第二章 ドッペルゲンガー殺人事件

文字数 30,094文字

「このマンション、オートロックだよね……?」
「ええ、でも正直オートロック自体は他の人と一緒に入ったり入れ替わりで入ったり出来て、セキュリティとしては脆弱だから過信は禁物よ」
「そうだね……」
 僕は小夜子さんの言葉に頷く。
 目の前には祭壇か何かかな? と思ってしまうような大量のプレゼント? 貢ぎ物? がある。
 小夜子さんと出かけようとしてドアを開けたらコレが目の前に積まれていた。
「最近のゴンぎつねは季節を考慮してドライアイスまで用意して差し入れをくれるのね~、あら、こっちは冷蔵の荷物ね。わかりやすくラベルまで張って……」
 慣れた様子で小夜子さんはいくつかのプレゼントの箱をどけて一番下にある二つのクーラーボックスを確認している。
 その後ろから覗き込めば、冷凍の方にはアイスクリーム、冷蔵の方にはパックのおかゆや食事代わりになるゼリー飲料なんかが入っていた。
 液体スープやジュースなど、普段小夜子さんが食事代わりの液体に混ぜている飲み物も何本か入っていたけど、なぜかネギだけ単体で入っていたりもした。
 ラインナップが謎だ。
 クーラーボックスの周辺には一箱五十枚入りの使い捨てマスク、目薬、鼻炎の薬、他にも妙に大きくてパンパンに膨らんだバッグやファンシーな包装紙に包まれた謎の物体、分厚い封筒が置かれている。
「ふむ、これはいいタオルね。へえ、すぐ使えるように買った後わざわざコインランドリーで一回洗ってふかふかに乾かしてくれたのね」
 大きめのナイロンバッグの中身を確認しながら小夜子さんは一緒に添えられたメッセージカードを読む。
「これはまた随分と重量級の手紙ねえ……違った。お金だわ。そしてこっちは抱き枕……」
 一つ一つ小夜子さんは荷物の中身や手触りを丁寧に確認しては僕に見せてくる。
「とりあえず、爆発物や劇薬なんかは無さそうだから、一旦全部室内に運んじゃいましょうか。これは良い教材だわ」
 それを聞いて僕はちょっとがっかりする。
 今日はこれから小夜子さんオススメの美味しいパフェを食べる予定だったのだけど、それを食べるのはもう少し時間がかかりそうだ。
「ではクイズです。この差し入れの中で注意すべき物はどれでしょう? 毒物や食中毒等の危険についてはさっき私が確認したので大丈夫なものとします」
 溶けるからとアイスクリームだけ冷凍庫にしまった後、他の玄関先に置かれていた荷物を一通りリビングに並べると、小夜子さんは楽しそうに出題してきた。
 クイズ……クイズなのかな、コレ。
「え、えっと……」
「ヒント、まずこの場合に警戒しなきゃいけないのはなんでしょう?」
 まごつく僕に小夜子さんがヒントを出してくる。
「……発信器と盗聴器? あ、でもここに荷物があるって事はもう住所はバレてるから盗聴器かな? となると、怪しいのはこの抱き枕?」
「すごいわ! 前に私が言った事ちゃんと憶えててくれたのね。それにもうその場の情報から自分で考えて可能性を取捨選択出来るなんて、由乃くんは将来有望ね」
 うさぎのぬいぐるみ風の抱き枕を僕が指さして言えば、小夜子さんはちょっと大袈裟に褒めてくる。
「だって、あれからまだ一週間も経ってないし」
 僕は照れ隠しに呟いて、小夜子さんのストーカー達が次々に下田さんに殺されていったあの事件からまだほとんど時間が経っていない事を改めて自覚する。
 あの事件によって小夜子さんのストーカー三人は殺害され、犯人であり小夜子さんのストーカーでもあった下田さんは逮捕された。
 つまり、あの一件で小夜子さんのストーカーは一気に四人減ったはずなのに、まだこんな事をしてくるストーカーがいる。
 魅了体質ってこわい。
 そんな事を僕が思っている間にも、小夜子さんはトランシーバーみたいな機械をリビングの引き出しから取り出す。
「それじゃあ、今から盗聴器の探し方を教えるわね。由乃くん、まずはそのスマホでなんでもいいからしばらく音が鳴るようにしてちょうだい。なるべく大きい音でね」
 小夜子さんは僕の首から下がっている子供用のスマホを指さして言う。
 僕は言われるがままに着信音の設定画面で一番上にあるものを再生して、音量も最大まで上げた。
 うるさい。
「盗聴器の中には何かしらの音を拾った時だけ起動するタイプもあるから、こういう時は音の出る物を鳴らしてないと発見機に反応しない場合があるの」
小夜子さんは手に持ってる機械の電源を入れて、僕に操作方法を説明しながらリビングに並べられた差し入れの品に向ける。
だけど、発見機に反応はない。
「ふむ、アナログ式の反応はないわね」
小夜子さんはもうスマホの音を切っていいと言った後、発見機の電源も切って引き出しにしまう。
「じゃあ、盗聴器はなかったって事?」
「まだわからないわ」
 僕が尋ねると小夜子さんは首を横に振る。
抱き枕の縫い目から不自然な場所を見つけ、ハサミでその部分の糸を切って抱き枕の中を開いていく。
 すると、バッテリーに繋がれたボタン式の携帯電話のようなものが出てきた。
「これは携帯電話を改造したデジタル式の盗聴器ね。今もストーカーさんに聞こえてるはずよ」
 このお肉がタン、牛さんの舌だよ。みたいな軽さで小夜子さんは僕に説明してくる。
「こんにちは、ストーカーさん。抱き枕から出した分、クリアに声が聞こえてるんじゃないかしら?」
 そして、あろう事か小夜子さんは発見した盗聴器を通してストーカーに話しかけ始めた。
「私ね、紳士的な人が好きなの。節度をわきまえたストーカーさんは黙認してるけど、そうでないストーカーさんには退場してもらう事にしているわ」
 節度のあるストーカーってなんだ。
 そもそも節度のある人間はストーキングなんてしない。
「私の事を知りたいのはわかるけど、勝手にプライベートスペースにまで入って来て、無断の盗聴や盗撮、動画撮影をする人は嫌い」
 ゆっくりと優しく言い聞かせるように小夜子さんは言うけれど、もっと早い段階で嫌いになっていいと思う。
「あなたは初犯のご新規さんみたいだから今回は大目に見るけれど、次やったらこちらからあなたの住所氏名を特定して被害届を出すから、そのつもりでね。あと、これは忠告なのだけど、私の他のストーカーさん達には気を付けて。それじゃあね」
 そう言って小夜子さんは盗聴器の電源をオフにする。
 その後は盗聴器に追加で取り付けられているバッテリーを外し、盗聴器そのもののバッテリーも外す。
「小夜子さん、なんで盗聴器を仕掛けた相手が新規のストーカーだってわかったの?」
 もはや、小夜子さんが盗聴器ごしにストーカーに話しかけた事に対してはつっこまない。
「ここしばらくはこういう風に贈り物へ盗聴器が仕掛けられてた事ってなかったから」
 しれっと小夜子さんは答える。
「ええ……」
 何か論理的な推理があるのかと思ったら感覚的な経験則だった。
「私は毎回盗聴器とか仕掛けてきた人間に対してはいつもこうやってガイダンスをしてて、それでも辞めないストーカーさんは警察に被害届出したり探偵を雇って逆に個人情報を暴いて家族や勤め先に連絡してるの」
 ……まあ行動としては当たり前なんだけど。
「でもそれは、間違って他のストーカーさんが捕まったりしないの?」
 いや、ストーカー行為をしてる時点で捕まっていいとは思うけれど。
「捕まるわよ? そして家捜しされたらガイダンスに従っていたストーカーさんにももちろん被害は及ぶわ。それに警察の見回りが強化されるとそれだけで動きにくくなる。するとガイダンスを守ってくれる善良なストーカーさん達は、どうなるでしょう?」
「えっと……どうなるの?」
「自分達はルールを守って私に黙認されてたのにその環境を壊された訳だから、ストーカーさん達同士で犯人捜しが始まるわ。善良なストーカーさん達はいざという時には頼もしいボディーガードになるのよ」
 つまり、ストーカー同士で潰し合わせるという事か。
「複数のストーカーさん達が互いに牽制し合う状況が生まれると、結果的に私の生活が安全になるわ。そして、そんなストーカーさん達の暗黙の了解を知らないのは?」
「ご新規の、ストーカーさん?」
「ええ。この人も善良なストーカーさんになってくれると良いわね」
「善良なストーカーさんって、育てるものなの?」
「育てるというよりは、調教かしらねえ。放って置いても勝手に集まってくるから、せめてお互い安全に暮らせるようにしたいの。犬の躾みたいなものかしら」
 ストーカーは野犬かなにかなんだろうか。
「一般的に盗聴器見つけた場合、行動がエスカレートする可能性があるから犯人に盗聴器を見つけた事を悟られちゃいけないとか言われてるけど、それは犯人が身内だったり、そうじゃなくても単独の場合の対処法よ」
 言いながら小夜子さんは盗聴器を横に置いて何かメモ帳に書き付ける。
「私達みたいな魅了体質の場合、いちいち丁寧に毎回犯人探しをしても、対処してる側から次々別のストーカーさん達が同時並行で迷惑行為を働いたり、あんまり人数が多すぎて警察からむしろこちら側に問題があるんじゃないかと言われたりもするわ」
 あと、親身に話に乗ってくれていた警察の人がストーカーさんになったりね。と小夜子さんは付け加える。
「それは……困る」
 もはや人間不信になりそうだ。
「でしょう? それならいっそ共存していく道を探った方が賢明だわ」
「なるほど……ところでさっきから何書いてるの?」
「今日の日付と見つけた時の時間と状況。それと盗聴器の種類ね。日記の記録も合わせる事で後から照合が可能よ」
「盗聴器の、種類?」
「ええ。盗聴器にはいくつか種類があるの。アナログ型、録音型、デジタル型の三種類が今は人気ね。他にも色々厄介な種類もあるけれど、それは追々教えるわ」
「そ、そうなんだ……」
 盗聴器にも人気とかあるのか。
「アナログ型は電波で盗聴した音を受信機に送信するタイプで、さっきみたいな発見機やFMラジオでも発見可能よ。でも電波が十メートルから百メートル位しか届かないから、コレを見つけた場合、少なくとも受信機は近くにあるし、犯人もいる可能性は高いわ」
 一つ三万円前後と、無線機型盗聴器としては比較的安価よ。
 なんて、ニコニコしながら小夜子さんは言ってくる。
 見つけた瞬間、犯人が近くにいるかもという盗聴自体とは別の恐怖を感じそうだ。
「次に録音型。ICレコーダーとかも似たような使い方ができるわね。非常に小型な物も多いわ。録音した後は必ず回収する必要があるけど、服の裏に縫い付けたり、小物に忍ばせたりできるし、発見機では見つけきれないから厄介ね」
 ちなみに録音型なら三千円以下で手に入るものもあるみたい。
「これが部屋に仕掛けられていた場合、十中八九顔見知りの犯行よ」
 それはそれで嫌だ!
「最後にこのデジタル型。携帯電話やスマホを改造して作られたもので、電波が届く場所なら大体使えるし、どこからでも拾った音声も聞けるわ。普通の発見機ではまず発見できないわ」
 一つ五万円から十万円するらしいわ。
 由乃くんが大きくなる頃にはもっと安く手に入るようになって、このタイプが主流になるんじゃないかしら。
 なんて付け加えつつ、小夜子さんはビニール袋に入れられた盗聴器とバッテリーを見る。
「でも、初犯でいきなりそんな高価なものを、バッテリーを追加してできるだけ長く盗聴できるようにしていたとはいえ使い捨てにしてくるなんて、どんな人だと思う?」
「えっと……すごく小夜子さんの事を知りたがってる?」
「それはストーカーさん達皆そうだけれど、少なくともこの人、金遣いが荒そうね。お金を持ってるんだかどんぶり勘定なんだかわからないけど、お金に糸目を付けない人が悪いストーカーさんになると、厄介ね」
「いや、悪い悪くないとか経済力以前にストーカーをするような人間って時点で厄介だと思うけど……」
「そういえばそうね。まったく、魅力的過ぎるのも困りものね」
 わざとらしく肩をすくめると、小夜子さんはメモを書き終わるとビニール袋に盗聴器とメモを入れてシーラーで閉じ、それを発見機を取り出したのと引き出しにしまう。
 引き出しの中を覗き込めば、同じようにビニール袋に入れられた小さな機械がいくつも入っていた。
「それは、ストーカーさんを訴えるための証拠品?」
「それもあるけど、犯人を特定出来る事なんて稀よ。まあそれはそれとして、これには別の使い方もあるわ」
「別の使い方?」
「個人的に犯行の証拠を収めたい時にちょうどいい小型カメラやマイクが無料で手に入ったと思えばこれもある種の差し入れのように思えてくるわね。後はこれをストーカーさんの家の前に置いて警告したりとか」
「……そっか」
 楽しそうに話す小夜子さんに、僕はこれ以上何も言うまいと思った。

