第11話  求めし理想の関係

エピソード文字数 3,852文字


 ※



 聖奈と車の中で話し合ってから数日。




 当初は聖奈の高校での振舞いを心配していたが、全然気にする事はなく、むしろ大人し過ぎて不気味だと思うほどだった。



 一応、高校での俺達の関係は「普通の知り合い」と言う事にしておこうと提案しておいた。


 聖奈は俺の要望を聞き入れ、過度には接近してこず、ただ隣の席になっただけの関係を周囲に植えつけただろう。



 キツい突っ込みも飛んでくるが、それは俺だけじゃない。

 誰にでも正直にものを言うのは昔と変わらない。

 

 クラスの生徒には怒ると怖い女子生徒だと思われている。



 それが聖奈の表の顔だったが……



 二人きりになったり、ラインに送ってくる文章など、誰も居ない場所では昔のアイツとあまり変わらなかった。


 まぁこれも俺からの提案であり、気兼ねなく思った事を喋ればいいんじゃねぇ? って言っておいたからな。



 最初は躊躇っていた様子だったが、下手に敬語とか使われる方が気を使っちまうし、お前も疲れるだろうと思って、言ったつもりだった。その結果、やや上から目線のあいつに逆戻りしていた。



 俺としては、そっちの方が気が楽だと言うのに気がついた。

 「わかったわ」「うん。いいよ」「そうするね」とか素直な聖奈の方がよっぽどやりにくい。



 それならいっそ「なによ」とか「いいじゃない」とか、捻くれた方が妙に落ち着いている俺がいた。「Mなのアンタ?」と送ってきた際に「そうかもしれない」と即答しちまったからな。




 その内、学校でも自然に仲良くする事で合意していた。

 それなら初日の違和感も無いだろうし、他の人間だって気にとめないだろう。


 

 さて。聖奈の話ばかりしてもしょうがない。


 俺は高校生活を明るく楽しく過ごせるように、他の生徒とも友好関係を築いていた。

 特に男友達である染谷君。あとは西部君や、その友達の真鍋君とは仲良くしておきたい。

 

 何故男なのかと言うと……ホモじゃねぇから安心してくれよ。

 そんなつまらんオチじゃねぇから。



 まぁ、入れ替わり人間としてこれまで生きてきた経験というか、俺にも色々事情があるんだよ。


 

 小学生。中学生と色々と失敗してきたからな。

 その経験を元に、俺はもう二度と……人間関係において失敗したくない。



 と言う訳で、ターゲットは男。

 俺が高校生活の中で、一番欲しいのは、親友。



 これから先の人生において、お互い助け合えるような、そんな友達が欲しい。

 



 


 ※



よし! 今日は行けそうだね
行こう染谷くん!

 四時限目が終わると、俺と染谷君は示し合わせたように教室から飛び出した。


 向かったのは構内にある食堂だ。

 ダッシュで階段を下りる間にも、他のクラスの生徒も走りだす。



 今日こそ負けてたまるか!



 この学校の食堂は昼になると、生徒達でごったがえし激しい椅子取り合戦となるのだ。



 我先にと走る男子生徒の多さには当初ビックリしたが、ここの定食の評判はとても良く、予定数しか作っていない為、俺や染谷くんは未だに食べた事が無いのだ。



 ダッシュしてまで価値のある定食とはどんな味なのか。

 日頃から一度は食べてみたいと染谷くんと言っていたのだ。


 次々と食堂になだれ込む生徒に紛れ、空いている椅子を目指すと、染谷くんが早々と四人席を確保していた。

やったね。これでやっと念願のA定食が食べれる

うん! こりゃいけそうだ。


てかさ。先に来てる上級生とかズルいよね。なんなんだアイツらって感じだよ

だよね。じゃあここで確保しててくれる? 僕が注文してくるよ
 そう言って染谷君が振り返った瞬間だった。



 他の生徒とぶつかってしまった染谷くんは、すぐに「すみません」と謝って走り出そうとしたが、腕を掴まれてしまう。

お前ら一年? そこ俺らの席なんだけど。何勝手に座ってんの?


 ぶつかった生徒は上級生だった。

 他にも数人が集まってくると、俺にも「どけよ」とか不躾な態度を取ってらっしゃる。





 あぁ……なんとなく頭の悪そうな奴等だな。金髪やら、ピアスやら開けてるような人種だ。


 こりゃ変なヤツらに関わっちまった。


おい。てめぇ。どけっつってんだろ?
いやいや俺らが先に「
あぁ~~~! すみません!
 染谷くんはそう言いながら俺の腕を取り、上級生から離れた。
関わらないでおこう

 そう小声で話す染谷君だったが、上級生達に聞こえたのか「なんだと?」と睨まれてしまう。

 あまりの無礼な態度に俺も睨み返そうとしたその時――

僕に任せて


 染谷くんが俺を見つめるのはいいが、その顔がとんでもなく迫力があった。

 凄まじい目力は俺を瞬時に黙らせる。



 なんだ? いつもと全然雰囲気が違うんだが。



 ちなみに上級生には背を向けており、染谷くんの表情が見えないらしく、イキがる長髪野郎に腕を掴まれていた。


 すると染谷くんは上級生の腕を振り払い、俺の手を持つと、一目散に食堂を出ようとした。

てめぇは待てよ金髪。一年からそんな頭して何イキがってるんだよ

分かってますよ!

