第1巻(1~5章)

文字数 8,858文字

 『この物語を、特撮を見て育った、全ての少年少女たちに捧げる』

 ●1、「撃滅戦隊バクレンジャー」

 子供たちの大好きな正義の特撮ヒーロー。今日もテレビで番組が始まりました。タイトルは『撃滅戦隊バクレンジャー』。バクレッド(男)、バクブルー(男)、バクイエロー(女)の3人と、怪人カエル人間が戦っています。どうやら今日が最終回のようです。

「バクレンジャー!パンチ!&キック!(ビシッ!バシッ!)」
「バクレンジャー!レーザーブレード!(キン!キン!ズバッ!)」
「バクレンジャー!ビーム!(ピューン!パン!パン!)」

 正義のヒーロー、バクレンジャーの3人が、それぞれの武器で、怪人カエル人間を攻撃しています。3人対1人(1匹?)なので、カエル人間の方が劣勢です。そこでカエル人間は、最後の必殺技を出そうとしたのです!
「ケーロケロケロ!バクレンジャーよ!こうなったら俺様の最後の技を見せてやる!これで地球は俺様のものだ!見よ!究極!大ガマ変化~!」
 怪人カエル人間がそう叫ぶと、煙がみるみる広がり、巨大な大ガマに乗ったカエル人間が現れました。
「こいつは!」
「でけえ!」
「いや~ん!何コレ!ますます気持ち悪~い!」
 驚くバクレンジャー達に、カエル人間は勝ち誇って言いました。
「ゲーロゲロゲロ!どうだバクレンジャーよ!この大ガマには敵うまい!死ねー!究極!大ガマ乱舞~!」
 カエル人間がそう叫ぶと、大ガマが乱舞しながらバクレンジャーに突進し始めました。このままでは踏み潰されてしまいます!
「ヤバイぜ!レッド!この大きさじゃ歯が立たねえ!」
「ねえリ~ダ~!どうするの~!気持ち悪い~!」
「こうなったら、あの技を使う!」
「まさか!やるのかあれを!」
「ついにあの技を使うのね!」
「ああ!みんなの力!俺に預けてくれ!行くぞ!アルティメット撃滅奥義!」
 バクレンジャーがそう叫ぶと、まばゆい光と共に、巨大な大砲が現れました。
「ゆくぞ!必殺!バクレンジャー!大爆殺イリュージョン!」
 バクレンジャーがかっこいいポーズを決めてそう叫ぶと、大砲からまばゆいビームが発射され、カエル人間に命中しました。
「ゲロゲロゲロギャー!」
 次の瞬間、カエル人間と大ガマは大爆発し、跡形もなく消え去りました。
「やったぜレッド!大爆発!撃滅大勝利だ!」
「ああ!ついに俺たちは地球を守ったんだ!」
「は~!スッキリした!ホント気持ち悪いの無理!ねえみんな!気分転換にスイーツ食べに行かない?」
「はは!イエローらしいな!どうするレッド?」
「ああ。口直しが必要だな。戦士の休息!パーッと行くか!」
「やった~!あのね、今度新しく出来たお店なんだけど…」
 3人は、楽しく語らいながら去って行きました。
 そして夕日に向かって、3人が乗ったバイクが並んで走って行きました。
「こうして地球の平和は守られた!ありがとうバクレンジャー!さようなら撃滅戦隊バクレンジャー!」
 渋い、良い声をしたナレーションがそう言って、バクレンジャーの最終回は終わりました。

 めでたし。めでたし。
 ではありません。この物語はここから始まるのです。

 ●2、「ヒーロー制作会社」

 東京都練馬区大泉学園。ここは、正義の特撮ヒーローや、アニメを作る会社のある街です。撃滅戦隊バクレンジャーも、この街にある『宝映』という会社で作られました。もう50年以上も、正義の特撮ヒーローを作り続けています。作品を作るにあたり、一番偉いのが、監督と、プロデューサーという人です。もちろん、会社で一番偉いのは社長ですが、社長は他にも仕事があって忙しいので、お話の内容を決めるのはこの2人に任せているのです。なので、作品作りで一番偉いのが、この監督とプロデューサーなのです。今日、この2人は、バクレンジャーの最終回の放送を会社で見ていました。バクレンジャーが、テレビを見ている良い子にお別れの言葉を言っています。

