャルルの言葉はとても熱かった。

  そして、ミラーから顔を少し離して何をするのかと思いきや、反動をつけて思い切り自分の頭を衝突させた。

  ゴツンと鈍く重い音が鳴ると、ゆっくりとシャルルは頭を離した。

  二人の額からは微かに血が滲み出ていたが、そんなこともお構いなしに、シャルルは腕の力を緩めた。

  そのままドスンと地べたに座り込んだミラーを見下し、シャルルは再び口を開く。

  「産まれてきたことが自由でないように、死ぬこともまた自由では無い。勝手に死ぬなど赦されない罪だ。どんなに苦しいことがあろうとも、地べたを這いつくばって行かねばならない時もある。そうやって人間は生きているそうだ。俺達のような特別な力はなくとも、人生の充実度では人間のほうが勝っているのかもしれない。」

  「何言ってやがる!!人間なんぞ下等な生き物に、俺達が劣ってるわけねぇだろうが!!」

  ミラーに諭し始めたシャルルの言葉を、まるで土砂崩れのように掻き消したファウスト。

  お尻を地面につけたままのミラーの傍で片膝をつけ、シャルルのことを、殺気を孕んだ視線で睨みつけている。

  「てめぇは結局、人間の味方なのか!?俺達影の種族が、今までどんな想いでここまできたのか、忘れたとは言わせねぇぞ!!そもそもの原因はてめぇのじじぃなんだからな!!」

  ふぅ、と静かに息を吐くと、シャルルは夜空を仰ぐ。

  真っ黒な空に浮かぶ月は綺麗で、雲の隙間から小さく輝く星達は何光年先にあるのだろうか。

  時代や人の心は変わろうとも、変わらずにある希望がある。

  それは当たり前のものであるようで、決して当たり前ではないもの。

  一人物思いに耽っているシャルルに苛立ったファウストが、シャルルに殴りかかろうと立ち上がるが、その腕をミラーが掴んで止めた。

  「ミラー!こいつは何も変わっちゃいねぇ!!やっぱ今此処で始末するしかねぇ!」

  「そうよ!これ以上私たちを侮辱することは許さないわ!!」

  シレ―ヌまで加わり、二人がシャルルを狙い始めると、未だ夜空を仰いでいるシャルルの前に、光とミシェルが立ちはだかった。

  「ミシェル、先に行っておくけどよ、今日の俺は役立たずだぞ。」

  「知ってるわよ!」

  そんな会話が耳を通り抜けていく感覚を覚えながら、シャルルは顔をそのままに目を細めた。

  「・・・・・・実に綺麗だ。」

  ぽつりと呟いたシャルルの言葉に、光とミシェルを始め、その場にいた全員が目を見開いてぽかんと口を開けた。

  そこにツッコミを入れたのは、怪訝そうな表情の友也だった。

  「お前、頭大丈夫か?」

  「自然を愛でるのは当然のことだ。この世にある全ての命は尊い。だが、無限のものも存在する。空・海・雲・土・風・月・太陽・空気、まぁ色々とあるが、それらは人工物では表現出来ないものであり、表現出来ても愛おしさが異なる。歴史は塗り替えられてしまう、未来は幾らでも変えられる、その中で変わらないことがどれだけ貴重なことか。」

  遅い動作で顔を真正面に一旦向け、少し見下ろすくらいの位置にいるミラーに視線を移す。

  「変わらないものを愛することが出来、変わることもまた愛せる。命に永遠など存在しない。だからお前は“死にたい”などと口にした。移り変わりゆく命もまた、愛でるべきものだ。あの星のように一つ一つ輝き、瞬き、実に綺麗だ。」

  「・・・都賀崎、ロマンチストなんだな。俺、笑いそうになっちまった。」

  「貴様、後でその口を縫ってやるから待っていろ。」

  ギロリと友也を睨むと、シャルルはまだ足りないかと言いたそうにミラーを見た。

  しばらく見合っていたシャルルとミラーだったが、ミラーの方が諦めて視線を逸らしたため、無言の掴みあいは幕を閉じた。

  ゆっくりと立ち上がると、ミラーはシレ―ヌとファウストに目で“帰るぞ”と訴えた。

  渋々、まだ納得していない二人だが、ミラーの後ろに続く。

  「待て。」

  シャルルが声をかけて止めると、ミラーは振り向きはしなかったがその場で足を止めた。

  「お前たちはどうやら勘違いをしているようだから、俺が直々に教えてやろう。お前たちが思っているほど、人間は悪くない。確かに、無能で馬鹿で無力で意味が分からないことが多々あるが、それでも、俺達より遥かに懸命に学び、努力し、愛し、感じ、生きている。人間はあまりに美しすぎて、見ているだけで自分を恥じる。自然との共存、動物との共存は難しくとも、人間同士の共存なら出来るはずだ。俺達が変われば、な。・・・ミラー、変わるか変わらないかはお前次第だ。」