 それから僕達は差し入れを片付けて、やっと三時のおやつに向かう。
 目的の喫茶店に着く頃にはもう四時になりそうだったけど。
 僕達は店の奥にある壁際の席に座る。
 店内は人がまばらで、僕達の近くに他のお客さんはいない。
 空調が効いたひんやりとした店内は、汗が冷えてむしろ寒いくらいだ。
「ねえ由乃くん、私達が一番警戒しなきゃいけないのはどんな人かわかる?」
 桃のフルーツパフェを頼んだ小夜子さんは、チラチラとこちらを見てくる店員のお姉さんへにこやかに手を振りながら聞いてくる。
「それは、魅了体質の人間がって事?」
「ええ。十人中八人の好意的な人間、一人の無関心な人間、一人の熱狂的な人間、私達にとって一番危険なのはどんな人?」
「そんなの、熱狂的な人じゃないの?」
 現に小夜子さんは結構なストーカー被害に遭っているようだし。
 僕が答えれば、小夜子さんは静かに首を横に振った。
「熱狂的な人間は慣れてくれば思考が読みやすい分対処が楽だわ。私達が足下をすくわれるとしたら、好意的な顔して寄ってくる無関心な人間の方よ」
「無関心なのに、好意的な顔をして寄ってくるの?」
「なぜだかわかる?」
「ええっと、魅了体質の人間は目立ちやすいから……好きな子を取られたとか、自分が目立ちたいからとかの理由でこっそり嫌がらせしてくるとか」
「まあ、そういう人もいるかもだけど、その場合大体周りの取り巻きの子が感付いて大事にはならないわ」
 取り巻きがいる前提なんだ……。
「その程度ならまだ可愛いけど、中には魅了体質を人を騙したり悪い事に利用しようとする悪い人もいるわ」
 小夜子さんの声が少し低くなる。
「しかも質の悪い事に、こちらに大して好意を持ってない分、状況に応じて冷静に立ち回れるから、うっかりそんな相手に新鮮さを抱いて恋心を抱いてしまうと地獄を見るはめになるって、おばあちゃんが言ってたわ」
「おばあちゃんに一体何があったの……」
 僕が小さい頃に死んでしまったので、僕はあまりおばあちゃんの事をよく知らない。
「正確には何かあったのはおばあちゃんの一代前の魅了体質の人みたいなんだけど、宗教団体の教祖様にされてたらしいわ。その人の死後少し経って魅了体質を発現させたおばあちゃんは、後継者になるようしばらく付きまとわれて大変だったみたい」
「そうなんだ……」
「まあ、家系図を辿ると元々神社とかやってたみたいだから、魅了体質を利用して信者とお布施を集めるというやり方は割と昔からあったみたい。だけど、それは今の時代には合わないわ」
 水の入ったグラスのふちを指でなぞりながら小夜子さんは言う。
「別に将来由乃くんが何かしらの宗教団体を立ち上げる事になったとして、私は別に止めるつもりは無いわ。だけどね、その場合由乃くんが生きている間は良くても死後の後継者問題が出てくるのよ」
「僕は教祖になるつもりないけど、もしそうなったら次の代の魅了体質の子に迷惑がかかるって事?」
「自分の人生を楽しむのも大事だけど、次の代に禍根を残さないこと、その子も楽しく生きていけるようにする事も同じくらい大事だって、そう言ってたのを思いだしたの」
「よくわかんないや」
そんなに先の事を言われても、あまり想像できない。
「私も言われたときはよくわからなかったんだけど、さっき由乃くんに色々教えた時にふと思い出したの」
 どこか懐かしむように小夜子さんは目を細める。
 顔にかかった髪を小夜子さんが耳にかければ、キューブ型の藍色の石に金色のリボンが付いたピアスが揺れる。
 その姿がなんだか一枚の絵みたいに綺麗で、僕がつい見とれていると、ふいに隣から声が聞こえた。
「お待たせしました。桃のパフェと巨峰のパフェです」
 さっき小夜子さんが手を振っていたお姉さんが小夜子さんの前に桃のパフェ、僕の前に巨峰のパフェを置く。
「美味しそうだね」
「ここのフルーツパフェは甘さ控えめなクリームと甘いフルーツの相性が絶妙なのよ」
 写真よりも美味しそうなパフェに僕がテンションを上げれば、小夜子さんは自分の事のように得意気に胸を張る。
 そんなやり取りの中、僕はチラリとパフェを持ってきてからそのままじっと小夜子さんを見つめているお姉さんを見る。
「あら、私の顔に何か着いてる?」
 不思議そうに小夜子さんが尋ねれば、お姉さんはハッとした顔になる。
「その……素敵なピアスだなあと……」
「まあ、ありがとう。コレ最近のお気に入りなの」
 小夜子さんがきょとんとした顔になった後、笑顔で言えば、お姉さんはそそくさと席を離れていってしまった。
「あの子、普段はもっとハキハキして人懐っこい感じなんだけど、今日はどうしたのかしら?」
 なんて言いつつ、小夜子さんの興味はもうテーブルの上のパフェへと移っていた。
「ん~、この上品な甘さ。嫌な事も忘れちゃう」
 パフェの上に乗っていた桃にたっぷりとクリームを付けて口に運んだ小夜子さんは、うっとりとした様子で言う。
 そもそも、担当さんに提出した企画が没になったらしい小夜子さんが憂さ晴らしに美味しいパフェを食べたいと言い出したのが今日の発端だ。
「大体、現実に起こった事を元に書いたのに、設定や展開に現実味が欠けるって、おかしな話よね」
 不満気に小夜子さんはもらしたけど、その言葉だけでなんとなく何が起こったのかは察しが付いた。
 きっと小夜子さんは自分の身に起こったことをそのまま普通に書いたんだろうけど、小夜子さんの普通は普通じゃないし、小夜子さんの現実の生活は多くの人に取っては現実味が薄いんだから仕方ない。
「小夜子さんの担当の人は小夜子さんに対してそんなにデレデレした感じじゃないの?」
「最初の担当さんは熱狂的な人だったんだけど、今の担当さんは無関心な人なのよね。まあ、どちらにしても私の書いた小説は私自身じゃないから、売り上げには全く関係無いのだけど」
「じゃあ、顔出ししたら売れるんじゃないの?」
「かもね。だけどその場合、ストーカーさんの数が今の比じゃなくなるだろうし、管理しきれなくなりそうで……それは本当に食い詰めた時の最後の手段ね」
 管理されてるストーカーってなんなんだ。
 確かに小夜子さんは自分のストーカーについて、ある程度把握しているようだったけれども。
 それでも今以上にストーカーが増えるとなると、流石の小夜子さんでも手に負えないらしい。
「そういえば小夜子さんって、あんまりお金に困ってないみたいだけど、なんだかんだ言って小説で生活できてるくらいには稼げてるって事?」
 巨峰のパフェを食べながら僕は聞いてみる。
 口の中いっぱいに広がる巨峰の香りと、さっぱりとした甘さのクリームと一緒にトッピングされたバニラアイスが溶けて、勝手に口元がつり上がっていくのがわかる。
「前の担当さんの時には重版かからなくても暮らせる位の数を出版させてもらってたけど、最近はは全然企画が通らなくて、主に臨時収入で暮らしてるわね」
「臨時収入って?」
「善良なストーカーさんからの援助と悪質なストーカーさんからの慰謝料や示談金」
「ストーカーさんって、お金になるんだね……」
 その結果被る被害を考えると、僕としては勘弁してほしいけど。
「正直、私が高校生の時にデビューして今まで稼いだ印税全部合わせた額よりも去年ストーカーさん達からもらったお金の方が多いわね」
「そんなに!?」
 思わず僕はパフェを食べる手を止める。
 具体的な金額はわからないけど、ものすごい大金だという事はわかる。
「ほら、示談金って青天井だから相手の立場や、やらかした事の内容によっては、ね」
 どうやら去年、結構な額の示談金を一括で払ってもらったらしい。
「だからまあ、今すぐ生活がどうこうとかは無いけれど、印税収入がほとんど無くてもなぜか貯金は増える一方だけど、そんな感じでお金には困らないのは魅了体質のいい所ね」
「そ、そうだね……」
 明るい笑顔で小夜子さんは言うけれど、それはつまりそれだけの目に遭っているという事で……僕はそれ以上考えず、今は目の前のパフェに集中する事に決めた。
 店を出ると、息苦しいようなむわっとした空気が僕達を包む。
 まだ外は明るいけれど、来た時ほど日差しは強くない。
僕達はなるべく日陰の道を歩く。
「今日も暑いわねえ、パフェも食べたし、今日の夕食は軽めでも……」
「僕、晩ご飯はしっかりしたもの食べたいなあ」
「そうねえ、例えば由乃くんは何食べたい?」
「冷やしうどんとかさっぱりしてていいと思うよ! 夏場はよくお母さんが大根おろしと納豆に刻んだ梅干しとかつお節で作ってくれたんだ!」
「それは美味しそうね。由乃くん材料とか憶えてる?」
「うん! 僕よく一緒に作ってたからわかるよ!」
 小夜子さんは基本的に気分が乗らないと料理をしないし、小夜子さんは僕一人だけだと危ないからと包丁も火も使わせてくれない。
なので、夕食が完全食の液体にならないよう、僕はせっせと夕食のアピールをする。
両親もそうだけど、小夜子さんも僕に甘いので、ちゃんとリクエストさえすれば聞き入れてもらえる。
ただし、何も言わないと高確率で食事は完全食の液体になるので、油断は出来ない。
小夜子さんは食への執着があまりなくて食事自体を面倒くさがるところがあるけれど、料理が出来ない訳じゃない。
おかげで僕は毎食ちゃんとした食事を食べるために大袈裟に料理を作る時楽しそうにしたり、美味しそうに食べるのが日課になった。
すると小夜子さんは随分嬉しそうにしてくれるので、今度お母さんが来た時には同じようにちょっと大袈裟にリアクションしてみようかなと思う。
そんな事を考えつつ小夜子さんと喫茶店の帰り道にあるスーパーへ向かっていると、後ろから男の人の声がきこえた。
「すいません、コレ落としませんでしたか?」
 僕と小夜子さんが振り向くと、二十代くらいのくまが酷いお兄さんが小夜子さんに耳飾りを差し出す。
 藍色でキューブ型の石の上に、金色のリボンが付いている。
「……ありがとうございます」
 にっこりと笑って小夜子さんはその耳飾りを受け取る。
 だけど、僕はその耳飾りに違和感を感じる。
 小夜子さんの髪はまた耳を隠すように落ちてきていて、確認できない。
「認めるんだな……」
「認める?」
 小夜子さんは首を傾げる。
「そのイヤリングは昨日の夜、この近くで拾った。走り去るアンタの姿も」
「はあ……」
 重々しい雰囲気でお兄さんは言うけれど、小夜子さんは何言ってんだこの人って顔してるし、僕もそう思う。
 だって昨日の夜、僕と小夜子さんは夕方に食事とお風呂と済ませた後、寝るまでずっと一緒にゲームして遊んでたんだから。
 そもそも陽が落ちた後は近所のコンビニにだって出ていない。
「アンタは……」
「よお島田、今朝はあんな事があったのにもうナンパか? いや、むしろあったからか?」
 お兄さんが何か言いかけた瞬間、それを遮るように今度はまた別のチャラチャラした感じのお兄さんが突然話に割り込んできた。
「寺崎!?」
「初めまして、僕はこいつの同期で寺崎っていいます。お姉さんこいつに絡まれてませんでした? すいません、こいつ今朝色々あって気が立ってるんですよ~」
「おい、勝手に話に入ってくるな」
 どうやら始めに僕達に声をかけてきたお兄さんは島田さん、後から声をかけてきたチャラチャラした方のお兄さんは寺崎さんというらしい。
「うーん、寺崎さんってどこかでお会いしましたっけ? 見覚えがあるような……」
 小夜子さんは小夜子さんでマイペースに寺崎さんの顔をじっと見つめて尋ねる。
「あ、憶えてくれてたんですね! よくこの辺のスーパーやコンビニで一緒になるので! いや~いつも綺麗な人だな~ってチラ見してたんですよ、実は! 風邪治ったみたいで良かったです!」
 寺崎さんは島田さんを押しのけて目を輝かせながら一気にまくし立てる。
「そうだったんですね」
「島田とは部署は違うんですけど、仕事上よく顔合わせるのでちょくちょく話すんですよ。今日は社内でちょっとゴタゴタしてて、島田もそのせいで大変だったみたいだから、心配してたら、気になってるお姉さんにナンパしてたんでもう話しかけるしかないと思って!」
聞いてもないのに寺崎さんは早口でペラペラと自分の事を話してくる。
なぜ、知り合いが小夜子さんにナンパしてると話しかけるしかないのか、まるでわからないけど。
「……なるほど、そういう事だったんですね」
 小夜子さんは少し低い声で言うと、静かに笑った。
「そう! そうなんですよ!」
「…………」
 寺崎さんはここぞとばかりに大きく頷くけれど、なぜか島田さんの顔は一瞬こわばったように見えた。
「島田さん、寺崎さん、せっかくですから連絡先交換しませんか?」
 ニコニコと笑顔で小夜子さんは提案する。
 嬉しそうに二つ返事で寺崎さんは了承する。
そして、なぜか更に深刻そうな表情になった島田さんも小夜子さんとメッセージアプリの連絡先を交換していた。

