第一話

文字数 1,219文字

くだらない事が多すぎる…

そう小声で呟いた。日曜日の午後、若者達で賑わう街を歩く。右も左も前も後ろも何処を見ても、先程から同じ顔、同じ髪型、同じ服装の人ばかりだ。おまけに手に持っている飲み物まで同じ。
まあ実際には、メイクが微妙に違ったり、髪の色も黒やら茶やら、もちろん服の色だって違う。クローン人間ではないのだからそれはそうだ。
でも、パッと見は皆同じ。
そんな事を思ってる僕の出で立ちだって、青く染めた毛が色落ちして緑がかったボサボサのマッシュルームヘアに、オーバーサイズのボロボロで穴だらけのミリタリージャケット、好きなアーティストの黒のTシャツに黒のスキニーデニム、足元はヨレヨレの赤い8ホールブーツといった平凡な格好だ。
ただ、今の所、この街で同じ【僕】を見ていない。
一昔前は個性的な人達が集まる街として、天に突き刺す様なモヒカンのパンクスやクールなロッカー、さらば青春の光よろしくのモッズ系、チューブを服に付け奇抜な髪色のサイバー系や人形と見間違う様なロリータ系、何十万もするヴィンテージ物を纏う正統派古着系、モノトーンを主流としたモード系、更には自分で古着をリメイクして着ている人、まだまだ他にも様々なジャンルの人達がひしめきあっていた…
右も左も前も後ろも何処を見ても個性的な人で溢れていた。映画、音楽、小説、漫画など人と同じ物が好きでも、人と違う個性を見せつけていた人で、より街が華やかに見えた。
しかし、いつの間にか「右へならえ」へと変わっていき、そういった人達も徐々に姿を消していった。
そして、現在の金太郎飴ファッションで溢れる世界が出来上がったのだった!ハラショー!
そんな事を考えながら歩いていると、前からスマートフォンを操作しながら歩いてくるスーツ姿の男性がいた。皆、わざわざ彼を避けている。それにも関わらず彼は操作を止めない。
年齢は43歳くらい。あだ名はおそらくスマホのケンちゃん。会社ではそれなりの地位。割と高そうなスーツに、これまた高そうな革靴。おそらく結婚していて子供もいるだろう。そして、家でもひたすらコネコネと操作してるはず。知らんけど。
向こうは僕に気づいていない。このまま僕が避けなければ確実にぶつかる。僕は何故か妙な期待感を抑えながらも避けずに歩き続けた…

ドンッ!

僕の胸にスマホがぶつかったその刹那、

「チッ!」

ケンちゃんの舌打ち。
チッ!じゃねーよ!コラ!怒りに満ちた手でケンちゃんの家宝のスマホを取り、地面へと叩きつけ…る訳ない。
ケンちゃんは「チッ!」と見事なまでの舌打ちをすると謝る事もなくスタスタ歩いて行った。ブラボー!
僕が男だから胸に当たっても良かったものの(まあ、よくないが)、これが女性だったなら…ケンちゃん今頃どうなっていたのだろう…さよならケンちゃん。
ケンちゃんとの別れを惜しみつつ、歩いていると、妙な物…この街に似つかわしくない物が落ちていた。
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