第4話 唐突に俺は猫になっていた

文字数 1,788文字

 灰色の無機質なコンクリートの地面は華やかなレッドカーペットに変貌し、1人の少年は無惨に壊されたマネキンのようにありえない方向に手足が折れ曲がり、顔だと思われる部分は木の棒で割られたスイカのようにぐちゃぐちゃに潰されていた。


 (これは俺なのか)


 俺は至って冷静にこの光景を見ていた。

 突然、美少女のものだと思われるパンティーを見た瞬間に、電源が切れたモニターのごとく辺りが真っ暗になった。しかし、電源は直ぐに復旧し、モニター画面には化け物の死体が映しだされていた。もしこれが夢でないのなら、あの化け物の正体は間違いなく俺である。しかし、今化け物を見ているのは誰なのであろうかと疑問が残る。しかし、その答えは小学生の算数よりも簡単に解くことができた。俺は死んで魂になったのである。

 意外にも俺は化け物に変貌した自分の死体にはさほど興味がわかなかった。それよりも俺が興味を示したのは、最後に見た純白のパンティーの持ち主だ。アニメや漫画、はたまた動画でしか見たことのなかった美少女のパンティー。その憧れの美少女パンティーが空から降ってきた。生暖かく柔らかいあの感触は、死んでも忘れることはできなかった。しかしあの時、校舎の屋上には俺しか居なかった。それなのに、突如空から美少女パンティーが降ってきたのだ。


 ふと、俺はある違和感に気付く。

 
 俺は確実に死んだ。死んだ人間の魂は空中を浮遊しながら上から下を眺めるのが定番だ。しかし、俺の視線はかなり低く、下から上を見上げるようなアングルだ。何かがおかしいと思った時、背中をなぞられるような温かい感触を感じた。これもおかしいことである。肉体を持たない魂が物理的感触を感じることはありえない。


 (ごめんね。私のせいで大変なことになっちゃったね)



 どこからか、甘くとろけるような声が届いてきた。


 (どういうことですか)


 魂になった俺は声を出すのではなく心で呟く。すると、甘い声の持ち主は心の声に返答してくれた。


 (私が急にあなたの頭の上に落ちたから、あなたは校舎の屋上から落ちてしまったの。本当にごめんなさい)

 
 甘い声の正体は俺が探していた美少女パンティーであった。俺は自分が死んだ経緯よりも気になることがある。それはあの神々しい純白パンティーの持ち主が本当に美少女なのかどうかである。俺は甘い音源の位置に感覚を移動させる。すると、その先には俺の思い描いていた理想をはるかに上回る美少女が中腰で佇んでいた。

 キラキラと金色に輝くツインテール、水晶のような透明感のある銀色の瞳、鼻筋の通った美しい容姿、程よい肉付きのあるかぶりつきたくなるような手足、スイカのような度肝を抜く大きな胸、コスプレイヤーが着ているような超ミニのピンク色の魔法着、そして、魔法着の秘密の三角形から見える純白のパンティー。間違いなくその純白のパンティーは、俺が死ぬ前に見たパンティーと同じものである。
 美少女パンティーは、少し悲し気な目をして俺を見ているようだった。そう・・・俺を見ているようだ。俺は死んで魂になったはずなのに、美少女パンティーには俺が見えていた。


 (あなたには俺が見えているのですか)


 俺は心で問いかける。


 (もちろんですよ!)


 やはり美少女パンティーには俺が見えている。しかし魂である俺が見えることはありえない。


 (ほら?これを見て)


 美少女パンティーは俺の疑問を解くように手鏡を見せてくれた。


 「ニャ―――」


 鏡に映し出された姿は黒い毛並みの猫だった。俺は思わず声を上げる。すると声を出すことはできたのだが、思っていた言葉は聞こえてこなかった。


 (助けることができなくてごめんね)

 
 美少女パンティーの大きな瞳から涙が零れ落ちる。


 「ニャーニャーニャー」


 『どういうことですか』と声を発するが猫語に翻訳されてしまう。


 (可愛い)


 涙で曇った銀の瞳がキラリと宝石のように輝いた。美少女パンティーは雪のような白い手を伸ばし、赤子をさとすように俺の頭(猫の頭)をなでなでする。そして、ピンク色の小さな唇を動かして衝撃の言葉を発した。


 (私とあなたは心が通じているの。具体的に言うとね、捻話で話しをしていたの)
 (本当ですか?)


 すぐに俺は心で問いかける。


 (本当よ。あなたの心の声は私に届いているわ)
 (本当だ。念話ができる。俺は一体どうなったのだ)
 
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