「……それで、つまりどういう事だったの?」
「あら、何の事?」
「とぼけないでよ!」
 夕食の買い出しを終えて、一旦買った物を片付けながら僕は小夜子さんに聞く。
 本当は島田さんと寺田さん二人と別れてからすぐに聞きたかったんだけど、家に帰ってからね。と言われたので、家に着くまで待っていた。
「あの島田さんって人、ナンパにしては明らかに様子がおかしかったよね。それに……」
 僕は落ちてきた髪をかき上げて耳にかける小夜子さんを見る。
 耳には青いキューブ型の石がぶら下がっている。
「小夜子さん、最初からイヤリングなんて落としてないよね。だってそれ……」
「ええ。私が付けているのはフック型のピアスで、耳たぶに挟むタイプのイヤリングじゃないわ」
 荷物を片付け終わった小夜子さんは、スマホを少し操作した後、両方の耳に髪をかけて左右両方にちゃんと付いているピアスを見せてきた。
「なら、なんでそれを受け取ったの?」
「初め、島田さんは私を熱狂的に好きな人なんじゃないかと思ったのよ」
 そう話している間に、小夜子さんのアプリにメッセージが届く音がした。
 さっきからずっと小夜子さんはこうして寺崎さんとメッセージのやり取りをしている。
 小夜子さんはそれに目を通して返事をすると、僕に島田さんから渡されたイヤリングを見せてくる。
 耳の留め具以外は小夜子さんの付けている物と全く同じだ。
「このブランド、同じデザインでピアスとイヤリングと両方出してるの。ちなみに、実店舗は無くて、ネット通販しかやってないブランドなのよ。さて、普通に考えた場合、コレを手に入れるにはどうしたらいいでしょう?」
「ネット通販?」
「そうね。私は魅了体質だから、私に話しかけるきっかけ欲しさであえて大怪我したり、私が読んでた作家の著書を全部読んだりする人って学生の頃からよくいたのよ」
「じゃあ、島田さんも小夜子さんに話しかけるきっかけを作るためだけにわざわざ小夜子さんの付けてたピアスと同じデザインの物を探し出して、買ってきたって事?」
「ええ。私が付けてるのと同じデザインのイヤリングを持ってきた時はそう思ったわ」
「じゃあ、島田さんは間違えてイヤリングを買っちゃったの?」
「ナンパ目的の場合、あえて違う物を持ってきて話題作りをしたりもするから、正直に答えて会話を引き延ばさせるより、お礼を言ったらさっさと話を切ってその場を立ち去ろうと思ったのだけど、その後の様子は、ナンパにしてはどこか変だったわよね?」
「うん、なんだか思い詰めているような感じだった……」
 僕が頷いた直後、また小夜子さんのスマホが音を立てて、小夜子さんはメッセージを確認する。
 スマホの画面を見た小夜子さんの顔が、みるみる曇る。
「……それで、島田さんには今朝何かあったみたいだったから、ちょっと気になって寺崎さんに確認していたのだけれど……思ったより大事になるかもしれないわね」
「どういう事?」
「島田さんの直属の上司が昨日の夜、繁華街の路地裏で殺されてるのが発見されたみたい。ほら、今日一緒にパフェを食べに行った所のすぐ近くよ。あそこは通りをもう一本奥に行くと飲み屋街があるのよ。会社もそこから近いみたい」
 思ったより身近な場所で事件が起きていた。
「島田さんは警察に事情を聞かれたけど、死亡推定時刻である昨日の夜には確かなアリバイがあったからすぐに解放されたみたい。遺体からは財布とスマホがなくなってて物取りの仕業じゃないかとも言われているみたい」
「そう。ということは……結局、なんで島田さんは小夜子さんに声かけてきたの?」
「話しかけてきたのは、ナンパ目的じゃなくて、口封じのつもりだったのかも」
 物騒な言葉が出てきて、僕は身構える。
「でも、島田さんにはアリバイがあったんだよね?」
「寺崎さんの話によると、昨日島田さんは死亡推定時刻の午後九時前後、自宅近くの飲み屋で一人飲んでて、その姿が防犯カメラに記録されてたみたい。島田さんの上司が殺されたのは職場からは徒歩圏内の場所だったけど、島田さんは通勤に一時間以上かけてるそうだから……」
 だとすると、瞬間移動でもしない限り島田さんに犯行は無理そうだ。
「島田さんはこのイヤリングを昨日の夜、拾ったと言っていたわ。その時に走り去る私の姿も見たと言ってる。昨日の夜何時頃を指しているのかはわからないけれど」
「さっきの島田さんのアリバイを考えると、会社から帰る途中に拾ったんじゃないの?」
「それだけなら、わざわざ私にこんなメッセージを送ってこないと思うの」
 スマホを見せながら小夜子さんは言う。
【いくらだ?】
【黙っているのなら、それ相応の金額を払う】
【即金で百万】
「これだけ見ると、ただの貢ぎたがりのストーカーさんに見えなくもないけど、状況からしてたぶん違うでしょうね」
「ええっと……」
 まず、貢ぎたがりのストーカーという発想が無かった。
「島田さんがこのイヤリングを拾った時間って、もしかしたら上司の人が殺されたっていう時間と近いんじゃないかしら。例えば、本当なら地元の飲み屋で飲んでるはずの時間とか」
小夜子さんが言わんとしている事を理解した僕は、同時に背筋が寒くなる。
「ひょっとして、島田さんが上司を殺した真犯人で、どうやったかはわからないけど、せっかくアリバイ工作までしたのに、小夜子さんに言い逃れできないような犯行現場を目撃されたと思い込んでるって事……?」
 言いながら、勝手に声が震える。
「たぶん、実際に目撃者はいるのよ。そして、その人はこのイヤリングの持ち主で、私に背格好が近いんじゃないかしら」
 淡々と状況を整理するように小夜子さんは言う。
 確かに、そうだとすると、島田さんの不可解な言動も全部説明が付く。
 付くけど。
「どうするの小夜子さん! 殺人犯に目を付けられてるよ!?」
「落ち着いて由乃くん、まだ慌てるような段階じゃないわ」
「慌てるには十分な状況だと思うよ!?」
 なんで小夜子さんはそんなに平然としていられるんだ!
「こういう時こそ冷静に現状を理解して、正しい判断をする必要があるわ。慌てたって状況を見誤るリスクが上がるだけよ。それにね由乃くん、これは予行演習でもあるのよ」
 優しく僕の背中をさすりながら小夜子さんは言う。
「予行演習?」
「そう。いつか由乃くんが同じような状況に置かれた時の為の予行演習。私の事は私がなんとかするから、それが由乃くんの参考になったら嬉しいわ」
 小夜子さんはそう言って僕の頭をなでる。
 その手は優しくて、とても頼もしく感じた。
「うん……そうだよね。小夜子さんなら、大丈夫だよね」
「もちろんよ」
 にっこりと笑って小夜子さんは頷く。
「……さて、メッセージを見る限り、島田さんはお金で私を黙らせたいみたいね。由乃くんはこのメッセージを見て、どう思う?」
 小夜子さんはスマホのメッセージアプリの画面を僕に見せながら聞いてくる。
「仮に小夜子さんが目撃者だったとして、もう警察にかけこんでいる可能性は考えないのかな?」
「もし駆け込んでいても、直接お金を渡すって呼び出して、早々に口封じしたいんじゃないかしら。私が島田さんならそうするもの」
「じゃあ、島田さんはもう小夜子さんを殺すつもりなの?」
「かもしれないわね……私も食い詰めてたら、怪しいと思いつつ、まんまと百万円に釣られちゃいそうだもの。そうならないのはストーカーさん達のおかげね」
 急に小夜子さんの声が明るくおちゃらけた感じになる。
「おかげかなあ?」
 確かにそのおかげで小夜子さんはお金に困っていないみたいだけども。
 そしてたぶん、今のは小夜子さんなりに僕を怖がらせ過ぎないように気を遣ってくれるんだろうなあと思う。
「だからこそ、そんなに簡単に殺されちゃストーカーさん達に顔向け出来ないわね」
 キリッとした顔で小夜子さんが言うけれど、むしろストーカー達こそ小夜子さんに顔向け出来ない事をしているんじゃないかな……。
 これは、僕を元気付けるために冗談を言っているのか、それとも割と本気で言っているのか。
「それで、これらどうするの?」
「今後の方針を考えるうえでも、もう少し情報が欲しいわね。なんだか新しい小説のネタになりそうだし」
「これを、小説のネタにするの?」
「どうせ危険にさらされるのなら、せめてそれから何か得たいじゃない。例えば新しい企画のネタとか」
 あ、本気だこの人。
 意気込む小夜子さんから、そんな空気を感じた。
「島田さんはどうやってアリバイを成立させたのかしら。それに、事件を目撃した私のそっくりさんの正体……あ」
「どうしたの?」
 どうやら小夜子さんは何かに気付いたらしい。
「由乃くん私、ここ数年風邪って全くひいたことないのよ」
 どこか力強い口調で小夜子さんは言う。
「そ、そうなんだ」
 相づちを打って、僕はあれ? と思う。
今日、風邪が治って良かった! とか寺崎さんに言われてたような。
「由乃くん、今朝の差し入れの内容を思い出して欲しいのだけど、どんな物があった?」
「え? 抱き枕にアイス……タオルとマスクとネギ? あと飲み物とか目薬とか鼻炎の薬あったような? あ、あとお金」
 指を折って今朝の事を思い出しながら僕は答える。
「それって、どんな状態の人に渡すようなものだと思う?」
「風邪? でも鼻炎とか目薬は……花粉症?」
「そうね。そして私はストーカーさん達に家の中の盗撮や盗聴までは許していないのだけど、彼等は外で私のどんな姿を見て私が風邪だか花粉症だかになったと思ったのかしら?」
「外で……夏なのに、マスク付けてるとか?」
「ええ。私もそうなんじゃないかと思う。本人と間違えられるレベルのそっくりさんって中々いないと思うけど、マスクを付けて目元だけ似てて、髪型や服装の雰囲気が近いなら、間違えてもおかしくないんじゃないかしら。しかも夜薄暗かったりすると特に」
「……だとすると、そっくりさんが島田さんと遭遇した現場を目撃したストーカーさんとかいないのかな」
「まあ、差し入れの数からして、昨日一日で随分沢山のストーカーさん達に目撃されているみたいだものね」
 僕の言葉に小夜子さんは頷く。
 そう断言できるのは、用意された差し入れ達の方向性がかなり違う物が複数あるからだ。
 抱き枕はプレゼント用にラッピングされていたし、目薬や鼻炎の薬は薬局のビニール袋に入ってた。
 タオルはナイロンのバッグに入っていたし、アイスはクーラーボックスにドライアイスと一緒に入っていた。
 全て一人の人間が用意したにしては、統一性が無さ過ぎる。
 ……だからこそ怖いのだけれど。
「でも、たぶん事件現場を直接見ているストーカーさんはいないわ」
「なんでそう言い切れるの?」
「だって、私がマスクを付けてるだけでこんな差し入れをしてくるストーカーさん達が、目に見えて事件性の高い現場に私が立ち会ったのを目撃したとして、のんきに風邪や花粉症用の差し入れだけ送ってくると思う?」
 そう言われると、妙な説得力がある。
 防犯グッズとか贈ってきそうだし、なんだったら自分がその場に飛び出して小夜子さんを守ろうとしそうだ。
 ……そういえば、この前殺された小夜子さんのストーカーにそんな人いたな。
「じゃあ、そのそっくりさんの特徴って、小夜子さんに背格好が似てるのと脚が速いって事くらいかな」
「あら、どうして?」
 きょとんとした顔で小夜子さんが言う。
「だって、島田さんは見られたら困るものを見られたんだから、全力で後を追いかけてくるはずでしょ? なのにわざわざ翌日に小夜子さんへ声をかけてきたって事は、その時は捕まえられなくて、そっくりさんは一人で逃げ切ったって事でしょう?」
「すごいわ由乃くん。もうそんな風に物事を順序立てて考えられるようになったのね」
 感心したように小夜子さんが僕の頭をなでる。
「でも、そっくりさんが逃げ切ったのは脚が速かったからとは限らないわよ?」
「え、そうなの?」
 小夜子さんの言葉に、僕の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
「殺人現場がうちの近所にある繁華街の路地裏だとすると、被害者の死亡推定時刻である夜九時前後はまだまだ人が多いわ。人通りの多い通りに出れば、迂闊に凶器を振り回したり出来ないだろうし」
「そっか……」
「そして、もしその大通りに私のストーカーさんがいた場合……」
「いた場合、どうなるの?」
「私を追いかける島田さんをナンパしようとしている奴と捉えて、偶然を装って近づくのを妨害したりしてくるかもね」
「そんな事ある訳……あったね。そういえばついさっき」
「寺崎さんの場合はちょっとタイミングが遅かったけど、それでも地元とそれ以外だと、明らかに地元の方が声をかけられづらいのよ。身なりは同じように整えていてもね。つまり、私の知らない間にストーカーさん達同士で牽制し合っているのかも」
「ストーカーさん達は地域パトロールか何かなの……」
 パトロールするのは小夜子さんの周辺限定だけど。
「もしかしたら、近い働きをしているかもしれないわね。たまに旅行とかにも偶然を装って付いてくるストーカーさんもいるけど」
「……へえ」
 それはそれで事件のような気もするけれど、小夜子さんのストーカーさん達については、話が進まないのでこれ以上は何も言うまい。
「でも、由乃くんと今話してて、一人そっくりさんの心辺りができたわ」
 だけど、小夜子さんは両手を身体の前で合わせると嬉しそうに笑った。

