第12話 唐突に虹色剣が現れる

文字数 2,056文字

 (暗黒生命体には通常の攻撃は通用しないの。魔法で焼却しても、剣で切り裂いてもすぐに再生してしまうほぼ不死身の生き物、殺すのは不可能に近いわ。殺すのなら常夜にいる仮初の姿である新人間を仕留めるのが一番ね。でも、私に与えられて任務は改造、新人間(ニューヒューマン)真人間(イノセントヒューマン)に改造すること。今からそのやり方を見せてあげるわね)
 (お・・・う)


 今の俺は黙って事の成り行きを見ていることしかできない。

 (まとい)は握りしめた両手の拳を横一文字にくっつける。そして、ゆっくりと引き離すと虹色に輝く剣が姿を見せる。


 (暗黒生命体は欲望の権化、生命源は7つの欲を求めているの。7欲とは傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・色欲・暴食・怠惰 を指す言葉。欲望具足(よくぼうぐそく)である暗黒生命体の体に有効な武器は、欲望を浄化できる武器だけなの。私が所持する七色に光る虹色剣(レインボーソード)は、7欲を切り裂くことができる浄化武器の1つなのよ)


 纏は拳から取り出した虹色剣を両手で握りしめ、宙を飛ぶようにジャンプをして、そのまま縦一文字にガマガエルを真っ二つに切り裂いた。


 (あんこちゃん、見て!)


 纏は標本のように綺麗に2つになったガマガエルを指さした。先ほどは消失した体は直ぐに再生をしたが、今回は切り裂かれた2つの体は、ピクリとも動く気配はない。


 (死んだのか?)
 (死んではいないわ。ただ、再生の力が一旦消失したので、しばらくの間は仮死状態のようにピクリとも動かなくなっただけよ。さてさて、今のうちに解体作業をするわ)


 纏はポケットからサバイバルナイフのような小型の剣を取り出すと、ガマガエルの体を綺麗に切り裂いていく。


 (あったわ)


 纏はガマガエルの体から、ルビーのように輝く赤い石を取り出した。


 (これが生命源を生成する臓器の変異核よ。さっきは間違った方法で取り出したから黒い外皮で覆われていたけど、きちんと浄化すると本来の姿の変異核を取り出すことができるのよ。変異核は7種類存在して赤色は変人の変異核になるわ)
 (そうなんだ。変異核を取り出すと変人はどうなるのだ)

 (私が受けた依頼は新人間すなわち変人を真人間に改造すること、変人から変異核を取り出すと生命源を作り出すことができなくなるの。生命源が作れなくなった現世の暗黒生命体は、常夜の姿に影響を受けて人間の姿に変貌するわ。そして、常夜で生活をしている変人は、生命源を吸収する必要がなくなり、7欲が消え去り、聖人君主のような、なんでも服従する奴隷のような性格になるの。地球の支配者である偉人は、地球の治安を乱す変人を真人間に改造して、安価な賃金で過酷な労働をさせる奴隷として雇い入れるのが真の目的だと聞いているわ)
 (犯罪を犯す変人から俺たちを守る依頼だと思っていたが、そんな綺麗ごとではなかったのだな)

 (そうね。偉人も変人も同じ暗黒生命体よ。7欲を満たして生命源を吸収しないと常夜で生き抜くことは不可能なの。変人は色欲などを満たすために犯罪を犯す、偉人は強欲などを満たすために、自分達以外の新人間を改造して欲を満たしているの。犯罪も減り変異核も回収できるので一挙両得ね。さらに、私には依頼料が入り、この変異核を売ればさらにお金がもらえるの!良いことずくめなのよ)


 纏は嬉しそうに微笑んだ。


 (俺にも報酬が入るんだな)


 俺には10億円の借金がある。しかも利子があるので支払いをしないと雪だるま式に増え続けることになる。変人を真人間に改造することで、どれくらいの報酬が貰えるのかは、とても大切なことであった。


 (変人を真人間に改造する依頼料は20万円、赤の変異核は純度によるけど10万円~100万円が相場の値段よ。見た感じこの変異核は20万円くらいね。これを合計した金額が私の報酬になるわ。あんこちゃんには仕事に応じてお駄賃を渡すつもりよ)
 (そうか。それで今回はいくらもらえるのだ)

 (そうね。今回はいろいろと説明してあげたから、レッスン料が発生するから10万円ね)
 (そんなにもらえるのか?)


 纏の良心的な配分に俺はおもわず顔がニヤけてしまった。借金返済には遠く及ばない微々たる金額だが、報酬の半分を貰えるなんて想定外だった。


 (ちがうわよ、あんこちゃん。10万円支払ってもらうってことよ。今回のあんこちゃんは、わけもわからずに騒いでいたので私への負担が大きかったのよ。いきなり報酬を貰えるなんて虫がよすぎるわよ。今回は授業料として10万円を借金に上乗せしといてあげるわね)
 (そんな・・・殺生な)


 俺は気が抜けて地面にへばりつく。


 (そんなに気を落とさなくても大丈夫よ。依頼はたくさんきているからじゃんじゃんとハントしていくわよ)
 (わかった)


 俺は人間に戻る為にがんばるしかない。へこたれている暇などなかった。


 (さてさて、常夜に戻るわね)


  「Change(チェンジ) the() World(ワールド)


 纏が魔法の言葉を述べると世界は入れ替わる。


 現世から俺たちの姿が消え去り、赤い満月が照らすのは二つに切り裂かれた小太りの中年男性の姿だけであった。
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