第1話

文字数 856文字

「コイン」

兄ちゃんと一番良くやった遊びは、コインの裏表当てゲームだった。

コインを投げる前に裏か表を予想して、当たったほうがプラスチックのハンマーで相手を殴り、外した方はクッションかなんかで防御するのだ。やり始めると結構燃えて、暇な時はぶっ通しでやってた。
秀才だった兄ちゃんはいつもいろんな確率の計算をして予想していた。
俺は適当に気が向いた方を言っていた。でも勝ち負けは大体同じくらいだった。

一度俺のハンマーが完璧にヒットして兄ちゃんの額が切れ、血がむちゃくちゃ出た事があった。その時はお袋に死ぬほど怒られた。
でも兄ちゃんはそんなに怒ってなくて、額ををタオルで押さえながら今度はコイン二枚でやってみたらどうなるかな、とか言ってた。

だけど俺が中学に上がってからは、兄ちゃんは俺とあまり遊ばなくなった。というより、家や塾で勉強ばかりしていた。
友達もあまりいなそうだったので、俺がつるんでた奴らと遊ぶ時なんかに呼んだこともあったが、あまり合わなかったみたいで、次から呼ぶのは止めた。
まあ俺自身そろそろ自分の友達と遊ぶのが楽しくなっていたので、自然と兄ちゃんとの接点は減っていった。

兄ちゃんは中学を卒業して、学区で一番頭のいい学校に行った。それから奨学金をもらって俺でも知ってる東京の有名な大学に行った。
俺は家からチャリで行ける工業高校に行き、卒業して地元の自動車のトランスミッションを組み立てる工場に就職した。

親戚の法事で久々に兄ちゃんが帰ってきた。大学を出て、アメリカの株みたいなものを売る会社に入ったことを親が親戚に自慢していた。
何年ぶりかに会った兄ちゃんは、喋り方とか顔が数学と科学とかのムカつく教師みたいになっていた。
それだけで軽くイラっとしていたのだが、親戚の飲みの席で俺に、ずっと地元から離れないで何も挑戦しないだとか、人生を良くする気が無いとか言って絡んできたので、俺も、お前みたいなやつが地元をダメにすんだよ、と言い返し、はずみで一発殴った。
多分それが原因で、兄ちゃんは帰省してこなくなった。
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