 心辺りの人に早速会いに行こうと言い出した小夜子さんに連れられて、僕達はさっきフルーツパフェを食べに来た喫茶店へやって来た。
「良かった、まだいたわ」
 そう言って小夜子さんは小夜子さんのピアスを褒めていたお姉さんを見る。
 お姉さんも僕達に気付いておや、と不思議そうな顔をしてやって来た。
「いらっしゃいませ。何か忘れ物でもされましたか?」
「ええ、そんなところ。このイヤリングを昨日の夜、この近くで落とさなかったかしら?」
 小夜子さんからイヤリングを見せられたお姉さんの顔がこわばる。
「どこでソレを……」
「実は今日の帰り、呼び止められて渡されたの。昨日の夜この近所で落としただろうって。くまの酷い男の人で、見たなとかなんとか言っていたのだけれど……」
 お姉さんの顔がみるみる青ざめていく。
「それで、もしあなたがこのイヤリングの持ち主なら、少し話を聞かせて欲しいの。もちろん、あなたに不利益になる事は絶対しない。助けると思って……」
 弱々しい様子で小夜子さんが言うと、お姉さんは何かを決意したような顔になる。
「今日は後十五分くらいであがりなので、それまでお店で待っててくれませんか? その後場所を変えて話しましょう」
「ありがとう! 是非そうさせてもらうわ」
 小夜子さんは感動したようにお姉さんにお礼を言うと、今日僕達が座っていた席へと座る。
 