  ***テレビ画面
「良い子のみんな!今まで応援ありがとう!バクレンジャーは今日でおしまいだよ!」
「だが!心配は無用だぜ!何と俺たちパワーアップして、帰ってきちゃうかも?」
「あ~ん!ダメダメ!まだ内緒よ!でもテレビの前のみんな!私達!きっとまた会えると思うわ!」
「うん!そうだな!みんな!期待して待っててくれよな!それじゃ!」
「さようなら~!」
  ***

 こうしてバクレンジャーは本当に終わりました。最終回を見終えたプロデューサーと監督は、満足げに話し始めました。
「いやー、監督!今作も大成功でしたね!怪人達が次々に爆発する姿に、子供たちも大喜びですよ!正義は勝つ!ヒーローグッズも爆売れです。監督の方にも少しですがボーナスが出る事になりましたので」
 プロデューサーが大喜びで話すと、監督はこう言いました。
「ハッハッハ!そうかそうか!いつもすまないねえ。しかし、君。私は金が欲しくてやってる訳じゃないんだよ?子供達に正義の心を伝えたいんだ。悪い怪人達をなぎ倒し、大爆発させる!それによって、子供達に正義の心が刻まれるんだよ!勧善懲悪!正義は勝つ!これからも、この正義の心を伝えていきたいねえ」
 監督の言葉に、プロデューサーは調子良く話を合わせて言いました。
「いやー!ごもっとも!お金じゃありません!正義の心です!我々は教育番組を作っているんです!次回作もがんばりましょう!監督!よろしくお願いします!」
「ハッハッハ!こちらこそよろしく頼むよ!次回作も新必殺技でバンバン怪人達をやっつけてやるからな。ハッハッハ!あ、ところで君、さっきちょっとボーナスが出るとか言っていたかな?いくらぐらいなのかな?」
「ああ!そちらの件ですが、大体このぐらいで」
 プロデューサーからボーナスの額を聞いた監督は、目を見開いて大喜びしました。正義のため、教育のためと言いながら、やっぱり2人はお金が大好きなようです。