  「・・・・・・。」

  何も言わずに去って行ってしまったミラーの背中を眺め、夜風がシャルルの髪を靡かせる。

  「・・・俺達も帰るぞ。」

  「お、おう。」

  スタスタと歩きだしてしまったシャルルの後を追うべく、光はストラシスを呼び寄せて足早に向かう。

  一方、ミシェルは家族や仲間としばし話していた。

  すぐにシャルルの後を追おうとすると、自分の肩にハンヌが戻ってきただけで、モルダンが一向に戻って来ない。

  「あれ?モルダン?」

  キョロキョロと辺りを見渡すと、案の定、一番行って欲しくないシャルルの足下に駆け寄っていた。

  「モルダ―ン!!!!!」

  モルダンを抱きしめるべくシャルルの足下目掛けてかけていくと、ピタリと急停止したシャルルに反応出来ず、そのままシャルルに突っ込んでいく。

  だが、シャルルは受け止めることもせずに避けた。

  首だけ後ろに動かすと、目を半開きにしたままシャルルが言葉を飛ばす。

  「何をしている友也。ついてこい。」

  「え?ああ・・・。そうだな。」

  ミラーの歩いていった方向をジッと見ていた友也は、言われたとおりシャルルに着いていった。







  ―シャルル宅

  自分の家に着くなり、蝋燭に火も灯さずに椅子に座ると、行儀悪く両足を組んでテーブルの上に乗せたシャルル。

  「ヴェアル、トマトジュースか赤ワインを持ってこい。」

  「極端だな。」

  文句を言いながらもダイニングがあると思われる部屋に行くと、光はグラスを二つ持ってきて、トマトジュースと赤ワインに分けた。

  ミシェルはモルダンを強く抱きしめたまま、シャルルの向かい側の椅子に腰かける。

  その間も、モルダンはシャルルのところに行きたそうにジタバタしている。

  ゆっくりと入ってきた友也は、特に意識はしていないようなのだが、シャルルの一番近くの席に座った。

  「あ。このトマトジュース、賞味期限切れてたけどさ、シャルル腹強そうだから平気だよな。」

  「断定するな。意外とナイ―ブかもしれないだろうが。」

  「その時は御手洗に世話になれよ。」

  少し濁っているトマトジュースを自分の鼻まで近づけると、クンクンと臭いをかぎ分け始めたシャルルだが、どうやら微妙らしい。

  眉間に若干のシワを寄せると、ちらっとモルダンを見て、そっとトマトジュースを床に置いた。

  尻尾を振って反応を示したモルダンを横目で見ていたシャルルだが、モルダンの行動にミシェルが気付いた。

  モルダンを急いで追いかけ抱くと、シャルルの頭を思い切り叩いた。

  優雅にワインを口へ運んでいたシャルルに、ずっと黙ったままだった友也が声をかける。

  「なぁ、都賀崎。」

  「なんだ。」

  「ミラーがよ、最後に言ってたんだよ。それをお前に言った方がいいのか、言わないほうがいいのか迷ってんだ。どうすればいいと思う?」

  「知るか。言いたいなら言え。言いたくないなら言わんでいい。」

  足首をクルクル回しながら最後の一滴を喉に注ぎ込むと、シャルルは光に棺桶を用意するように告げる。

  「ヴェアル。ついでに底に絨毯でも何でもいいから敷いておけ。背中が痛くてかなわん。」

  「亭主関白か。関白宣言か。」

  「関白宣言は悪くはないぞ。“出来る範囲で構わない”と言っているだろう。それに亭主と言うのは、俺に伴侶がいる前提の話だ。勝手に亭主にするな。」

  「なんかごめんな。」

  光がせっせとシャルルの寝床を作っている間、当人は欠伸を繰り返す。

  十分ほどかけて光が用意し終えると、シャルルは礼も言うこと無く棺桶の中へと入って行く。

  「都賀崎!」

  「なんだ、さっきから。」

  「えっと・・・。」

  今から睡眠に入るのを止めたのはいいが、やはり言うのを止めようかと、未だに悩んでいる様子の友也。

  すでに上半身は棺桶に入っているシャルルは、そんな友也を見て小さく舌打ちをする。

  「友也。何をそんなに女々しく悩んでいるんだ。悩んでいるなら言った方が良い。それに一刻も早く眠りにつきたい俺の為にもなる。お前は後先考えずに口にする奴だと思っていたが、臆病なところもあるようだな。」