 店内はさっきより人はいるけれど、それでも座る席には困らない程度だった。
「それで、どうして小夜子さんはあのお姉さんがそっくりさんだってわかったの?」
何も頼まないのは申し訳ないからと注文したジュースに口を付けながら僕は尋ねる。
「私ね、小さい頃からファッションリーダーだったのよ」
「うん?」
 アイスティーを一口飲んで小夜子さんはイタズラっぽく笑う。
 なぜ、今その話になるんだ。
「小さい頃から私が気入った小物は皆が真似したし、私の髪型を真似する子も多かったのよ」
「う、うん……」
「ここで問題です。私の髪型や小物なんかを真似するのはどんな人達?」
「……えっと、その髪型や小物をいいなって思った人?」
「そうね。そして、私にそれなりの感心がある人よ。人間どうでもいい人の服装や髪型なんて、記憶に残らないし、そもそもちゃんと見ようとしないもの」
「なるほど……」
「たまたま服装や髪型が近いそっくりさんと、自分から意識して私の髪型やファッションに寄せていった人、どっちがより私に近くなると思う? こう言っちゃなんだけど、私のストーカーさん達は熱狂的な人達が多いから、多少似てる程度じゃ間違えないと思うの」
 そもそも、熱狂的なレベルで小夜子さんに感心がないと最初からストーカーにならないと思うけれど。
 でも、そんな人達だからこそ小夜子さんの事を当然よく見ているはずだ。
マスクを付けていたとはいえ、その熱狂的なストーカー達が小夜子さんと誤認するというのは、本当に本人レベルに似てないとあり得ないだろう。
「これは感覚的な話なんだけど、あ、この人私のすごく好きだなっていうの、慣れてくるとわかるようになるの。視線とか態度とか、雰囲気とかでね」
 言葉だけ聞くと、ただの自意識過剰のようにも思えるけれど、最近小夜子と暮らし始めてその生活を目の当たりにしている僕は、その言葉が事実なんだとよくわかる。
「つまり、あのお姉さんは元々小夜子さんに強い興味を持っていたって事?」
 きっとね。と小夜子さんは頷く。
「それにあの子、髪は結んでて前髪も留めているけど、たぶん解いたら私みたいな髪型になりそうだし、体型や身長も近いわ」
 言われてみれば身長と体型はそんな気がしないでもないけど、顔については全く似てるとは思えない。
「小夜子さん、でも夜で多少暗かったとはいえ、あの人と小夜子さんが間違われる事なんてあるのかな」
「案外人間って相手を記号として見てるものよ。イヤリングみたいに、私が以前着ていたのと同じか、ほぼ同じような服や靴、鞄を彼女が身につけていたとしたら、後ろ姿で判別するのは難しいと思わない?」
 最初から小夜子さんのイメージがあって、その型にぴったりはまる人間を小夜子さんと認識するのなら、見間違えるんじゃないかと小夜子さんは言う。
「人間って、結局見たい物を見るから、私を見たいって私の姿を探して、私のイメージに近い、なんだったら前に私が着ていた服や小物を身につけた背格好が近い人を見つけたらそう見えちゃうんじゃないかしら」
 そういうものだろうか。
 だとして、一瞬見間違う事はあっても、完全に小夜子さんと間違う事なんてあるんだろうか。
「それに、このお店なら現場も近いし、仕事帰りに出くわしたって考えれば、ありえない話でもないしわ。でも、一番の決め手はあの時の反応かしら」
「あの時?」
「私のピアスを褒めてくれた時、見とれてるっていうよりは、怯えてるような緊張した様子だったから。その場では深く考えなかったけど、もし昨日島田さんに追われてその時に同じデザインのイヤリングをなくしているのなら、色々合点がいくなと思ったの」
 なんだか微妙に納得いかない気がするけれど、あのイヤリングは実際にお姉さんの物で、反応からして、お姉さんに昨日何かあったらしいというのも本当らしい。
 僕は大人しく事の成り行きを見守ることにした。

「お待たせしました、行きましょう」
 それからしばらくして、仕事を終えて着替えてきたお姉さんが現れた。
 日は暮れかけていたけどまだ五時過ぎだったので明るい。
 お姉さんは喫茶店の制服からラフな私服姿になっていたけれど、首から上は仕事中のままだった。
 この状態だと、小夜子さんとは似ても似つかないように思う。
「あの、もしよければなんですけど、私の家でお話できないでしょうか? その方が話も早いと思うので」
 申し訳なさそうにお姉さんが言えば、小夜子さんはそれがいいと二つ返事で了承した。
 お姉さんは柏木(かしわぎ)()(おう)という名前で、近所に住んでいる高校一年生らしい。
 大人びた雰囲気なので、大学生くらいかと思った。
 美桜さんは警戒するように辺りをキョロキョロしながら僕達を家まで案内する。
 家までは歩いて十五分くらいで着いた。
案内されたのは少し年季の入った一軒家で、中に入ると人の家独特の匂いがする。
「今日は親の帰りも遅いので、気にせずくつろいでください」
 僕と小夜子さんを玄関入ってすぐの台所前の食卓に案内した美桜さんは麦茶を用意して僕達をもてなしてくれた。
「それで昨日の夜の事なんだけど……」
「あの、その前に私小夜子さんに言っておかないといけない事があるんです。それには少し準備が必要なので、待っててもらえますか?」
 大丈夫だと小夜子さんが頷けば、美桜さんは階段を上がり、二階の部屋へと向かって行った。
「服装の事かな」
「たぶんそうじゃないかしら」
 きっと小夜子さんが着ているような服に着替えてくるのだろう、僕と小夜子さんは喫茶店で待っている間の話から、そう思っていた。
 それは半分あたりで半分かすっていた。

