第2話

文字数 928文字

俺はそれからも地元で暮らした。彼女は出来たり別れたりしながら、車とかスノボとか、好きなことをしているうちに、気付けばあまり若いとは言えない年となり、地元の友達は大体結婚していた。なので俺もその時付き合ってた彼女と結婚とか考えるようになってた。
でも酒も飲まずに一人で過ごす夜などは、兄ちゃんの言葉を思い出す日もあった。

確かに、俺の人生はそんなに大した人生とは言えない。
だからと言って、新しい生活や挑戦をはじめるとかは考えることはなかった。
だって人生なんて元々そんなに楽しかったり、刺激的なものでもないだろ。

とある年の梅雨が終わる頃、仲間とそろそろキャンプでも行くかと話していた頃、兄ちゃんは街に帰って来た。
正確に言えば、街の病院に。

お袋の話によると、株の仕事がキツすぎて兄ちゃんは心がぶっ壊れたということだった。
あの日ぶりに会った兄ちゃんは、むかつく教師というより、定年したおっさんみたいな感じだった。
まだ30ちょっとなのに。

まあ俺も暇だったので、ちょくちょく見舞いには行った。
しかし参ったのはベッドに座ったきり、何にも喋らないことだ。
最初のうちはイライラしたが、無理に喋らそうとするといきなり花瓶の水を飲み出したりするので、喋らすのは諦めた。

気長に付き合いながら色々試してみた結果、一番効果があったのはガキの頃にやったコインのゲームだった。

昔使ったプラスチックのハンマーはとっくになくなってたので、代わりにドンキで買ったすごい音の出るハリセンで殴ると、兄ちゃんはようやく声を出して笑った。
それから俺らは看護婦に注意されるまで、一時間くらい表とか裏とかいいながらお互いの頭を殴りまくった。

今兄ちゃんは少し良くなり、家にいる。

俺は何人目かの彼女と結婚し、子供が2人産まれた。

兄ちゃんがやけに子供を可愛がってくれるので、それはそれで助かっている。何故か嫁とは話そうとしないが。
この前は、子供達にコインのゲームを教えようとしていた。とりあえず、余計な事教えんなと言っておいた。
何にせよ、兄ちゃんが元気になったのはよかった。まあ、兄弟だから。

もう少し良くなったら、いつか嫁でも紹介してやろうかと思ってる。
本人が喜ぶかどうかは分からないけど。
(終)
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