 ●3、「宝映神社での出来事」

 それから数日後、宝映の屋上に設置された神社で、新作戦隊ヒーローの成功祈願式が行われていました。新作の撮影開始の前日には、必ずこの神事が執り行われます。撮影で事故が起こらないよう、神主さんに頼んでお祓いをしてもらい、そして作品がヒットするよう、みんなでお祈りするのです。今回も、監督やプロデューサー、撮影スタッフなどが集まり、神事が始まりました。神主さんが祝詞(神主さんが使う不思議な呪文のような言葉)を唱えています。
「かしこみ~、かしこみ~。此度~、撮入を迎えまする~、新作戦隊ヒーロー番組の撮影が~、怪我の無く~、無事に執り行われますよう~、そして~、作品が大ヒットいたしますよう~、この地の大神様に~、かしこんで~、祈願致しまする~、かしこみ~、かしこみ~」
 皆、神妙な面持ちで、神主さんの祝詞を聞いています。でも、監督の様子が少しおかしい?ちょっとふらふらしています。もしかして二日酔いでしょうか?それでも神主さんは式を続けます。
「それでは、監督様、貢物の奉納をお願いいたします。参列者の皆様は、監督様に合わせて、頭をお下げください」
 その言葉を聞いて、監督は神主から貢物受け取りました。監督は、もう何回もこの儀式をやっていて、慣れっこになっているので、ちょっと適当な感じがします。
 (うう~。二日酔いだ。気持ち悪い。えーと。何だっけ?この貢物を、祭壇に供えて、パンパンと手を叩けばいいんだろ?よーし!まかせろ!)
 そう余裕を見せながら、祭壇に向かう監督。しかし二日酔いのせいか、ちょっと足元がふらふらしています。参列者は、監督の異変に気づきましたが、何もできす、やや頭を上げたまま、上目遣いで監督を見守ります。大丈夫でしょうか?
 (えーと、この祭壇に、この貢物をっと…。う、うぇ!)
 監督が貢物を祭壇に奉納しようとしたその瞬間!監督は急に気分が悪くなり、手で口を押さえようとしました。するとその拍子に、手元が狂い、貢物を祭壇に落としてしまったのです!すると、ろうそくは倒れ、祭壇はメチャクチャになり、大惨事の様相。一同もギョッとして固まってしまいました。
「あらららら!ちょっと!ちょっと!どうしよ!どうしよ!困ったな。あらららら。どうする?どうする?」
 困った監督が、どうしようかと神主の方を振り向いて訪ねようとした次の瞬間!神社から突然、光の柱が立ち上ったのです!世界は暗転し、雷も鳴り響き、天変地異の兆候が現れました。
「な!なんだ一体!何が起きているんだ!」
 驚きの声を上げる一同。監督は腰を抜かして尻もちをつき、後ずさっています。
「あ、あ…」
 神社から立ち上った光の柱は、ますます眩さを増し、ついに一同は目を開けていられなくなり、目を閉じました。そして光がやや収まり、皆がゆっくりと目を開けると、そこには何と、背に後光を背負った女神が光臨していたのです!
「あ、あ、ああ…」
 一同は言葉を失いました。神様に詳しい神主さんも、本物の女神様は見た事がなかったので、言葉を失っています。そこへ女神が語り始めました。
「人間達よ。私はこの宝映神社を司る女神です。お前達の作品が世に出るのも、全て八百万の神の加護があってこそなのです。それなのに、神聖なる神事をこのように汚すとは、一体何たる無礼か!」
 目の前で起きている事に半信半疑の一同。しかし、女神の発する本物の神の威厳のせいか、皆、自然と地に手を付き、頭を垂れるような格好になってしまいました。そして監督が答えました。
「は、はい。この度は粗相を致しまして、大変申し訳なく…」
 頭を下げて謝ろうとする監督に対し、女神が語気を強めて言いました。
「人間よ!私が今回、姿を現したのは、そのような小さな粗相のせいではない。お前達は、この番組の為に、一体どれだけの怪人達を殺めたのか!?」
 女神の予想外の言葉にポカンとした監督でしたが、何とか説明しようとしました。
「は?いやそれは、創作物ですから。作品の中の話でございまして…」