「お、お待たせしました……」
 美桜さんは三十分近く帰ってこなかったので、心配した小夜子さんが声をかけに行こうと椅子から腰を浮かせた時、僕達の前にマスクを付けた小夜子さんが現れた。
 そっくりさんとか、そういう段階をすっとばして、ほぼ本人だった。
「私、その服持ってる」
 驚いたように小夜子さんが言う。
 白い透け感のある薄手のシャツと紺色っぽい生地に大きめの花柄模様がついたフワッとしたスカートは、僕にも見覚えがある。
「あ、はい……同じ物が欲しかったのですが、新品だと高くて古着をフリマアプリで探して買いました。イヤリングは手の届く範囲だったので買えました。バックはまだ手が出なくて……サンダルは似たようなデザインのを見つけたのでそれで」
 もじもじしながら美桜さんが言う。
 耳にはさっき小夜子さんが返したイヤリングが両耳にそれぞれ付いている。
 美桜さんは古着というけど、シャツもスカートもシミやほつれが無いしきれいだ。
 というか、さらっと言ってるけど、小夜子さんの着てる服がどこのブランドか特定して更にその古着を探すって結構大変なんじゃないだろうか。
 いや、今はそれ以上に気になる事がある。
「顔が、小夜子さんになってる……?」
 二階へ上がって行く前とはまるで別人だ。
「えっと、ナチュラルタイプのつけまつげとカラーコンタクトが大きいかな。アイラインとアイシャドーと、ハイライトとノーズシャドーと、あとベースメイクも気を付けたの」
 なんか呪文みたいな言葉がいっぱい出てきた!
「すごいわ美桜ちゃん! まるで鏡を見てるみたい!」
「えっ、そうですか? えへへ……」
 椅子から立ち上がった小夜子さんが興奮気味に駆け寄って褒めれば、美桜さんは気恥ずかしそうに照れる。
 ……これはファッションをマネしたなんて言葉で片付けられないレベルだ。
「昨日私の知り合いの人から風邪ひいたのかみたいな心配されたけど、美桜ちゃんだったのね。これじゃあ昼間に見かけてもほとんどの人がわからないわ」
「実は私、前々から小夜子さんの事キレイだな~って目で追ってて、その為に今のバイト先で働き始めたんです。小夜子さんみたいになりたくて……」
 美桜さん、新しいベクトルのストーカーだった!?
 照れたように美桜さんは言うけど、小夜子さんみたいになりたいと思ってからの寄せ方のクオリティがエグい。
 いや、でも小夜子さんが常連の喫茶店でバイトをし始める位なら常識の範囲内なのかな?
小夜子さんと一緒にいると、突拍子のない事が起こり過ぎて普通というのがどういう事だったか、たまに見失いそうになる。
「良かった……気持ち悪がられたらどうしようって、本当はちょっと不安だったんです」
 ちょっとなのか……。
 いや、でもその視点があるだけ他のストーカー達よりはまともなのか?
「少しビックリしたけれど、こんな可愛い子にそんなに好かれるなんて嬉しいわ」
「小夜子さん……!」
 美桜さんは感極まったみたいな反応をしているけれど、小夜子さんのこんな可愛い判定はどこにかかってるんだろう。
 メイクした今の状態だと褒めているのは結局自分のような……。
 それとも、ここまでせっせと自分のマネをした美桜さんの行動か、美桜さんの普段の顔に対してなのか。
 ……確かに、小夜子さんとは違うタイプだけど、整った顔立ちだとは思う。
 小夜子さん風メイクとマスクで完全に別人、というか小夜子さんになっているけれど。
 女の人のメイクってすごい。
「小夜子さんみたいになりたくて、最近フェイスマッサージを頑張ったりメイクの練習をしてたんです。その時にメイクしてマスクを付けたら結構小夜子さんっぽくなる事に気付いて……」
 そうして美桜さんは昨日の夜の事を話し始めた。
「昨日の夕方、注文してた小夜子さんと同じ服が届いたんです。着てみたら思いの外、小夜子さんっぽくなって嬉しくて。メイクとマスクをしたら、もう私のテンションが爆あがりしちゃって」
「爆あがり」
 小夜子さんの顔で言われると何だか違和感があって、つい僕は美桜さんの言葉をくり返す。
「夜九時頃だったと思うんですけど、両親も自分達の寝室に引っ込んでたので、そのままこっそり外に出たんです。せっかくこんなにおしゃれしたのにこのまま着替えてしまうのが惜しくて……」
「あれ、じゃあ昨日はバイト終わりじゃなかったの?」
 僕が思わず聞けば、美桜さんはきょとんとした顔になる。
「私は昨日も五時上がりでしたよ? 届いた服着てたらテンションが上がっただけなので」
 こんな風に仕上げるには届いた服へ丁寧にスチームアイロンかけたり、しっかりメイクを作り込んだり、髪だってそれらしくセットする必要があるんです!
 と、美桜さんは力強く言う。
「あ、はい……」
 僕はそう言う他無かった。
「それで、いざ外に出たのですが、別におかしな恰好をしている訳ではないのですが、やはりいつもと違う恰好は恥ずかしくて、できるだけ人目につかない道を通ったんです。するとある路地裏の角を曲がった時……」
 そこまできて、急に美桜さんは口ごもる。
 けれど、小さく息を吐いて美桜さんは話し出す。
「血まみれで倒れているおじさんがいて、その奥で手を拭いている黒いジャージの男の人と目が合って……慌てて私は逃げました。本当に怖い時って悲鳴をあげようとしても声が出ないんです。それでも身体は不思議と勝手に動いて、とにかく走りました」
「男の人は追ってこなかったんですか?」
「足音は聞こえていたので、追ってきてたと思います。ただ、途中でなにかがぶつかった音や、誰かにぶつかって絡まれたような声がしました。それでも怖くてしばらく走って振り返ったらもう誰もいなくて……その後は何度も後ろを確認しながら家に帰りました」
 ……どうやら小夜子さんのストーカー達が小夜子さんが変な男に追われてると勘違いして撃退というのは合っていたらしい。
「でも、家に帰ったらイヤリングがなくなっている事に気がついて……私、昨日はずっとその男が落としたイヤリングを持って家に来るんじゃないかと考えて眠れませんでした」
 震える腕を自分の身体に回しがら美桜さんは言う。
「警察に通報とかしなかったの?」
「なんて説明すればいいの? 夜中に女子高生が意味も無く徘徊して、殺人現場にでくわしましたって……?」
 途端に美桜さんの目から涙が溢れて、震えた声がますますか細くなる。
「ご、ごめんなさい! 僕は美桜さんを責めようとした訳じゃなくて!」
 ポロポロと涙を流す美桜さんを、小夜子さんが抱きしめる。
「話してくれてありがとう。美桜ちゃん、昨日は怖かったわね」
「小夜子さんがこのイヤリングを持ってたって事は、あの人が小夜子さんの所に来たんですよね。私と勘違いして……私……」
「大丈夫、大丈夫よ。周りに頼れそうな人間がいなくて辛かったわよね。確かにあの人は私と美桜ちゃんを勘違いしてるけど、今の話を聞ければ十分よ」
 小夜子さんは美桜さんの背中に手を回して、落ち着かせるように優しくさする。
「十分……?」
 不思議そうに聞き返す美桜さんに、小夜子さんは一度身体を離すと、真っ直ぐ美桜うさんの目を見て微笑む。
「後は私がなんとかするから、美桜ちゃんは気にしないで。あ、でも私からもう大丈夫って連絡入れるまでは私のコスプレはしないでね」
「なんとかって……どうするつもりですか?」
「要は犯人に犯行を認めさせてしまえば良いのよ」
 不安そうな美桜さんに小夜子さんはどこか自信ありげに言う。
「小夜子さん、一体、何する気?」
「やる事自体はこの前と同じよ」
 僕は小夜子さんの言う“この前”を思い出して、妙な安心感を持った。
 ……ダメだ。
 だんだん僕も小夜子さんに毒されている。

 美桜さんに事情を聞いた小夜子さんはその後、連絡先を交換して家路につくと、早速島田さんにメッセージを送る。
 後は警察に連絡して、お金の受け渡しをするフリをして小夜子さんを殺しに来た島田さんに犯行を会話の中で認めさせつつ、頃合いを見て逮捕してもらえばいい。
 この前みたいに島田さんに暴行の現行犯とかの罪が追加されなければいいのだけれど。
「それで、島田さんが美桜さんと遭遇した同じ時刻に自宅近くの居酒屋にいたのはどう説明するの?」
「うーん、それがまだわかってないのよねえ」
「わからないのに島田さんの誘いに乗るメッセージ送ったの!?」
「大丈夫よ。どうせ一回上手く行ってるんだし、また同じ手を使ってアリバイ工作するんじゃないかしら? 今度は島田さんが犯行時刻にいた地元の居酒屋にも警察の人に張り込みしてもらえばいいのよ」
「ええ……そんなに上手く行くかなあ……」
 僕達がそんな話をしながらマンションに帰れば、また部屋の外に何か置いてあった。
 置きっぱなしのクーラーボックス二つの中身も確認したけど、増えているのは一通の手紙だけだった。
 今朝の物と封筒のデザインは違うけれど、分厚さは同じくらいだ。
「わざわざ郵便受けでなくこっちに置いておくなんて。さてはうちのマンションの郵便受けへの投函の仕方がわからない初心者のストーカーさんね」
「家の前に直接手紙を置くのは初心者なの?」
「ええ。うちのマンションは郵便受けに投函するには業者さん用の入り口から入る必要があるの。」
 そう言って小夜子さんは郵便受けから持ってきた複数の手紙と一緒にその手紙も持って部屋へあがる。
「またお金かしら? 」
 小夜子さんは少し弾んだ声で玄関に置かれていた封筒を開封する。
 だけど、出てきたのはお金じゃなくて分厚い枚数の手紙だった。
「あら、こっちだったのね」
 なんて言いながら、手紙に目を通す。
 後ろからチラリと覗き込めば、便箋に細かい文字でびっしりとなにかが書かれている。
 手紙の内容は流石に見る気にはなれなかったけど、文字の密度から、それを書いたストーカーから小夜子さんへの熱量はなんとなく伝わった。
「ふむ……」
 小夜子さんはしばらくその手紙に目を通して、全部読み終わったらしいタイミングで顔を上げて僕を見る。
「今朝のデジタル型盗聴器のストーカーさんからのお詫び状だったわ。それと私、たぶん島田さんのアリバイトリックわかったかも」
「……どういう事?」
 なぜ、ストーカーからのお詫び状でそんな事がわかるのか。
 そう思っていると、チャイムの音が鳴った。
 エントランスの音じゃない。
 玄関で鳴らしたチャイムの音だ。
 小夜子さんと一緒にインターホンを確認してみれば、玄関のカメラに予想外の人物の顔が映っていた。
「ああ、私が手紙を受け取って読み終わるのを待ってたのね」
 対して小夜子さんはまだ呑気な事を言っている。
「さすがにもっと危機感持とう!?」
 思わず声を荒げて言えば、小夜子さんはにやりと不敵に笑う。
「大丈夫、楽しいのはこれからよ!」
 その後の展開について、僕は思い出す度にいやいや、普通そうはならないよ!? と思う。
 思うけど、実際そうなってしまったので、きっと現実の方がおかしい。