  「好き勝手言いやがって。」

  「なら俺に好き勝手言わせないようにしろ。」

  「・・・ごもっともだ。」

  シャルルの刺々しい言葉に背中を押され、友也は意を決して話す。

  「ミラーの奴、最後に“ありがとう”って言ってたぜ!」

  「そうか。」

  さらり、と答えてすぐに棺桶の蓋を閉めてしまったシャルルに、やっとの想いで伝えた友也は一瞬状況の把握に戸惑う。

  光に、励ましなのか、肩をポン、と叩かれたことで何とか整理出来た。

  「大丈夫だ。シャルルあんな態度とってるけど、照れ隠しだから。」

  「照れてんのか?あれで?分かりにくいわ。」

  歯を見せて、顔をくしゃっとして笑う光につられ、友也も自然と笑ってしまった。

  気付けばミシェルは勝手にハンモックを出して寝ていて、仕方なく光が部屋へと連れていく。

  一人棺桶の前に残された友也は、ふと学校のことや家のこと、家族のことを思い出し、そっとシャルルの城を抜けだした。

  友也が城を抜け出した後、二階からは光とミシェルが下りてきて、閉まったばかりの扉を眺めている。

  未だピクリとも動かない棺桶を見て、光は棺桶の蓋を開ける。

  「シャルル。石黒が行ったぞ。」

  「知ってる。だから何だ。」

  あの短時間で眠りについていたのか、シャルルは至極不機嫌気味に光を見た。

  上半身を起こしたシャルルのお腹の高さあたりでは、棺桶の外から中へ入ろうともがいているモルダンがいる。

  表情を変えずにモルダンを抱きかかえると、膝に乗せて頭を撫で始めた。

  「明日から、どうするんだ?」

  躊躇しながら言葉を紡いだ光に、シャルルはただモルダンの頭を撫でつづけ、しばらく口を閉ざしていた。

  とても長く感じたが、時間にすればほんの数秒後、シャルルは横目で光を見る。

  「何がだ。」

  「いや・・・。学校とかさ。やっぱ、正体バレタからには学校にも行けないだろう?ってことは、また場所変えるのか?」

  「・・・・・・。」

  綺麗に整えられているモルダンの毛並を、じっくりと確かめるように撫でていたシャルルの手がピタリと止まる。

  そしてモルダンを再び棺桶の外へと戻すと、すぐに蓋を閉めてしまった。

  「!?シャルル?」

  「五月蠅い。本来夜行性なのに、昼間活動していたせいで眠いんだ。お前もさっさと寝ろ。」

  何か言おうと一旦開いた口だが、光は口をゆっくり閉じるともの寂しげな表情になる。

  「?ヴェアル?」

  ずっと蓋の閉まった棺桶を見ていた光が気になりミシェルが声をかけると、光は眉を下げたまま微笑んできた。

  「俺達も寝よう。ミシェル?」

  「うん!そうね!疲れちゃった!」

  パタパタと階段を勢いよく駆けあがって行くミシェルの背中を眺めながら、光は月明かりだけを頼りに、空いている部屋まで向かった。

  途中、何か物音がした気がして振り返ってみたが、そこには何もなかった。

  きっと疲れているんだろうと思い、光はなんとか部屋まで辿りつき、少し埃の臭いのするベッドに横になった。







  「友也―!?友也!起きなさい!遅刻するわよ!」

  「・・・・・・・・・・・・んん?」

  まだ寝ていたいと訴える脳を無視し、まだ閉じていたいと駄々をこねる瞼に無理矢理光を浴びせれば、自然と身体が寝返りをうつ。

  カーテン越しに見える朝特有の眩しさに、友也は思わず眉を顰める。

  昨日雨戸を閉めていなかったと後悔しつつ、それのお陰で身体が起き始めたと感謝するが、どうも身体が重い。

  ダラダラと着替えれば、母親から朝食の報せが何度もくる。

  BGMというにはあまりにも雑音に似ていて、友也は不快に感じながらも階段を下りていく。

  「早く食べちゃいなさい。あ、お母さんもう仕事行くから。お茶碗はながしに置いておけばいいから。」

  「わかったー。」

  気の抜ける返事をすると、冷めかけたご飯を口から胃へと流し込み、砂糖が二杯入ったコーヒーを最後に味わう。

  学校には遅刻だろうと思っていても、決して焦ることはせず、マイペースに歩いていた。

  また学校に行けば、侑馬のファンの女子生徒達が友也のもとまで寄ってきて、今までなぜ侑馬は休んでいたのかとか、聞かれるのだろう。

  そんなことを思うと、さらに気が重くなる。

  嫌々教室へと向かうと、すでにみんな席にすわっていて、友也で最後だった。

  「やっと来たか、石黒。何ボーッと突っ立ってんだ。席に座れ。」

  「あ、はい。」

  欠伸を見せつけるようにしながら席に座ると、何か違和感を覚えた。

  ―?なんだ?

