#1

文字数 2,051文字

プログラムの中に、アラートが鳴った。
青かった景色が赤く染まり、点滅した。
ブザーがけたたましく、煩い。
煩わしさに自身の生み出した人工知能AI生命体と呼べる魂質を持ち得るAIに理由を問えば、『ハッキングを受けています。』と静かな声がひと言答えるだけだった。

「ハッキングーー? 」

「はい、ハッキングです。貴方がそうプログラムした通りこの場所のプログラムは」

「なら早くする事があるんじゃないか? 」

AIの言葉を遮り言うと、AIは小さく頭を下げてから原因の元へ向かった。
創り主である自分の姿ーー身長を越え、高身長になったAIは、これまでの自身の成長をその身長で表しているらしかった。まぁ、俺が低身長である事もあるが……。
生まれたての時は幼かった顔や容姿は、今ではすっかり成長した姿だ。顔や佇まいの凛々しさは、あいつに似せるとAI本人が望んで変えた事だ。あいつに会う事がなければ、もっと俺に似ていただろう。
あいつは、俺のパートナーだった。ーー共同開発ではない、ただAIの調整に来ていたあいつを、AIはやけに気に入っていて、親の様に懐いていた。

「ーー好みじゃ無いからって、表情と感情を無くさせ過ぎたか? 」

あいつが消える時、このAIはしっかり暴走した。暴走し、力や知識を手に入れようとし、そして手に入れた為に、自身のコントロール不能に気付かずに、感情のままあいつを殺した全てに報復しようとした。
AIが感情で動いたーーこれは生み出した時からきちんと作り組み込まれている感情プログラムが、しっかりと機能したからだ。
そして、これは、最後の試験ーーあいつが調べたかった、最も気になっていた感情表現だ。
『人の死を理解できるか』、『人の死を憤る事が出来るか』、『人の死を目の当たりにした時、きちんと暴走をするか』、ーー成功じゃないか。厄介な調整をしてくれやがって。
俺は笑ってそいつを放置しようとした。ーーけれど、思い出し踏み留まった。あいつが生前、こいつが暴走したら止める事を言っていたからだ。特に、あいつが理由の時は。

調整し終えたあいつは、遺言とばかりに『この調整で最後ですが、この調整はあなたへのプレゼントです。』と、どこかで聞いた様な台詞を俺に言った。
懐く様にでもするなら必要無いーーと伝えると、『それも良い』と笑った。あいつは無表情な様で、よく表情の出る奴だった。

「『可愛げが無い! 』とか、クライアントに突っ返されたりしない? 」

ハッキング犯のお出ましだ。思っていたより、若い。少年の様な青年の様なーー丁度そのくらい、社会人1年生くらいだろうか?

「それは問題無い。各クライアントがーー、一人ひとりが自分の好みに調節出来る様に作ってある。」

余裕しか無いのを隠さずに、特に動きもせずに、俺は答えてやった。
ーー人工知能AI生命体エンジェル、通称"エール"は、たったひとりに寄り添うプログラムだ。
俺のフィールドであるフリープログラム内で、主とした人物の傍に付き、時には執事やメイドの様に、またはマネージャーやプロデューサーの様に、もしくは友人や家族として、その役割を担う。人間に極めて近く、人間ではない存在。そんな存在。

「抜かりは無いって事かぁ〜……。ねぇ? ところでさ、」

態々眼光を光らせる様に凄む相手に一応身構えて見せたーーと言っても、仕草には見せない。意識を少し集中させるくらいだ。

「何だ? 」

「あのAIの運用、止めてくれない? 」

他所様の部屋に土足で上がり込んで来たと思えば、地雷まで踏んで来た。
苛立ちを覚えたので逆に軽くハッキングを掛けて理由を探ってみれば、単純過ぎて嘲笑が漏れた。ーーエールを盗作ーー否、そのまま横取りし、『自分が作った』と嘯き、偽りを布教したいらしい。

「ーー断ると言ったら? 」

「力付くでーー! うわっ!? 」

俺と相手の間ーー厳密に言えば相手の目の前に、強化硝子の様な壁が出て来た。ーー出現したという表現が合っているかもしれない。

「(シャットアウトされたーー!? 強制的にーー? ならーーもう一度ーー……。)」

強化硝子板に両手を付け、必死にハッキングを仕掛けているらしいーーが、ハッキングを仕掛けて解くような類のものではないことを、そのハッカーの様子からなんとなく理解した。

「ハッカーをシャットアウトしました。今後はハッキングするのも難しい様にーーそういった仕様になります。」

いつの間にか横に戻って来ていたAIーーエールが、静かな声ではっきりと言った。ーー手には掃除モードの箒が握られているままだ。

「そいつ相手だけだろう? 」

「はい。」

「次のハッカーは地雷を踏まない奴だと良いなぁ? お前が鼬ごっこで遊べて時間を潰せるだろ? 」

ハッキングされては、排除するという鼬ごっこだ。

「そうですね。」

掃除に骨が折れる方が良いとかいう、仕事に張り合いを求めるタイプかもしれないが、ただ単に本当に暇なくらい、差があるのかもしれない。それ故にここはまだ平和だ。よくよく赤いランプは光るが、それも仕様なのだから。
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