 その日の夜、小夜子さんは島田さんとの待ち合わせ場所である廃校になった小学校へ向かった。
 小夜子さんの服装は、服の下に仕掛けた盗聴器が透けないように紺色で薄手のワンピースに変わっているけれど、例のピアスも変わらず付けている。
 島田さんを挑発する為にあえて付けているのか、何も考えていないのか。
 理由はどっちでも小夜子さんだからと考えれば納得できるのが恐ろしい。
 僕は小夜子さんの指示で小夜子さんの服の裏地に縫い付けた盗聴器でその様子を受信機でパトカーの後部座席から聞いている。
 運転席には菅原さんも待機していて、一緒に小夜子さんの中継を聞いてる。
 待ち合わせ場所に向かう小夜子さんにも、東雲さんを始めとした何人かの刑事さんが気付かれないようについていって様子をうかがっているそうだ。
「あら、もう来てたんですね。お待たせしちゃったかしら?」
 小夜子さんが学校跡地に入ってしばらくした後、小夜子さんの声がした。
思ったよりもクリアに小夜子さんの声が聞こえる。
 盗聴器の善し悪しとかわからないけど、小夜子さんは差し入れでもらった中ではこれが一番音質が良いと言っていた。
 まさか盗聴器を仕掛けたストーカーさんも、後日こんな形で小夜子さんに感謝されるなんて思っていなかっただろう。
 小夜子さんの言葉からもう島田さんが来ていたらしいとわかる。
 待ち合わせの時間は夜九時で、今はまだその十分前だから、別に遅刻じゃないと思うけれど。
「そういうのはいい。これが約束の金だ。これを持ってさっさと消えてくれ」
 不機嫌そうな男の人の声が聞こえる。
 島田さんだ。
「まあまあ、そんなに構えなくたっていいじゃないですか。そんなにわかりやすく体の向きを傾けられたら、まるで袋を受け取った瞬間に首元にナイフでも突き立てられそうで怖いです」
 少しの間沈黙があって、舌打ちをする音と何かがさりと落ちる音が聞こえる。
「……それを持って帰れ。そして、それを受け取った以上、あんたも共犯だ」
「あら、共犯って、あなたは一体何の罪を犯したって言うんです?」
 おどけた声で小夜子さんが言う。
「昨日の夜、見ただろう」
「なんの事でしょう。私、昨日はずっと家でゲームしてましたよ?」
 絶妙にイラっとする声色で小夜子さんが言う。
 こういう時の小夜子さんは既に準備を完全に整えて罠を張り、相手が挑発に乗ってくるのを待っている段階なので、絶対に誘いに乗ってはいけない。
「おい、まさか今更逃げられると思ってるんじゃないだろうな、俺はもうあんたが住んでる家も連れてた子供の顔も覚えてるんだぞ」
 さらっと怖い話が出た!
 島田さんと会った時には僕もいたので、僕も標的にされるのは自然な流れでもあるけれど、それはそれとして、いきなり自分の話が出てくるとびっくりする。
「ああ、その事なんですけど……」
「いや、本当に彼女は何も見てないよ」
 小夜子さんの話を遮るようにもう一人の男の人の声がする。
「なんで、今ここにいるんだ……兄貴!」
 島田さんの焦った声も聞こえる。
「なんでって聞きたいのはこっちだよ。僕はね、確かに(ゆき)(のぶ)が救われるならなんでもするとは言ったけど、さすがに僕の将来の妻を殺すなんて看過できないよ」
「はあ!? 何言ってるんだよ」
 島田さんが素っとん狂な声をあげる。
それに関しては僕も島田さんと同意見だけれど。
話に入ってきた声の主は(いし)(ばやし)幸彦(ゆきひこ)、島田さんの双子の兄で、今朝小夜子さんに盗聴器入りの抱き枕をプレゼントしてきたストーカーだ。
名字が違うのは家庭の事情で石林さんは父方に、島田さんは母方に引き取られたからだそうだ。
「信幸、君は今朝、自分が探している女の人がつけていたイヤリングを見せてくれたね。それは彼女のものじゃないよ。僕はすぐに分かった」
「そんな訳ないだろ、俺は確かに昨日こいつを見たんだ! マスクをしてたって間違うはずがない!」
 島田さんと石林さんは言い争っているけれど、なぜ、石林さんは美桜さんのイヤリングが小夜子さんの物じゃないとわかったのか。
 というか、小夜子さんはついさっきが石林さんと初対面だと言っていたのだけれど。
「信幸、これを見て」
「この写真がどうしたっていうんだ」
 石林さんが何か写真を取り出したらしい。
「あら、いつの間にこんな写真を……しかも随分と画質のいい……」
「僕のお気に入りの一つなんだけど、大事なのはここだ。よく見てくれ。この写真だと小夜子さんの付けているのはイヤリングではなくフック型のピアスである事がわかる」
「確かに、この角度からの写真だとわかりやすいわね」
 小夜子さんと石林さんの話からして、どうやら小夜子さんの写真らしい。
 ストーカー初心者と小夜子さんは石林さんの事を言っていたけれど、一体いつから石林さんは小夜子さんの事を追いかけていたのだろう。
 というか、当たり前のように盗撮していたり、持ち物を見て一目で小夜子さんの物じゃないと判別できたりする時点で、石林さんも十分れっきとしたストーカーだと思う。
「これは先週小夜子さんが出かけた時の写真で撮影場所は薬局の化粧品売り場な訳だから、ガイドラインには抵触しないよね?」
「ええ。こんなフォトジェニックな写真が撮られてたなんて全く気付かなかったわ」
 なぜか小夜子さんと石林さんは楽しそうに話している。
「そんなに気に入ったなら、今度特に僕が好きな写真を集めた写真集をプレゼントしようか? データはあるからいくらでも追加で製本できるよ」
「それはありがとう」
 その写真集もらうの!?
「おい、勝手に話を進めるな! 大体、イヤリングがあんたのじゃないっていうなら、誰のだっていうんだ。まさかあんたにも双子の姉妹がいるなんて言うつもりか?」
 島田さんが苛立った声をあげる。
「あら、そんな事言っていいんですか? 仮に私が本当の目撃者であろうとなかろうと、島田さんがあの日の夜、お兄さんに自分のフリして居酒屋で一人飲みしてもらって、自分は会社近くの路地裏で上司を殺害してたって、もう知ってるんですよ?」
「どいてくれ。やっぱりそいつは危険だ」
「やめるんだ、幸信」
 話の内容を聞くに、煽る小夜子さんに掴みかかろうとする島田さんを石林さんが止めているようだ。
「やっぱりもなにも、島田さんは今日、最初から私を殺す気だったじゃないですか」
 そう言った小夜子さんの声が聞こえた後、何かがさがさと音がする。
「ほら、やっぱりお金も偽物じゃないですが。全部お札の大きさに切った新聞紙じゃなくて、せめて一番上の一枚だけでも本物にしてもらいたい所です」
 目の前にわかりやすく防波堤になってくれる人間がいるからか、今日は小夜子さんが一段と生き生きしているように思う。
「僕がここにいる時点で、前と同じ手は通用しない」
「……わかったよ」
 しばらくの沈黙の後、安心したように息を吐く音が聞こえた。
「良かった。幸信、僕達は家の都合で別々になってからは疎遠になってたけど、今からだって昔に戻れると思う。幸信が会いに来てくれた時は、本当に嬉しかった……こうなる前に、もっと早く頼って欲しかった……仕事に悩んでいたなら相談に乗ったし、お金に困ってたなら援助だってした……自首しよう。罪を償った後は僕が仕事を紹介するから」
 切々と、優しく石林さんは語りかける。
 ここだけ聞くと、何も知らずに犯罪に協力させられても弟を大切に思う心優しいお兄さんのように聞こえる。
 いや、実際に島田さんに対してはそうなのかもしれない。
けど、この人、小夜子さんの後をつけ回して盗撮したり、盗聴器をしかけた抱き枕を贈ってくるんだよなあ……。
「ははは……」
 島田さんの、乾いた笑いが聞こえる。
「あんたはいつもそうだ。そうやって恵まれた立場から人を哀れんで、上から人格者を気取る。昔はあんたと俺に違いなんて無かった。見た目も同じなら、頭の出来も運動能力も変わらない。違ったのは父方と母方、どっちに引き取られたかだ……」
 笑っているような、怒っているような声で島田さんは言う。
「父さんは……幸信が成人するまでの養育費も含めて一括で慰謝料を払ったって……」
「要するに手切れ金だ。この金と次男はくれてやるからもう二度とこの家に関わるな、子供同士が日常的に交流してるとお互いに興味を持つから学校も転校させる。この条件も含めての金だ」
「でも、十分な生活と教育が約束される額だったはずだ」
「ならなんで俺がこんなしみったれた生活してると思う? 本当に何も聞かされてないのか? でもお前は母さんの事も聞いてこなかったよな? それどころかなぜか母さんが死んでた事も知ってたな?」
「それは……お祖母様に母さんの事を聞いたら事故で死んだって聞かされたから……」
「へえ、じゃあ俺はその後親戚をたらい回しにされたあげくに遺産を使い込まれて虐待されて、石林の家に助けを求めに行ったらそのお祖母様に悪影響だからって門前払いされた事も聞いたのか?」
「知らなかった……」
 愕然としたような、声が絞り出される。
「本当にお前は良いよなあ! 幼稚園から名門私立でエスカレーター式に学校に通って、卒業して、その後は親の会社の跡を継いで! なんの苦労も知らないでよお!」
 ますます島田さんの声はヒートアップしていく。
「そんな事ない、母さんと幸信が出て行ってからも父さんはほとんど家に帰ってこないし、僕はお祖母様と二人きりで父さんの子育てで失敗した分も取り戻すって朝から晩まで監視されて交友関係も制限されて……」
「んなもん俺の環境に比べたら苦労のうちに入らねえんだよ!!」
 絶叫に近い声の後、何か取っ組み合いでもしているような、島田さんと石林さん、どちらのものともわからない、言葉にならない怒号のような声がしばらく続いた。
「死ね!」
 そんな声が聞こえて、声を聞いているだけの僕の身体がこわばる。
「あぐぁ!」
「まあまあ、さすがにそれはやめておきましょうよ。これ以上自分の首を絞めてどうするんですか」
 だけど、その後すぐに小夜子さんの声がした。
カエルが潰されたみたいなうめき声と何かが落ちたような金属音も聞こえて、僕は安心する。
「小夜子さん!」
 驚いたような石林さんの声が聞こえる。
 きっと小夜子さんが暴れる島田さんを取り押さえたんだろう。
「すいませーん、そろそろ出てきてもらっていいですかー?」
「あっ、はい……」
「今の殺人未遂の現行犯ですよね。例の殺人事件でのこの人のアリバイについてももう一度話を聞いてみてはいかがでしょうか、今度はこのお兄さんも交えて。それとこれは正当防衛ですよね?」
「そ、そうですね……」
 そんなやり取りがしばらく続いて、少ししたら手錠をかけられて刑事さん達に連行されていく島田さんと、小夜子さんと石林さんが学校跡地から出てきた。
 石林さんは顔や髪型、背格好も島田さんと同じはずなのに、くまが目立って全体的にやつれた感じのする島田さんと違って、健康そうに見える。
 島田さんの所々すり切れたTシャツやジャージのズボンという全体的にくたびれた服と、石林さんのキレイに洗濯されてきっちりアイロンがけされた服の対比もあるのかもしれない。
 同じ顔でも、健康状態や服装で随分印象が変わるんだなと思う。
 パトカーから降りて、僕が小夜子さんに話しかけようとした時、突然石林さんは小夜子さんの前に片膝をついた。
「小夜子さん、僕と結婚して欲しい」
「え」
 唐突なプロポーズに、僕の足が止まる。
「は?」
 ちょうど小夜子さんの隣にいた東雲さんも驚いたように石林さんを見る。
「あら、随分いきなりねえ」
「貴女は、僕が好意を寄せても嫌がったり通報するでもなく当たり前に受け入れてくれた。しかも、僕が幸信に襲われた時は身を挺してかばってくれた! これはもう両思いと行っても過言じゃない! そうだろう!?」
 過言だよ!
 というか、好意を嫌がったり通報しないって、まさか今まで気になった人全員にあんなストーカー行為をしてたの!?
「うーん、いきなりそんな事言われても、私あなたの事何も知らないわ」
 小夜子さんはもっともらしい事を言うけど、少なくとも気になる相手のとの距離の詰め方がわからない人だって事は僕でもわかる。
「これから知って欲しい。まずは恋人から……それが無理なら友達からでもいい」
 なんでこれで譲歩したつもりになってるんだこの人。
 というかこの人、交友関係もおばあちゃんに管理されてたとか言ってたけど、恋人の作り方どころか普通の友達の作り方もわかってない可能性まである。
「そうねえ、でもたぶんなんだけど、石林さんって私のタイプから外れてると思うの」
「それなら君好みの男になるよ! 一体どんな男が好きなんだい?」
「まともに会話が成立する人ですね」
「それってつまり……僕じゃないか!」
 ……石林さんは無理かな。
 小夜子さんの言ってる事は高望みしてる風に聞こえないのに、小夜子さんに寄ってくる男の人達の事を考えると、当分小夜子さんに恋人はできなさそうに感じるから不思議だ。
「由乃くん、もしかして小夜子さんは、頭のおかしい人間を惹き付けるフェロモンでも出してるんじゃないか?」
 僕の所にやってきた東雲さんが、こそっと僕に耳打ちしてくる。
「そうかもしれません」
「そうか……やはり、俺があの人を守らねば」
 魅了体質ってすごいなあ。
 僕にしか聞こえないような小さな声で決心する東雲さんを横目に、他人事のように思った。

