この世は地獄論

文字数 936文字

私は釣りが趣味であった。
海へ赴き、周辺のごみを拾い、風を感じ、虚無を過ごす。
それをする理由として釣りが趣味であるとするのは、他人に説明するのに都合がよかった。

要するに、釣りが目的では無いので必然的に昼間しか海にはいかない。
なんといっても暗い中水辺をウロつくのはとても危険だ。
正気の沙汰とは思えない。

そんな私だったが、"ついで"の釣りでもやはり釣れると嬉しいものである。
釣りにおいて、釣れている時間と釣れていない時間では圧倒的に釣れていない時間の方が多い。
釣れていない時間はいろんな事を考えるのにちょうどよかった。

勿論どうしたら釣れるんだろう、と考える事もあったが
何故、自身の人生がこんなにも苦しいのだろうか、と。

この世は地獄と言うが、仮に地獄であったとするならば虚無地獄である。
私はいろんな趣味を試してきていたが、たいていの趣味はQ.O.L…
つまり、人生を豊かにするようなものではなかった。
ちょっと良いなと思った趣味も、もの思いに耽る時間を取るための口実に過ぎず
結局の所何かが楽しかったりだとか、達成感が嬉しかったりだとか
そういった感情で行っている事は殆どない。

そして今日もまた釣りへ出かけ、何も釣らずに帰り、家族には
「またボウズなの」と言われ、能力の低い人間だと認知される。

しかし、釣りへ行くのは所詮口実であり、私にとってはどうでも良い事なので構わない。
そんなことよりも、日々着実に募ってゆく負の感情の方が大問題である。
取り繕って表には出さないが、正直な所、もう限界が近い。
今すぐ楽にしてくれるというのならば、喜んで受け入れる。

しかし、このようなタイミングに限って別のイベントが発生してしまった。
もう絶対に逃れられない、実子と言う名の地獄への足枷が出来た。

さて、ここまで「この世は地獄である」というていで書いてきたが
本当にそうなのだろうか。
実際の所私は子供が出来た事についてとても喜んでいる。
楽しい事は相変わらずなにひとつ無いが、子供のおかげで自死への抑制が出来ている。
本当に地獄であるならば、このような助け舟がこんなにも都合よく出るだろうか?
これが「蜘蛛の糸」という奴なのだろうか。

そんなことを考えて、今日もまた憂鬱な気持ちで夜更けまで起きている。
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