第1話

文字数 639文字

秋晴れの鱗雲に誘われ、明央(あきお)は上履きのままフラリと芝生へ足を踏み出した。

「うおぉーうがぁぁーっ」
突如、ミサイルを抱えた大男が咆哮を上げ、中庭の向こうから飛んで来るのが見えた。

「なんだ?テロか?」
明央は思わず身構える。
宇賀(うが)ぁ、宇賀明央(うがあきお)じゃね?俺だよ、同じクラスだった三倉琢磨(みくらたくま)だ」
不審者は灰色のガスボンベをドンと地に鳴らし、キャップをかなぐり捨てた。
「……え、ミクロマン……?」
「もうミクロじゃねぇ」
巨体に不釣り合いな人の好い笑顔が明央の記憶を甦らせた。
「あー、確かにミクロ……いや、三倉!」
「おう。宇賀ぁは全然変わんねぇな」
三倉は明央の頭をガシガシ撫でた。
「ミク……三倉が成長し過ぎだ」
明央は邪険に手を払いながらも頬を緩めた。
「ワッハッハ。宇賀ぁ、夢を叶えて医者になったんだな」
三倉は白衣の背中を豪快に叩く。
「まあな……三倉は皆に愛されるセールスマンになったのか?」
「おう。ガスボンベ配達しながら笑顔でセールス」
三倉はドヤ顔で作業着の胸を張った。
「そうか、三倉なら何の心配もないだろう」
「ああ、うん。それがこの間、取引先の葬儀の最中に……」
言い淀み、三倉は盛り上がった頬の筋肉を凍らせた。 
「って、まさか、笑い出したんじゃ……」
「そのまさかだ。出禁食らうし、部長には怒られるし……」
しょんぼりする三倉を前に、明央はしばし呆然となる。 
「おまえの笑顔は人を癒すが、それはちょっと……そうだ。来週来い。笑い上戸を治してやれるかもしれない」


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