P.13

文字数 875文字

 Pちゃんの身体に背中を預けると、とても懐かしい感触がしたよ。
 子供のころと同じように、Pちゃんは私を受け止めてくれたんだと感じた。
 衣服の汚れ、髪のほつれ、少しだけざらついた肌触り、Pちゃんは、あの頃のままで、なにひとつ変わっていなかった。

 そうだ。Pちゃんは、なにも変わってなんかいなかったんだ。
 私は、Pちゃんが大きくなって、その分だけ重くなったと思い込んでいた。
 それが原因で飛行機に乗せられなくなってしまったのだと思っていたけど、事実は違った。決してそんなことはなかったんだよ。

 私は気がついた。
 Pちゃんは昔のままの大きさだし、昔のままの重さでしかない。
 そうではなくて、変わったのは私のほうだ。大人に近づく中で、私が小さくなったんだ。
 そして、子供のころと同じ大きさでいるPちゃんを支えきれなくなったんだ。

 大人になるためには、みんなの求める速度で加速できるようにならなければならない。
 一人だけ重い機体に乗って編隊を乱すようだと、みんなが困ってしまうからね。
 だから、加速できるように身を軽くしなければならないし、その分だけ体も小さくなる。
 私も例外に漏れず、成長していく中で、知らず、体を小さくしていたんだ。

 それは生きていくうえで必要な小ささだったけど、
 子どもの頃のたからものを乗せて飛ぶには、不十分なものだった。

 私は、Pちゃんに尋ねてみた。
 別れてしまうまえに、大人になってしまう前に、どうしても聞いておきたかったんだ。
「大人になるためには、私達は大切なたからものを捨てないといけないのかな?」

 しばらくは二人ともしゃべらないで静かな時間が流れていたけど、
 やがて、最後の別れとばかりに、Pちゃんは優しく答えてくれたよ。

『違うよ。新しいたからものを手に入れるために、古いたからものを手放すんだ』
『それは、決して悲しいことじゃないよ。だって、君は幸せなんだからね』

「ありがとう、Pちゃん」
 私は涙をぬぐった。そして、最後にちょっとだけ、Pちゃんの体に顔をうずめた。
 それ以上、Pちゃんがしゃべることはなかった。

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