 それに対して、女神がさらに語気を強めて言いました。
「この愚か者!この神が作りし世界。いかな創作物と言えど、魂が宿っているのです。そして、お前達が殺めた怪人達の怨念が、もはや私の力では抑えきれぬほど増大しているのです!」
「は、はあ…」
 話がよく飲み込めない一同。それに対し女神は、人間に沙汰を下すように言いました。
「人間達よ。お前達は考えを改めなければなりません。それをわからせる為に、私はこれから、殺された怪人達に命を与え、世に放ちます」
「は?」
 ますます話が飲み込めない一同を前に、女神は儀式を始め、こう叫びました!
「蘇るが良い!人間達に恨みを持つ!怪人達の魂よ!」
 するとその言葉に呼応するように、神社の社殿がまばゆい光を放ち始めました。そして次の瞬間、その光の中から、今まで特撮ヒーローに倒された数多の怪人達が、現実の世界に蘇って現れたのです!
「うおー!人間達!俺たちを好き勝手に殺しやがって!もう許さん!」
 一同はあっけに取られて言葉を失ってしまいました。これは現実なのか?夢なのか?しかし、怪人達の中にカエル人間の姿を見つけた監督が、驚いて声を発しました。
「あれ!カエル人間ちゃんじゃない!え?何やってるの?着ぐるみだよね?」
 そうです。つい先日、バクレンジャーの最終回で放送したばかりの怪人カエル人間の姿を見た監督は、当然、着ぐるみを着た、中に人が入っている、作り物のカエル人間だと思い、そう声をかけたのです。しかし、その言葉を聞いた女神は、監督に蔑むような視線を向けてこう言いました。
「はあ。現実の世界に命を与えたと言ったでしょう?カエル人間よ、見せてやりなさい」
「ケーロケロケロ!」
 カエル人間はそう言うと、口から本物の毒液を吐き出しました。すると、みるみるコンクリートの地面が溶け始めたのです!
「うわー!きゃー!ほ、本物?!た、助けて!」
 怪人達が作り物でなく、本物だと知り、怯える一同。それを見て怪人達は歓喜しました。
「ヒャッーッハッハッハ!ついに蘇ったぞ!人間達め!俺たち怪人を好き勝手に殺しやがって!この恨み、晴らさでおくべきか!皆殺しにして、世界征服してやるー!キャーッハッハッハ!」
 奇声を発して歓喜する怪人達。その魔の手が人間達に伸びる。もはや命はないと、絶望して目を閉じる人間達。しかし、女神がピシャリと言いました。
「この愚か者!」
「え?」
 これから人間達への復讐を、と思っていた怪人達は出鼻をくじかれ、キョトンとしてしまいました。人間達も同様にキョトンとしています。そこへ女神が言葉を続けます。
「怪人達よ。お前達もお前達だ。何回同じことをやっているのだ?人間に危害を加えて、世界征服しようとして。それでは争いが生まれるばかりではないか?」
 話が飲み込めない怪人達は女神に訪ねました。
「はあ。そう言われればそうですが。じゃあどうしたら?」
「怪人達よ。世界征服などやめ、人間達との共存を考えてみるのです。お前達が危害を加えないと分かれば、人間達も受け入れてくれるかもしれません」
「え?」
「え?」
 女神の急な提案に、怪人達も人間達もキョトンとし、互いに顔を見合わせてしまいました。その光景に、女神が堪らず笑い出してこう言いました。
「アハハハハ!まあとにかく、お互い頑張りなさい!人間と怪人の共存!平和な世界の実現!楽しみにしてるわよ!ウフフフ」
 女神はそう言うと、光とともに姿を消しました。残された怪人達と人間達の間に気まずい空気が流れています。そんな空気を破るように、怪人の一人が話し始め、怪人達は相談を始めました。
「殺すのもダメ?世界征服もダメ?じゃあ一体どうするよ?」
「女神様は人間と共存しろって言うけど、そんな事できるのか?」
「まあとにかく、一回皆で集まって考えよう」
「そうだな、行こうぜ」
 怪人達の話はまとまり、ゾロゾロと去って行きました。残された人間達は、しばらく呆然としていました。