  ふと、侑馬の席を見てみると、そこには見覚えの無い人物が座っていた。

  「あれ?」

  「どうした?友也?」

  前の席に座っていた友人が、上半身を捻って友也の方に向け、キョトンとしている友也に声をかけた。

  「あれ、誰だ?あそこって、都賀崎の席だよな?」

  「は?」

  「え?」

  何に対しての“は?”か分からない友也は、ただただ友人を怪訝そうな表情で見ているだけだった。

  そんな友也と同じように、友人もまた首を傾げて友也を見ていた。

  「何言ってんだよ。あれ、この間転入してきた“岡崎”だろ?お前こそ、都賀崎って誰だよ?そんな奴、この学校にいたか?」

  「は?」

  先生の話もそっちのけで、友也はその“岡崎”という転入生をマジマジと見ていたが、侑馬とは似ても似つかない人物だった。

  お昼休みに入り、友也は侑馬に言い寄っていた女子生徒達に確認すべく、屋上へ向かった。

  通常鍵がかかっている場所だが、なぜか侑馬は鍵を持っていて屋上で食べていたため、女子生徒達もそこにいることが多かったからだ。

  だが、屋上へと続くドアには鍵がしっかりとかかっていた。

  ならばと、友也は学校の外へ出て、いたるところをグルグルと回り、女性生徒達を探し回った。

  どこを探しても見つからず、諦めて教室へ帰ろうとしていたとき、隣の教室のベランダ側に、侑馬のファンの女性生徒達が固まっているのが見えた。

  「おい!お前ら!ちょっといいか!?」

  「は?何あんた?」

  「隣のクラスの・・・石黒とかって奴じゃないの?」

  話し方にカチンときた友也だったが、今はそんなことどうでもよかった。

  「なあ!お前ら、都賀崎って知ってるよな?いつもキャーキャー言ってただろ!?」

  期待する、という言い方もおかしいのだが、侑馬のことを覚えていないはずがない。

  だが、そんな淡い期待も、音を立てて簡単に壊れてしまった。

  「都賀崎・・・?誰それ?」

  一体何が起こったのか分からない友也は、帰り道、侑馬の許へ向かう道を探したが、そんなもの知っているはずがなかった。

  確かに都賀崎侑馬は存在していた。

  不安や心配という感情から、徐々に怒りや苛立ちへと変わってきた友也は、何としても侑馬を見つけるべく、とにかく我武者羅に探し回った。

  「あんの馬鹿野郎・・・!!一発殴らせろ!!」

  傍から見れば、不審者以外の何ものでもなかっただろう。

  脇目をふらずに走っているかと思いきや、視界にウェーブのかかった髪の毛を持つ人物がいれば、片っ端から胸倉を掴んでいったのだから。

  血眼になるとはこのことだろうというほど、友也は必死だったのだ。

  ひたすら走り続けて数十分後、一時間ほど経っていたかもしれない。

  ブランコと鉄棒、あとは砂場がある程度の小さな公園が目に入り、友也はブランコに腰を下ろした。

  地面を見ながら小さく息を吐く。

  「はー・・・。なんでいねぇんだよ。」

  いなくていいときにいるくせして、こんな時に限ってどこにもいなく、探しても探しても避けているかのように見つからない。

  ガサッと草陰から物音が聞こえ、反射的に身構える。

  「石黒か?」

  「・・・・・・お、大柴?」

  お忘れの方もいるかもしれないが、ヴェアルの人間の名前は“大柴光”といって、侑馬と友也と同じ学校に通っていた。

  探し求めていた人物の一番近くにいる人物に出会えた喜びと、今すぐに侑馬を殴りとばしたい衝動に駆られた友也。

  いきなり光の胸倉を掴みあげ、ドスの効いた声で再会を喜ぶ。

  「てめぇ!やっと会えたな!!一人なのか!?都賀崎はどうした!!?」

  「お、落ち着けって・・・。な?」

  両手の掌を友也の方に向けて降参を示すと、友也はゆっくりと腕を離し、再びブランコに座り直した。

  二つ並ぶブランコのもう一方に座った光は、薄暗くなっていく空を見ながら話し始める。

  「シャルルの記憶、みんなから消えてたか?」

  「なっ・・・!?てめぇの仕業か!?」

  「違うよ。シャルルが自分でやったことだ。」

  さらに詳しく話しを続けていた光だったが、友也の耳にはその半分も届いてはいなかった。

  ギィッ!と大きな音を立ててブランコから下りると、友也は隣で足を曲げ伸ばしして遊んでいる光の前に立った。

  「?石黒?」

  自分の前に立ちはだかったと思った友也が、次の瞬間にはもう目の前にはおらず、地面と向かい合っているのが見えた。

  所謂、土下座をしていたのだ。

  「頼む!都賀崎ともう一回だけでいいから、話させてくれ!」

  「石黒・・・。」

  「確かに、あいつのこと嫌いだし、係わりたくねぇと思ってた・・・。けど、俺、あいつを誤解してたんだ・・・!頼む!」

  「・・・・・・。」

  土下座をしているままの友也に近づき、腕から身体を起こす様に無言で伝えると、友也と目線が合った。

  「・・・こっちからは行けないかもしれないけど、シャルルにこっちに来させることは出来る。あとは俺から言っておくよ。石黒は家に帰っておけ。」

  「・・・わかった。」

