第二話

文字数 1,680文字

【ソレ】は、金太郎飴製造シティ…否、お洒落な街の道に落ちているには、あまりにも場違いな物だった。
オーパーツかな?とさえ、一瞬思った。
僕はソレを拾い上げ、落とし主を探そうと思った。落とした人はきっとこの先…まあ早ければ今夜あたり困るだろうから。
僕はソレを空へ高々と掲げた。その行動を見てクスクス笑う人もいた。しかし、気にするもんか!落として困ってる人がいるのだから…と思っても皆素通りするばかり。内気な僕が道の真ん中で手を上げてる事自体恥ずかしいのに、落とし主を見つけたい一心で大声で叫んだ。
「こ、こ、これ、落としたひ、ひといませんかァー!」
最後の「かー」が「かァー」と声が裏返ってしまい、余計恥ずかしくなった。
が、そんな自分の健闘虚しく落とし主は見つからなかった。それどころかクスクス嘲笑う人やコソコソ「何あれ?こわい」などと言われる始末。
僕は何故なぜナゼNAZE?と混乱し、高々と掲げたソレをポケットにしまい、何事も無かったかのように歩き出した。ただ、目の中には小さな小さな海が出来ていた。
ポケットの中でソレをもて遊びながら、喫茶店を探した。アイスオレンヒーが飲みたいから。
それと、「ネェー、マスター」と言いたいから。
しかし、歩けど探せど失恋レストランはおろか喫茶店がない。カフェはあるけど喫茶店がない。
カフェはその昔、ラージやらトールやらフラペチーノやら謎な言語が黒船のように押し寄せて来た時に「お洒落なカフェはな、ドレスコードがあってな、お前みたいな奴が入るとブザーが鳴ってな、強面の男達に締め出されるぞ」とカフェに行った親友に教えられて以来、こわくてカフェには入れないでいた。
そして僕は途方に暮れ…ようとしていた時、目の前に…あった。そう、あったのだ!其れは紛れもなく僕の視界に入ってきた
【喫茶店】
と書かれた看板。
この冷たい人間砂漠の中で辿り着いたオアシス。
店の前まで来て、改めて看板を見てみた。
【喫茶 佐清】
喫茶店の名前にしては多少違和感のあるスケキヨ…それも、あえての漢字。マスターは横溝正史好きなんだなぁ。とニヤニヤしながらドアを開け中へ入った。
「いらっしゃいませ」
白髪の男性に席へ通された。席へ着き「ネェーマスター」と声をかけてみた。一瞬怪訝な表情が浮かんだがすぐに笑顔に変わり「ご注文は?」と聞かれた。
僕はメニューも見ずに

「アイスオレンヒー」

と答えた。
が、また怪訝な表情をされ「アイス…コーヒーですね?」と聞き返された。
いや、違う違うそうじゃない。僕はアイスオレンヒーを飲みたいのだ、すぐにでも。
だから、さっきより大きな声でハッキリと

「ア イ ス オ レ ン ヒ ー」

と笑顔で注文した。
にも関わらず、今度はハァ?コイツ何言ってんだ?と思ってるのが露骨に表れた顔をされた。
僕は、これはマズイ。アイスオレンヒーが飲めなくなると思い、機転を利かせて

「じ、じゃあ、アイスコーヒー1つとオレンジジュース1つ下さい」

と笑顔で注文した。すると、ようやく「かしこまりました。少々お待ちくださいね」とカウンターへと入っていった。
アイスオレンヒーとはアイスコーヒー4に対してオレンジジュースを6で割ったものだ。
これが何とも言えずに不味い。後味残るし、口の中がとんでもない事になる。ただ不味いだけの飲み物。それを平気な顔して飲むのが格好いい。
待ってる間、店内を見渡した。佐清と言うだけあって、本棚には金田一耕助シリーズが!おお、壁にはスケキヨマスクが!飾ってない。
本棚には雑誌や漫画本、壁には誰が描いたか知らないが構図の滅茶苦茶な絵が3枚画鋲で留められていた。何だかガッカリしていると、来た。
アイスコーヒーとオレンジジュース。
まずはオレンジジュースを飲んで減らし、更にアイスコーヒーも飲んで減らし、適量になったら、2つを合体させてストローでくるくる混ぜれば…はい。アイスオレンヒーの完成。
アイスオレンヒーを飲みながらポケットの中で例の【ソレ】を握りしめ、ある事を考えていた…
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