 ●4、「カエル人間家族」

 都内某所。ここはカエル人間の自宅です。あの後、怪人達は、それぞれのやり方で、人間との共存の方法を探って行こうという事で話がまとまりました。カエル人間は何とか空き家を探し出し、ここに住み着きました。今、家でくつろぎながら、考えを巡らせています。
 (吾輩は、怪人カエル人間である。カエルであり、人間である。と同時に。純粋なカエルではなく、純粋な人間でもないのである。非常に宙ぶらりんな存在なのである。こんな私が、女神様から『人間との共存』を仰せつかったのだが、これが非常に難しく、難儀しているのである)
 カエル人間はため息をつき、また考え始めました。
 (まず第一に、私には人間の言葉が発せられないのである。私が喋ろうとすると)

「ケーロケロケロ!」

 (このように、カエルの鳴き声のようになってしまうのだ。特撮ヒーローの番組内では、アフレコなる技術で声優が声を当てていたらしいのだが、現実の世界に来てしまった私には、そういう技法が通用しないのである。よって、街に出て人間と仲良くなろうとしても)

  ***回想・街
 街で人間に声を掛けるカエル人間。
「ケーロケロケロ?ケロケロケ?」
「キャー!何ですかあなた?イヤー!」
 逃げ出す人間。うなだれるカエル人間。
  ***回想終わり

 (このように、全く人間と意思疎通できないのである。当然、この容姿のせいで、見ただけで逃げられてしまう事もある。しかし、うーむ、困ったものである)
 狼狽した様子のカエル人間。ふと部屋の入り口に目をやると、そこへ何と、もう一人のカエル人間がお茶を運んで入って来ました。風貌から察するに、どうやらメス、いやいや、女性のようです。
 (そうそう、紹介しよう。私の妻の、女カエル人間である。『女カエル人間』という呼び方では気の毒なので、ケロ子と呼んでいる。彼女は私の事をケロ吉さんと呼ぶ。なぜそうなったのかはわからないが。そういう設定で女神様に命を与えられたらしい。ともかく、家族が居るという事は心強い。如何に、怪人仲間が居るとは言え、皆が一緒に暮らしている訳ではない訳であるから、人間の世界にポツンと放り出されるよりは、遥かに心強いのである)
 ケロ子に愛情の眼差しを向けるカエル人間。恥ずかしそうにするケロ子。二人は愛し合っているようです。
 (そうそう、家族といえば、我が家にはもう一人家族が居るのだが…。そろそろ帰ってくるのではないかな?)
 ふと掛け時計を見るカエル人間。そして窓の外へ目をやると、元気な子供の声が聞こえて来ました!
「ただいま!お父さん!お母さん!今日も人間の子供と遊んできたよ!」
 勢いよく飛び込んで来たのは何と!人間の子供です!10才ぐらいでしょうか?男の子のようです。その子供に、カエル人間夫婦が優しく話しかけます。
「ケーロケロケロ?ケロ?」
「うん!鬼ごっこして遊んだんだ!僕は捕まらないよ!」
「ケーロケロケ?ケロケロケケ?」
「大丈夫だよ!いじめられてなんかいないよ!楽しかったよ!」
「ケーロケロケロ!ケケケケケケ!」
「あははははは!」
 楽しそうに会話をしているカエル人間夫婦と人間の子供。しかし何とも不思議な様子です。
 (そう、もう一人の家族というのがこの子である。ケロ太と呼んでいる。人間と殆ど変わらぬ容姿をしているが、正真正銘の、私達夫婦の子供なのである。カエル人間の、人間の成分が上手く混じり合って出たのだろう。本当に殆ど人間と変わらぬ容姿である。一点、変わった点と言えば…)
 ケロ太のお尻に目を向けるカエル人間。そこには、オタマジャクシのような尻尾が生えていました。
 (そう、この尻尾である。『オータマジャクシはカエルの子♪』という歌があるが、カエルの成分がここに出たのであろう。私達夫婦からすれば、まさしく家族の証なのであるが、人間の子供と遊ぶとなると、いじめの対象になるのではないかと、それだけが心配なのである)
 ケロ太に目を向けるカエル人間。笑顔を返すケロ太。
 (さて、お気づきかもしれないが、このケロ太、人間とほぼ同じ容姿をしているが、加えて、人間の言葉もしゃべるのだ。そして同時に、私達カエル人間夫婦の言葉も理解する。いわば、私達怪人と、人間達との間の、唯一の意思伝達手段となっているのだ。これは、『人間との共存』への大きなカギとなるので、大事にして行きたいのだが、やはり、人間界との壁は大きいのである)
 カエル人間は、ケロ太の相手をしながらも、窓の外へ目をやり、また考えを巡らせ始めました。