  ガサガサと来た方向へと帰っていく光の後ろ姿を眺めて、一瞬だけ着いていこうとも考えた友也だが、それはなぜか出来なかった。

  周りの家から聞こえてくる子供の声や料理の匂いを嗅いでいると、すぐに家に着いてしまった。

  鍵を開けても両親はまだ帰っておらず、大人しく階段を上がって部屋に入る。

  冷たくなったベッドにうつ伏せで倒れこむと、少しずつ瞼が重くなり、フッと身体の力が抜けるとともに、意識が遠くなった。







  どれくらい経った頃だろうか。

  これ以上寝られないと開けた目には、真っ暗に染まった空と、電気も点けていない自分の部屋が映った。

  「もうこんな時間か。」

  カーテンを閉めて電気を点け、時計を見て時間を確認してみると、夜の8時を指していた。

  母親が一階で料理を作っている音が聞こえてきて、着替えてご飯でも食べようか、それともお風呂に入ろうかと思っていた友也。

  部屋のドアノブを回そうと握った時、閉めたはずの窓から夜風が入ってきた。

  ドアノブから手を離して振り向くと、カーテンが風と踊り舞っていて、会いたかったような会いたくなかったような人物が立っていた。

  「な・・・。」

  “何してる”と言おうとした友也だったが、無遠慮に自分のベッドに腰掛けて足を組んだ人物に、その言葉さえ出て来なかった。

  舐めるように視線を部屋中にくぐらせると、一言。

  「随分と狭い場所に住んでいるんだな。」

  悪気はこれっぽっちも無いと分かってはいても、友也はそれを聞いて思わず顔を顰め、反論をする。

  「無駄に広いてめぇの城よりマシだ。・・・都賀崎。」

  ワイシャツに黒のズボンを穿き、銀色の髪の毛を優雅に揺らしながらニヤリと口角をあげた人物、侑馬は、足を組みかえる。

  「ヴェアルから聞いた。お前がどうしても俺に謝罪をしたいと、な。仕方なく来てやったんだ。さっさと詫びて土下座の一つでも二つでも三つでもしろ。」

  「一回しかしねぇよ。いや、そもそもしねぇし。」

  侑馬の向かい側にある机へと進み、椅子の背もたれを掴んでクルッと回転させる。

  そこにお尻から体重を乗せて侑馬を見ると、暇そうに欠伸をしたり、ベッドをポンポンと叩いていた。

  「・・・なんで記憶消したんだ?別に覚えてたっていいことだろ?」

  「悪くはないが、良くもない。」

  「は?どういう意味だ?」

  一旦閉じた瞳がもう一度開かれたときには、見慣れたはずに赤い目があった。

  バチバチと火花が散る様な音が聞こえてくると、次の瞬間には部屋の電気が勝手に消えてしまった。

  暗闇の中に浮かぶ赤い目は、今まで感じたことの無いほどに不気味だった。

  「俺達は、闇の中にあるべき存在だからだ。」

  低音に響く侑馬の声は、耳にゆっくりと纏わりついてくるようで、さっと何処かへと去って行ってしまう。

  床に這いつくばって近づいてはくるが、いとも簡単に通りぬけてしまう。

  「何も、闇に生きているのはミラーたちだけではない。俺達だって同じだ。本来、俺もヴェアルも人間界で勝手に生活を送ってはいけないんだ。それは分かるな。」

  「まあ・・・なんとなく?」

  「動物のマーキング、なわばりと同じだ。人間との共存だのなんだの詭弁を並べたところで、俺達とお前らは決して同じ世界には住めない。それも分かるな。」

  「おお?まあ。ぼんやりと。」

  「人間でも動物でも獣でも無い。存在自体が未確認。例え人間の姿であったとしても、存在を晒すことも出来ない。もしも人間に姿を見せた場合、立ち去る時の絶対条件が“記憶の抹消”。例外はない。ここまでいいか。」

  「・・・あー。うん。まあいいや。続けてくれ。」

  一々確認をしてくる侑馬に、自分が馬鹿にされているのだと分かっていながらも、理解しきれていないことも分かっているから、言い返せないでいる。

  「じゃあ、なんで俺にだけ記憶残したんだ?実はすげぇ寂しがり屋なんだな、都賀崎って。」

  ふと、今日会った学校の友人たちはみな忘れていたと言うのに、自分だけはまだ覚えているのだろうか。

  疑問を覚えた友也がハハハ、と笑いながら侑馬に訊ねてみると、侑馬の赤い目が横に細く伸びた。

  「馬鹿を言うな。お前の記憶も消す。」

  「は?」

  「なんだそのアホ面は。」

  「いや。・・・は?消すのか?」

  明らかに面倒臭そうなため息が聞こえてきたが、友也は聞こえないふりをした。

  「記憶の抹消が絶対条件だと言っただろう。例外も無いといったはずだ。お前の頭はピーマンよりもスカスカだな。いや、むしろピーマンに失礼なくらいだ。人間という下等ながらも努力を続ける種族に産まれたにも係わらず、その努力で補えないほどに劣化してしまった脳味噌を持ってしまったとは、実に、いや実に悲劇だ。産まれもった才能さえも無に等しく還してしまうとは、それもそれで一種の才能なのかもしれない。だが、それを才能と言ってしまっていいのだろうか。俺は信じていないが、神とやらに与えられた能力を拒み、手に入れられたはずのあらゆるものをその手で落としてきてしまったようだな・・・。なんとも憐れ・・・。」

