校内美化清掃週間

文字数 2,473文字

「はーい。じゃあ来月の校内美化清掃週間について!生徒会で何をします?」
清掃週間と書かれたホワイトボードを背にいつも通り京楽が進行をする。
「こういうのって名前だけじゃなくてちゃんとやるんですか?」
清掃週間とは年に二、三回行われる行事とも言い難い行事で、学校の年間予定表にも書かれている。今年は確か三回だ。去年も前期に二回あったはずだが、何かをした覚えがない。
「いや、毎年『いつもより丁寧に清掃しましょう』って丸投げして普段通りの清掃時間があるだけ。」
「一昨年は放課後美化委員が一生懸命壁を磨いてたな。」
「あーあったあった。」
三年生達があーと頷く。
「じゃあ、普段通りか、美化委員だけが苦行を強いられる週間なんですね。」
「苦行を強いられるって、言いかた」
京楽がケラケラと笑いだす。
「まぁそういうことだ。」
「俺たちは何かするんですか?」
「するんだけど、まぁ毎年生徒会広報の清掃週間特別版作るだけかな。後は階段前の掲示板に貼る『今週は清掃週間です。なんとかかんとか~』って張り紙作る」
「去年のはこれだな」
そう言って篠宮が人数分プリントを配る。去年の広報のあまりと張り紙のコピーのようだ。
「あぁ。ありましたね。」
昨年の事を思い出す。正直あまり見ていなかったので『ありましたね』というより『あったかもしれないですね』という感じだ。
「こういうのって誰も読まないよね~」
紙を見た仙道のつぶやきに、そうですね。と頷いて見せる。実際輪総も読んでいない皆の内の一人だ。
「まぁ、誰も読まないんだけど、今日はこれの内容決めまーす。」
「折角だから今年は読んでもらえる感じにしたら?毎年こんな感じじゃん。」
「たしかに!」
言うや否や『生徒会清掃週間広報改革』とホワイトボードに書き加える。
「長いし漢字多くて分かりづらい。」
篠宮からのダメ出しが出る。
「いいよどうせメモだし。あ、要ちゃんこれ書き写さなくていいからね!」
「はぁ。」
「はい!じゃあまずなんで読んでもらえないと思う?」
「まず字が多い。」
「わかる!」
ボードに篠宮の発言が書き込まれる。輪総は追ってそれを書き写す。
「私も毎回なんでこんなに沢山文章考えなきゃいけないのって思ってた。」
どうやら去年の文章を考えていたのは京楽らしい。
「じゃあ絵を増やそう!」
「いいね!」
今度は仙道の出した解決案が書き込まれる。
「文字数減って楽だなぁ。あ、でも今度は絵を描くのが大変じゃん...」
「そういえば私たちイラスト向いてないんだった。」
嬉しそうな声から一転、項垂れる京楽に仙道も自分たちの画力を思い出して頭を抱えた。
「まぁでも、会長は一応絵が下手という訳では無いし...」
「寧ろ上手いですよね。」
「会長がリアルじゃない絵も描けるって私、信じてるよ!」
「かまわないが、リアルじゃない絵というのはどういう感じだ」
なるほど。篠宮はデフォルメされた猫の姿を想像することができないからあの絵を描いたらしい。つまりさまざまなキャラクター、デフォルメされたデザインを頭に入れれば不可能でもなさそうだ。
「イメージがわかってれば描けるなら、あれ描いたら?」
「あれ?」
「マスコットだよ。折角作ったんだしさ、生徒にももっと知ってもらえるようにたくさん出した方がいいだろうし。」
「なるほどね。じゃあ会長はククニャンを描くってことで。」
そう言ってホワイトボードの『字が多い。』から矢印を伸ばして『絵を入れる。(ククニャン)』と言う文字とともになんとも言えないククニャンらしき絵が描き込まれる。
要も書かなくていいと言われた『生徒会清掃週間広報改革』の文字とともにそれらを書記のノートに書き写す。ククニャンのイラストは省略させてもらう。
「じゃあ、文章の内容についても考えようか」
「うーん。学校の掃除の仕方ばっかりで正直興味がわかないですよね。もっと日常的に使える掃除の裏技みたいなことを書いた方がいいんじゃないですか?」
こうは言ったが輪総はこう見えてもめんどくさがりやで自室を綺麗にしている方でもないので、掃除法なんてどのような内容でもさして興味が湧かないというのが本音だ。
「学校の掃除関係なのは仕方ないけど...まぁでも確かに興味が湧く内容と一緒だったらついででも読んでもらえるかもしれないし、掴みとしていいんじゃない?」
本人的には割といいかげんな発言でも仙道が同意してくれる。
「或いは、学校の掃除法について書いて最後に家ではこういう掃除に使えるとか書けばいいんじゃないか?」
「そっか!」
内容についても大方纏まったようだ。
「そういえばこういう掃除法ってどこで調べるの?」
去年の広報に目を通していた仙道が尋ねる。
「調べるっていうか、先生に聞くの。全然関わりないから名前忘れちゃったけど...あの、中学の家庭科教えてる先生にさ」
「あーあのおばあちゃん先生。じゃあ私聞きに行ってくるよ」
「わかった。会長はイラスト担当だから、文章まとめるのは今年も私ですな。」
「あ、俺も文章手伝います。」
特に話し合いもなく決まっていく役割分担をノートに記入しつつ、京楽に声をかける。
「なに~要ちゃん?先輩に気使わなくていいの。部活もあるし忙しいでしょ?」
「だから“手伝います”」
「ふーん。じゃあ一緒にやろっか!」
「はい。」
声をかけたのは単純に自分にだけ仕事の割り振りが無かったからだ。しかし仙道にやたらとニヤニヤした顔を向けられる。
「なんですか?」
「いや、放課後二人っきりで作業とかしちゃうのかな~って」
普段はしっかりしており、輪総がからかわれていると寧ろ助けてくれるような人なのだが、こういうときに人をからかうところは少々面倒臭い。
「いっちー何か言った?」
「いや、別に?」
小声で発された言葉はどうやら京楽には届かなかったようだ。もとより輪総にだけ聞こえればいいようなことなので、なんでもないとてきとうに誤魔化す。
「そう?」
京楽はまだにやけのおさまらない仙道を不思議そうにのぞいたが、時間を確認するとすぐに解散の号令をかけた。

「じゃあ、これで今日の会議は終わりにしまーす!きをつけ、礼。解散!」
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