第9話【はんぶんこ】

文字数 1,703文字

 兄弟は悩んでいた。
 出来れば、一回で決めたいのだが、そのためには、水平線は一本しか入れられない。では、どこに、どの向きに、どの角度で水平線を引けばいいのだろうか?
 これは、かなり切迫した問題だ。時間的な猶予も差し迫っている。

 まず、話し合いの結果、対象物が不規則な形状の立体であるため、3Dスキャンを使うことで意見は一致した。しかし、対象物の性質上、センサーが直接触れることは極力避けたい。
 そこで、非接触式の光学式3Dスキャンを大学の研究室から借りることにした。いや、それしか策はないのだ。
 しかし、非接触式3Dスキャンを以ってしても、軽微な接触は完全には避けられないようだ。というのも、このスキャンは三角測量の原理に基いてデータを読み込んでいくため、一つの対象物の取り込みには、様々な角度から何回も繰り返し撮影を行う必要があった。なので、それらの情報を一つの立体物のデジタルデータにまとめ上げる為には、予め対象物の数ヵ所にマーカーを付けておかなければならないのだ。
 でもまぁ、どのみち対象物の表面の膜は不要物であり、最終的には薄く剥き取ることは確定している為、多少のマーキングぐらいは問題ないであろうと合意した。少なくとも、直接接触するよりは、ずっとマシな方策と言えよう。

 そのようにして、どうにか取り込めたスキャニングデータからCADデータを作成し、対象物の解析を始めた。これは、決して不公平にならないように兄弟共同作業で実行したのだが、互いを牽制し、監視し合いながらの緊迫した作業となったことは言うまでもない。
 ランダムで不安定な形状の立体とは言え、CADで解析すると、その体積を二等分する断面ラインの候補は、限りなく存在することが分かる。しかし、その中で、どの切断面を採用するかは、慎重に議論しなければならない。

 何故なら、柿の実は同じ個体の中ででも、部位により味や歯応え、糖度や含水率などが微妙に異なるのだ。その差異も想像出来得る限界値で考慮に入れ、可能な限り兄弟仲良く半分こにするため、どのラインに包丁を入れるのかはとても重要な選択になるのだ。
 例えば、ヘタを上にして、上下に二等分した場合、間違いなく下部を選んだ方が美味しく味わえるに決まっている。いや、嗜好の違いは人それぞれなので、上部を好む人もいるかもしれない。ただ、大切なことは、この場合は体積は全く同じでも、公平に分けたとは言い難いのだ。今、兄弟が求めていることは、完全なる半分こ。そうなると、必然的に採用すべき断面は限定されてくる。
 そう、やはり、芯を通る縦方向に分割すべきであろう。しかし、自然物には完全な直線がないように、完全なる球体も存在ない。もちろん、完全に左右対象となる物体も自然物には存在せず、微妙に傾けるか中心を逸らすしかないのだ。
 以上を踏まえた上で、モニターのサンプル画像を見ながらも、お互いの言い分は衝突を繰り返した。そして、数時間後、白熱した議論はついに着地点を見出し、兄弟は採用する水平線を決定した。

 さて、今度は治具を作らなければならない。CADに引いた水平線を実際の柿へトレースし、垂直裁断機へ固定しないといけないのだ。
 つまり、裁断する際に少しでも位置や角度がズレると、兄弟の取り分に僅かな不公平が生まれるため、完璧な固定が必須なのだ。
 そこで、再びCADデータを活用し、実物大の石膏型を作成した。断面が垂直になるように固定台と石膏型を連結させ、水平器で台に傾斜がないか確認しつつ、柿の形状を完璧に再現した石膏の空洞部へ実際の柿を嵌め込んだ。そして、鋭利な裁断刃をギロチンの要領で垂直に下ろすと、ようやく柿は二等分された。

「いただきまーす!」


 空腹も限界に達し掛けていた兄弟は、秋の恵みをガッつくように囓った。皮剥きは各々がセルフで行なった。
 しかし、ようやく一口食べた瞬間に、兄弟は顔を見合わせ苦笑した。

「うわ、最悪だ! この柿、種あるじゃん! 折角二等分したのに、これだと果肉の分配比率が変わってくるよ」
「そうだな。でもまぁ……それぐらいの誤差には目を瞑ろうではないか」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み