  「なんか御免なさい。」

  何度も何度も頭をペコペコ下げて侑馬に謝ると、十回ほど下げたところで、やっと侑馬の逸れた話がもとのルートに戻ってきた。

  相変わらず変わっていない、変わりようのない侑馬の性格に安心しつつ、友也は内心不安に襲われていた。

  「でも・・・。」

  「なんだ。」

  少し棘のある、いつもの侑馬の話方にも、一々ビクリと身体が反応してしまう。

  部屋の暗さに慣れてきた事と、月明かりが明るいために見える侑馬の表情からは、ほんのりと柔らかさが滲み出ている。

  「俺、嫌だ。」

  「何がだ。」

  「お前に記憶消されるの。」

  最初は、その友也の言葉に侑馬の表情はピクリとも動かなかったが、徐々に眉間に刻み込まれていくシワを見つける。

  自然と友也は両手で拳をつくり、それを自分の膝の上に乗せて力んでいた。

  「それは無理だ。」

  「嫌だ。」

  「強情な奴だ。だが、もう手遅れだ。」

  「は?手遅れって?」

  「友也。お前の脳にはすでに記憶除去の夢が設置されている。」

  「記憶除去の夢???は?」

  侑馬たちにとっては知っていることでも、友也にとっては知らないことだらけだというのに、侑馬は呆れた様なため息を繰り返す。

  ゆっくりと顔を窓の方に向けると、バサバサと不気味な羽音を奏でながら、黒い影が飛んできた。

  それらは侑馬の肩に止まると、落ち着いたように羽根を閉じた。

  黒い二つの影の動きが止まったかと思うと、侑馬の格好がシャルルへと変わっており、黒い影にミミズを与えていた。

  「ジキル、ハイド。よく迷子にならずに来れたな。」

  愛孫にお菓子を与える祖父母の如く微笑むシャルルに、友也は少なからず寒気を覚えた。

  「さて、本題に戻ろう。」

  逸れたのはお前だろう、と文句を言いたいのは山々だが、一々反論していたら体力の無駄遣いだと学習した友也は、大人しく言葉を待つ。

  「“バク”という架空の生き物を知っているか。」

  「バク・・・?ああ。夢を喰うってやつだっけか?それが?」

  「バクとは夢の中を自由に行き来できる。例えば、俺の夢からお前の夢、お前の夢からヴェアルの夢、のようにな。そこで、お前の脳にあらかじめバクの大好物の夢を置いておいた。その大好物の夢を餃子の皮だとしよう。その中に記憶を入れておいて、一緒に食ってもらう。それで終わりだ。あと二、三日の間に痛みも無く消える。以上だ。」

  漆黒のマントをバサッと広げれば、すでに窓の外へと移動していた。

  友也が慌ててマントを掴むと、飛ぼうとしたシャルルは後ろへ重心が傾き、友也は前のめりになってしまった。

  その結果、顔面から屋根に倒れた友也の上に、シャルルの全体重が乗ってしまった。

  だが、シャルルは何事も無かったかのようにすぐに立ち上がり、友也の手からマントを取りあげた。

  「何をそんなに焦っているのか皆目見当がつかん。お前の中から俺の記憶が消えたところで、特に何が変わるわけでもないだろう。」

  「おまッ・・・。馬鹿じゃねぇの!?」

  言ってしまったあとで、友也は“しまった!”と慌てて口を塞ごうとするも、徐々に深く刻まれる眉間のシワが目に入る。

  肌寒い風に身体が震えているのか、それとも違う理由なのか。

  睨みあっていたシャルルと友也だが、いつもなら先に折れるはずの友也がなかなか折れないため、しばらく沈黙という悪夢が続いた。

  「確かに、お前たちの存在はよくわからねぇ。最初にお前に会ったときだって、こんなに不愉快に思う奴他にいねぇと思ってたけどよ・・・。」

  しっかりとシャルルの視線を捕えて話し続けていると、不気味に思えていた赤い目が、なぜかもの寂しげに見える。

  「けど、勝手に記憶消されるっているのも、癪なんだよな。俺の記憶の中に何が残っていようと、お前に関係ねぇだろ。お前のこと忘れたくなったら、忘れる。それでいいだろ。」

