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文字数 868文字

 ピーコ。
 まだ生まれてきていない君は知らないだろうけど、この国では一年に一度、いくつもの流れ星が大空を舞う。
 整列したいくつもの星が、花火の号令を受けて大空へ飛び立ち、規則に沿った同じ速度で空を駆け抜け、しばらくはストレート、やがてターンを続け、再度のストレートと最後のループ、そして、地上へと降りていく。

 きっと、君は気がつくだろうね。
 美しく組織された動きをするのだから、それは本当の流れ星じゃないんだって。
 そのとおりだ。実は、その流れ星は飛行機の編隊なんだ。
 美しい軌跡を描いて大空を飛び行く飛行機の姿が、まるで流れ星のように見えるんだ。

 本当のことをいうとね、この光景は、飛行機乗りとしての能力を確かめる試験なんだ。
 この国では、成人男性は例外なく飛行機乗りになる。
 成人として認められ、同時に、国の飛行機隊に入隊する資格を得るために、毎年、成人となる年齢を迎えた男の子たちが、演習航路に沿って飛んでいるんだよ。

 だだし、これは儀礼的な試験だから、誰もが合格する簡単なものなんだ。
 ひとつだけスリリングなことがあるとすれば、試験の最後に、エンジンをいっぱいまで噴かして最高加速をするところだね。
 これは一種の儀式なんだって聞いたことがある。
 少年から成人へ、つまり、子どもから大人へと移り変わるために、最後に全力で加速するんだって。

 その年、成人の年を迎えた私も、編隊に加わって大空を飛んでいた。
 これで自分も、大人の仲間入りができると思っていたものさ。
 だけど、ほかの人たちのように、私の飛行はうまくいかなかった。
 操縦自体は完璧だったのに、最後の加速がどうしてもうまくいかなかったんだよ。

 いま思えば、トラブルの原因は、なんてことのない小さなイレギュラーだ。
 誰もが必ず経験して、大きなひっかかりもなく通り過ぎていく出来事、大人になれば忘れてしまうような、男の子にとっての小さな悩みのようなもの。
 だけどそれは、私にとってはかけがえのない経験となったし、こうして、生まれてくる君へ贈る、この物語のはじまりでもあったんだ。


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