 ※読者の諸君へ。ここまでの話がわかったかな?怪人達は、「人間の言葉は理解出来るが、怪人の言葉しか喋れない」。一方、ケロ太だけが、「怪人と人間、両方の言葉を理解して、人間の言葉で話す事が出来る」という事なんだ。僕もなるべくわかりやすく書くから、君たちもそういうつもりで読んでくれたまえ。作者より。

 ●5、「ケロ太、学校へ」

 ある日、ケロ太が遊びから帰ってくると、カエル人間夫婦にこう言いました。
「お父さん!お母さん!僕も学校に行きたい!放課後は皆と遊んでるけど、僕もちゃんと学校に行って勉強したいんだ!いつになったら行けるの?」
 純粋なケロ太の眼差しに、カエル人間夫婦は困りながらも、ひそひそ会話を始めました。

 (あなた、どうしましょう。私もこの子を学校に行かせたいわ)
 (うん。私も同感だ。しかし…)
 (親が私達では、やっぱり無理かしら…)
 (うーん。とにかく、一度、学校に行って、先生にお願いしてみるしかないな。これも共存への第一歩だ。やってみよう!)
 (そうね、うふふ)

 夫婦の会話が終わりました。結果をケロ太に伝えます。
「よーし!ケロ太!明日、家族3人で学校に行ってお願いしてみよう!」
「やったー!僕!勉強がんばるよ!」
「アハハハハ」
 大喜びのケロ太。その姿を見るカエル人間夫婦も嬉しそうです。果たしてどうなるでしょうか?

 翌日、カエル人間夫婦は、ケロ太を連れて近所の小学校に来ました。
 (ここまで来ちゃったけど、本当に大丈夫かなあ)
 カエル人間はそんな不安を持ちながらも、意を決してインターホンを押しました。しばらくすると、若い女の先生が出てきたのですが、カエル人間家族の姿を見た途端…
「な、な、何ですか?あなた達は!あ、あ、あ…」
 と驚いて絶句してしまったのです。ああ、やっぱり驚かせてしまったと思いつつも、カエル人間が懸命に説明しようとします。
「ケーロケロケロ。ケロロケロ」
 しかし、カエル人間の言葉は、普通の人間には通じないので、ケロ太が一生懸命、通訳します。
「先生!はじめまして!えーと、この子は、つまり僕は、私達の子供で、つまり、僕はこの人達の子供で」
 身振り、手振りを交えて通訳するケロ太。しかし何とも不思議な光景です。
「ケーロケロケロケロケケ?」
「つまり、この子を学校に入れたい、という言は、つまり、僕はこの学校に入りたいって事なんですが!入れますか?」
 説明を終えたケロ太。それを困惑し、絶句しながら見ていた先生でしたが、なんとか声を絞り出して言いました。
「だ、だ、ダメですよ!そんな!怪人の子供とか、ぜ、ぜ、前例がありませんから!す、すみませんが、騒ぎになると困りますので!か、帰ってください!お願いします!」
 先生はすっかり怯えきってしまった様子で、泣きそうな顔と声で懇願しました。それに対してケロ太たちは、もっと説明して理解してもらおうと思って近づいたのですが、それが全くの逆効果で、ついに先生は泣き出してしまいました。
「いやーん!お願いします!帰ってください!うえーん!」
 先生は、ついに座り込んでしまい、泣き続けました。
「うえーん!ぐすっ…」
 そんな先生を見下ろし、悲しそうに顔を伏せる3人。ケロ太たちは諦めて、悲しそうに帰って行きました。
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登場人物紹介

ケロ太

怪人カエル人間夫婦の子供。

人間とほとんど変わらない容姿だが、尻尾がある。

ケロ太のがんばりが怪人達を救う?

怪人カエル人間

現実の世界に命を与えられた、特撮ヒーローの怪人。

ケロ太の父。

怪人の人権を訴え、選挙に立候補!?

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