  「良くない。規則だ。癪だのなんだの言われても、もう取り消しは出来ん。俺はもう帰るぞ。」

  「!!じゃあ、俺もう一切寝ねぇよ!!!」

  「・・・何を・・・。」

  「そうすりゃ、俺の夢が喰われることはねぇだろ!?」

  「・・・勝手にしろ。付き合いきれん。」

  バサッとマントを広げると、ジキルとハイドを連れて空高くまで飛んで行ってしまった。

  一人残された友也は、窓を閉めないまましばらくぼんやり月を眺めていたが、母親に名前を数回呼ばれたため、窓を閉めて鍵をかけた。

  言い切れない不安や恐怖が心臓をギュウッ、と締めつけていく。

  ご飯も喉に通らないかと思ったが、ご飯はすんなり胃に収まって行き、お風呂に入れば身体が休まるのが分かる。

  ベッドに横になると、寝ないように何か工夫をしなければと、ロック系の音楽をかけたり目薬をさしたり、小さな努力を続けた。

  「くっそ・・・。」

  それでも眠いと訴えてくる自分の脳に苛立ちを覚えるが、なんとかその日は気力だけで乗り切った。







  翌日、友也は目の下にクマを作って学校に行ったため、周りの友人から何事かと散々聞かれた。

  一日でこんなに疲労が蓄積されるとは思っていなかった友也は、授業中もいつになく真剣に黒板に目を向け、先生の話に耳を傾けた。

  そんな不眠の生活を続けて早四日目、友也は精神的にも肉体的にも限界寸前だった。

  「いいのか?あのままじゃ、ヤバいぞ。」

  日に日にやつれていく友也の姿を、友也のいる教室から数メートル離れた木の上からみている影が二つ。

  「あんなに不健康そうな顔色、初めて見たぜ。ちゃんと飯は食ってんのかな?」

  先程から喋っているのは二つの影のうち一つだけ。

  もう一つの影は興味があるのかなにのか定かではないが、頬杖をしながら欠伸をし、眠たそうに目を細めている。

  「シャルル、どうにもならねぇのか?」

  「・・・なんだヴェアルまで。どうにもならないと何度も言っただろう。そもそも、記憶の一つや二つが消えるくらいのことで、一々大騒ぎし過ぎだ。」

  長い足を優雅に組みかえると、やっと口を開いた影が再び動かなくなる。

  「人間にとって、誰かのことを忘れるっているのは、相当なことなんじゃないのか?それに、なんでシャルルはここにいるんだ?」

  「記憶が消えたことを確認する義務があるからだ。」

  「なら一回会ってやればいいのに。」

  「そういう慣れ合いをしたいわけではない。」

  快晴の日も雨の日も嵐の日も、シャルルと光は友也の様子を見ていたが、どうにもこうにも友也は寝そうにない。

  半ば呆れたようにシャルルが顔を顰めれば、光が話題を変えた。

  「そういや、ミシェルの親とか親戚が、シャルルに礼を言いたいって。」

  「礼を言う暇があるなら、もっと魔法を磨いておけと言っておけ。」

  ものの数秒で会話が終了してしまい、会話を続けようと光が口を開いたが、シャルルがいきなり立ち上がってマントを広げた。

  どこかに行くのだろうかと思うと、光の方を見ずに告げた。

  「俺はもう行く。あとは任せたぞ。」

  「は?」

  義務だとか言っていたくせに、どこかに向かってマントを広げて去って行ってしまったシャルルを見て、光はポカンと口を開けたままにする。

  きっと城にでも戻って寝るのだろうと思い、限界などとうに過ぎている友也を心配そうに眺めた。

  「ストラシス、シャルルが城にいるか見てきてくれ。」

  一方の友也は、昼休みに屋上に向かって日向ぼっこをしていた。

  だが、それがいけなかった。寝てはいけない、身体を起こす為に太陽を浴びようと出ていった屋上では、逆に眠気を誘われる。

  あっという間に瞼は閉じ、堪りに堪った疲れが一気にここで現れた。

  ―――それほど美味ではなさそうだが、食してやろう。―――

  目の前にいるのは、手に虹色に光る綿あめを持っている、友也より少し上くらいの男。

  綿あめを口に運んでいく度に、自分の中の何かが消えていく感覚に襲われた友也だが、何も抵抗できないまま。

  あっというまに綿あめを平らげた男は、ペロッと舌で唇を舐めると、友也を見てニヤリと笑う。

  ―――満足は出来なんだが、まあいい。味のランクとしては中の下くらいだな。―――

  そう言った男の髪の毛は色は徐々に緑色へと変化していき、スタスタと、広がる暗闇の中に突き進んで行ってしまった。

  「・・・ん?」

  瞼に焼きつく眩しい日の光に目を開けると、あまりの眩しさに手で顔を隠す。

  すっきりしたような、でも何か落としてきた様な、でもそれが何なのか分からなく、身体を起こしてみてもため息が出てきた。

  その時、ガチャ、と重苦しい屋上のドアが開く音が聞こえてきたかと思うと、そこには友也と同じクラスの友人がいた。

  「友也!次体育だぜ!早くしろよ!」

  「おう!今行く!」

  ガバッと勢いよく走りだそうとした友也の前に、ニャー、と小さく鳴きながら現れた黒ネコが一匹。

  「?なんだ、この猫?なんで屋上になんかいんだ?」

  抱きかかえようと伸ばした腕は、黒ネコを捕えることは出来なかった。

  逃げるように友也の腕からスルリと抜けてしまった黒ネコは、屋上にあるタンクの裏に消えてしまった。