黒澤君……シメられんのは僕一人でいいから。行って

いや。俺も行くよ。染谷くんだけには「
いいから! 来ないで!


 染谷くんはそういい残し、食堂のドアを閉めてしまうのだ。


 本来なら助けに向かうのが友達として正しい行動だと思うが、俺を制止した彼は、先ほどと同じく凄まじい迫力があった。


 バイオレンスな事態に慣れている俺だったが……

 パイセンにシメられるよりも、染谷君の顔の方が何倍もヤバい。そう直感していた。


 恐らく……パイセン全員が束になってケンカになっても、染谷くん一人で余裕で倒しちまいそうな。そんな迫力があったのだ。





 俺は食堂の外でウロウロしていた。

 やっぱり食堂に入って一緒にシメられた方が、友達としては相応しいんじゃないのだろうか?



 しかし、俺が感じた彼の強さは、間違っていないだろう。

 あの顔はヤバイ。その辺にいる人間とは違う雰囲気に、否応なしに従ってしまった感じだ。



 しかし……ここは彼と一緒になって謝った方がいいんじゃないのか? という気持ちが拭いきれない。

 そんな事を考えている最中、わりと早く染谷くんが食堂から出てきた。



染谷くん! 大丈夫?
へ~きへ~き。定食は頼めなかったけど。パンとか買ってきたから外で一緒に食べよう
 外傷はなさそうだったので、ほっと胸を撫で下ろした。

 しかも俺の分まで買ってくれてたなんて。マジで申し訳ない。


 食堂でどんなやり取りがあったのか聞いてみると「大丈夫大丈夫」と繰り返すばかりだった。

気にしないで。あんなヤツらなんて相手にするだけ無駄だよ

 それはそうだけど……


 染谷くんに助けられた感が半端なく、頭が下がる思いである。

 ちなみに俺は、あまり人に助けられるというシチュエーションが無い為、非常にモヤモヤするんだ。

ごめんね。やっぱり俺も行けば良かった

いいや。いいんだ。僕はこういうの慣れてるし、高校で問題を起こしたくないからね。


それにさ……

そう言いながら二人は校庭の芝生ゾーンに腰を降ろした。
黒澤君。君さ……暴れそうになったでしょ?
……なに?
そんな怖い顔しないで。僕には分かるよ
な、何が?

黒澤くんって……実はすごく強いでしょ?


ケンカ慣れしてる感半端ないし、オーラが違うからね

 染谷くんが言うには、色々と証拠があるらしい。


 時々とんでもなく迫力があるとか、後ろに人が居ると落ち着かないとか、体育の時間の時にも見かけた筋肉質な身体など。たまに殺気が駄々漏れしている時があると言う。


 マジかよ。自分ではそういう空気は出してないつもりだったが……

それにさっきも、先輩に腕を掴まれた時、手を出そうとしたでしょ?


咄嗟に止めに入ったけど。

参ったね。ばれてたか。

君が大声を出さなければ、パイセンの顎にパンチしてた

 やるね染谷くん。

 そこまで見られていたとは。こりゃ俺の負けだ。


 俺は開き直って笑い出すと、染谷くんもニヤっとして笑い出した。

でも、染谷くんも強いよね? 空気が違いすぎるし。


あんなヤツらなんて楽勝で倒しそう

だね。瞬殺できる自信はあるよ。


あんな奴ら。一分もかからないよ

 ハッキリと言い切る辺り、ハッタリでも強がりでもない、確固たる自信があるんだろう。


 再び笑う俺達。盛大に笑う染谷君につられて俺も一緒になって笑いまくっていた。



 あぁ……こんなに笑うなんて。久しぶりだ。

高校では大人しくしようと思うんだ。あんな奴らの為に停学になったら笑えないしね


だけど……外で会ったらボコボコにしてやるけどさ。

ふははっ。その方が良いね。やる時は俺も呼んでよ

 

 そこから染谷くんとケンカや格闘技の話で盛り上がっていた。


 蹴りや突きのやり方などを見せ合い、大技なども披露したり、俺はとても楽しかった。


 こうやって……男として付き合える事に喜びを感じていた。





 昼休憩が終わるチャイムが鳴ると、染谷くんと喋りながら教室に入っていく。



ねぇ黒澤君。あのさ……一回ガチで君とやってみたいね

マジで強そうだ。

それ。俺も思ってた。すげーやりたい


 染谷くんも同じ事を考えてたみたいだ。

 脳内まで似ているのだろうか?


 まるで俺の嬉しい部分を知っているかのような、こう返されると嬉しいポイントを的確に付いてくるんだ。






 染谷くん。君といるととても楽しい。


 男の友達。


 俺の初めての友達。



 君は……蓮で出来た初めての友達なんだ。



 だから俺はもっと……君と仲良くなりたい。


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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