それはある日唐突に始まった

文字数 1,565文字

 いつからだろうか? 
 珈琲を飲む様になったのは。
 正確にはカフェモカだが。朝に飲むと眼が程よく醒めて良い。子供の頃はこういった類は珈琲牛乳だけだった。
 多分、病にかかってからは珈琲類をしばらく口にしていなかったと思う。精神の病にとって何故かカフェインは効果覿面の様子だった。
 こういったものを口にするのは職業に就いてからだと感じる。
 この頃は良く羊鍵シモン先生と小説を描いていた。
 良く先生は自分のことを「兄」と呼び慕ってくれた。詳しい理由は訊かなかったがあの真面目な先生のことを考えると多分教会に先に所属していたのと年上だからだろうなと考えた。

「羊鍵シモン先生、小説描いてみませんか?」

 そう言ったのがきっかけだった気がする。
 当時はNOVELDAYS様にて聖書ラノベ新人賞が開催されていたのが動機だったと思う。我ながら大胆なことをしたものだ。
 普段の日曜日は礼拝があるので自然と夜集まることが増えた。
 夜はあいにくと珈琲は飲まない。朝方飲むからこそ良いのだ。
 二人でプロットを練り、夜の最中執筆に励んでいた。
 大体、プロットは羊鍵シモン先生が考えていたが。
 自分はパンツァーなのでプロットはほぼ組み立てないのが習わしとなっていた。
 しかし、この頃自分は一つの問題を抱えていた。今のペンネームと異なるペンネームを使い分けていたのだ。折しもどちらかが入選したら賞金は山分けと言う約束をしながらだ。最初の方こそ盛り上がって描いていたが順位が一気に落ちると二人してやる気を削がれていった。

 その内に問題が実家で発生していた。

 祖母が倒れ、寝た切りになってしまったのだ。俗に言う介護離職というものだ。正職の道を断たれるのは辛いが仕方のないことだった。教会の活動を羊鍵シモン先生に託して自分は帰郷した。

 帰郷する際に羊鍵シモン先生にジンギスカン鍋をご馳走して貰ったことは永遠に忘れないだろう。北海道がいかに食の宝庫なのか知る良い機会だった。ご飯を何杯もおかわりしたのを今も憶えている。

 しかし、就職はうまく行かない。何とかパートに就けたのは良いが、家族の負担を考えると働き足りない。

 その空き時間で小説を描いていたのだが、「聖ロンギヌスのちょっとした物語」が佳作に入選した。初めの頃こそ意外だと思いきや、すぐに次の問題に気付いた。入選した際のペンネームは本来のもの。羊鍵シモン先生に渡したペンネームと違うものだ。

 正直に報告しなくては。何日も延々と悩んだ後、電話をかけた。正直、絶縁されてもおかしくない案件だったと思う。

 しかし、当人は「兄、おめでとうございます! これからは兄のペンネームを全面に押し出していきましょう!」と拍手喝采。

 自分は卑小な器だと感じた。羊鍵シモン先生が喜んでくれる。恨み言の一つ位言いたくなるかも知れないのに。ここに至って先生の器の大きさに気付かされたのだ。おそらく、先生は自分のことを先輩の様に慕ってくれているが、実際には真逆で先生の方が先輩なのだと感じた。

 あれから又珈琲を朝飲む習慣がついた。仕事に行く際は少量のカフェインを口にする。

 その内、職が変わって今度は辛うじて事務職に就けた。

 羊鍵シモン先生はⅤTuberの活動を始めたらしい。苦労しながらも収益化に成功し、今は望む方々にノウハウを伝授したいと語っておられた。

 先生は文才もあった様で小説も描き上げていた。訳あって断筆したのだが、掲載の承諾を頂いて今も掲載させて頂いている。

 明るい朗らかな先生。誤解されやすくて、それでも正義感を曲げない先生。

 言った方も言われた方も照れることだが、これが自分達の物語の始まりであることは言うまでもない。いや、豪胆な先生だから案外笑い飛ばしてくれるかも知れない。

 今も続く道は果たしてどこに辿り着くのかなあ。
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