  友也も後を追いかけるようにタンクの裏に行ってみたが、そこに黒ネコの姿はなかった。

  「あれ?ねこ?」

  キョロキョロ辺りを見渡してみたが、どこにも黒ネコは見つけられなかった。

  諦めて屋上から去ろうとした友也の耳には、また黒ネコの鳴き声が聞こえてきたが、それと同時にチャイムも聞こえてきたため、急いで屋上を出ていった。

  「・・・本当に記憶消えちゃったんだ・・・。」

  「そうみたいだな。」

  タンクの上からヒョコッと顔を出したのは、先程の黒ネコを両腕で大事そうに抱え、肩にはカラスを乗せている少女、ミシェル。

  そして茶色の髪の毛を靡かせた光。

  「良い子だったのにね。シャルルとも仲良く出来ると思ったのに。」

  「しょうがないよ。シャルルなりのケジメだ。」

  バサバサと大きな翼を上下に動かして飛んできた鳥、鳥と言うには本来夜行性の生き物、フクロウが光の肩に真っすぐ来た。

  「ストラシス、おかえり。シャルルは城にいたか?」

  勿論、動物だから話すことは出来ないのだが、真ん丸のお目目が光を見つめると、そこから光が何かを感じ取る。

  「・・・え?」

  「どうしたの?ヴェアル?」

  下から光の顔を覗き込むように首を捻ったミシェルだが、光はじっとストラシスを見つめたままだ。

  「・・・シャルルが、城にいないって。」

  「え?じゃあ、どっか散歩にでも行ってるんじゃないの?」

  「いや。城周辺は勿論、ミラーたちがいた場所も全部探したって・・・。でも、じゃあ何処にいるんだ?大体シャルルが行く場所なんて決まってるのに・・・。」

  ハッ、と目を丸くした光に、何かに気付いたのだと分かったミシェルは、光を箒の後ろに乗せて早速シャルルの城へと向かう。

  城についてすぐ部屋を全部見るが、特に変わったところはない。

  次に向かった先は、シャルルの先祖が眠っている場所だった。所謂お墓なのだが、骨は全て地へ還し、ただ土に十字架と名前があるだけの質素なものだ。

  そこには真新しい花が置かれており、シャルルが置いたものだと光は瞬時に理解した。

  あと行きそうな場所はどこだろうと考えていると、空から二つの飛行物体が飛んできて、光とミシェルの前で止まった。

  「ジキルとハイド!?」

  ジキルとハイドならシャルルの居場所を知っていると思った光だが、ジキルとハイドは何か封筒をその場に落とし、また空へと消えてしまった。

  冷たい地面に置かれた封筒に手を伸ばし、そっと中を開けてみる。

  そこには手紙のような紙切れが入っており、よく見てみるとそれはシャルルからの簡単な手紙であった。

  ―「しばらく城を空ける」―

  手紙と言うにはあまりにも短いもので、内容としても曖昧で端的なものだったが、光とミシェルはひとまず安心した。

  それと同時に、これからどうすればいいのだろうという言い知れぬ不安に襲われた。

  「すぐ、戻ってくるのよね?シャルル。」

  「・・・ああ。大丈夫だ。すぐ戻ってくるよ。」

  主人のいない城はどこか以前より暗く錆び付いているようにも見えるが、それはきっと気のせいだろう。

  蝋燭も勝手に火が灯ることがないため、一つ一つ丁寧に火を灯していく。

  蓋が床に無造作に置かれたままの棺桶を見ていると、ミシェルの腕から逃げ出したモルダンが棺桶の中へと入って行く。

  残っているはずのない温もりに包まるように丸くなり、そのまま寝てしまった。

  光とミシェルも借りているいつもの部屋に戻り、いつもと変わらないベッドに、いつもとは違う気持ちで横になった。







  ―とある場所にて

  「なんだ、帰ってきたのか。俺に着いて来ず、好きにしてよかったんだぞ。」

  何処に存在している場所なのかも分からない、方向感覚さえも失いそうな場所に、二つの黒い影が現れた。

  迷いなく男の肩に止まると、甘えるようにじっと見つめる。

  「まったく。」

  目を細めて愛おしそうにしている男の目は赤く染まり、髪は銀色に輝いていた。

  「俺に着いてきて、どうなっても知らんぞ。」







  出会ったことが偶然でも必然でも、それが奇跡でも奇跡じゃなくても、この世に産まれたことに意味があるように、その出会いにも意味がある。

  忘れてしまった過去があっても、未来は決して忘れはしない。

  楽しくいきるのも人生、悔やんで生きるのも人生。








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登場人物紹介

シャルル:ヴァンパイア

憎たらしいほどの才色兼備。

ジキルとハイドというコウモリを愛でている。

ぬらりひょんとは知りあい?


『耳障りだ』

ヴェアル:優しい狼男

ストラシスという梟を愛でている。

シャルルのことを見守る。


『いい奴なんだよ』

ミシェル:魔女見習い

THE魔女な格好をした魔女見習い。黒猫モルダンとカラスのハンヌを愛でているが、モルダンにはなかなか懐かれない。



『見習いじゃないわよ!』

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