 結局あの夜、学校跡地にいた人間は全員パトカーに乗って警察署に行く事になった。
 僕と小夜子さんは話を聞かれるだけで済んだけど、島田さんは石林さんへの殺人未遂で現行犯逮捕された後、会社近くであった殺人事件への関与も改めて追及されるらしい。
 今度は替え玉になった石林さんや、逮捕直前の自白もあるのでもう言い逃れはできないだろう。
 小夜子さんは石林さんは共犯にされるかもしれない言っていたけど、どうなるかはわからない。
 この前の下田さんの事件に引き続いて踏んだり蹴ったりな目に遭っている小夜子さんだけど、良い事もあったらしい。
「この前の事件を元に考えた企画が通って連載が決まったの! 今の担当さんになってから初めてよ!」
 今日は小夜子さんの家で久しぶりに企画が通ったお祝いをしている。
 机の上には美味しそうなフルーツタルトと、いくつかの軽食が並んでいる。
「良かったね、小夜子さん」
「おめでとうございます。小夜子さん」
 僕の隣で一緒にケーキを囲んでいる美桜さんは嬉しそうにニコニコ笑っている。
 今日の美桜さんは小夜子さん風のメイクをしているけれど、マスクを付けていないから、まるで目元だけそっくりな小夜子さんの妹みたいだ。
「それで、どんな話なんですか?」
「殺人現場を目撃した女の子の元に、イケメンの犯人がやって来てドキドキの監視生活が始まるのよ! 私はラブコメのつもりで企画と全六話の簡単なプロットや第一話のさわりを送ったのだけど、なぜかクライムサスペンスホラーとして絶賛されてしまったわ」
「まあ、コメディで流せる軽さじゃないよね」
 そんな軽さで流せる人間がいるとしたら、それは小夜子さんくらいだ。
「ちょっと思ってたのとはズレた評価をされちゃったけど、このまま行けばまた本も出版できるし、この企画を思いついたのは美桜ちゃんのおかげよ!」
「いえそんな、私はただ自分の趣味に勤しんでただけです」
 照れくさそうに美桜さんが言うけど、物は言い様だな、とちょっと感心した。
「それでね、お礼といってはなんなんだけど、この後一緒にお買い物行かない? 何か可愛い服でもプレゼントできたらなって」
「えっ、そんな、そこまでしてもらうのは申し訳ないです!」
 慌てて美桜さんは頭を振る。
「私、姉妹っていなかったから妹って憧れてて……お揃いの服とかしたいな、なんて思っているのだけれど」
「いいんですか!?」
 だけど、小夜子さんがちょっと照れたように言えば、たちまち美桜さんの目が輝く。
「美桜ちゃんが嫌でなければ、だけど」
「もちろん嬉しいです! 小夜子さんとお揃いなんて……」
「私も美桜ちゃんとお揃いの服で出かけられたらとっても楽しいわ。あ、マスクはなくても十分可愛いと思うわ。それにちょっと違うパーツがあった方が姉妹っぽいなって」
「そうですか? えへへ……」
 嬉しそうに美桜さんは笑う。
……たぶん小夜子さんは美桜さんに自分と同じ服を着せて、目元だけ似てる別人としてストーカーさん達にあいさつ回りをするつもりなんだろう。
美桜さんが勘違いされたままだと今後また何か巻き込まれるかもしれないという配慮なのかもしれない。
小夜子さんの性格からして、単純に自分と同じ服を着た、自分そっくりの美桜さんを連れ歩いてストーカーさん達をからかいたいというのもありそうな気もするけれど。
なんにせよ、二人とも楽しそうだからそれはそれで良いのかもしれない。

うん、訳がわからない。
だけど、訳が分からな過ぎて面白い。
普通は絶対こんな事、起こらないはずだ。
……もしかしたら魅了体質って、楽しいのかもしれない。
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登場人物紹介

笹川 由乃(ささがわ ゆの)

本作品の主人公。

ある日突然発現した魅了体質が原因で小夜子のもとに預けられた小学五年生。

小夜子さんと一緒にいると心の中でツッコミが止まらない。

笹川 小夜子(ささがわ さよこ)

由乃の親戚で同じく魅了体質のお姉さん。

彼女の周りにはいつもエキセントリックな人達で溢れている。

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