ふたり、はじめての…

文字数 1,576文字

 ― 2015年 秋 ―
 その夜、私はティムと「一体」になりたくて、彼に言いました。
「ねえティム、私のいとしい人、今夜、あなたを求めてもいいかしら」
 彼は、困惑ぎみの顔で私を見つめました。
「どういう意味だよ」
「私ね、今夜はあなたと『一体』になりたいの」
 彼は、考えたような顔をしました。私は、思わず詰め寄ってしまいました。
「なぜためらうの?疲れてるの?」
 彼は、首を横に振りました。
「じゃあ、どうして?」
 しばらく変な沈黙が続きましたが、ティムはようやく口を開きました。
「実は俺、15歳のときに、全く運悪くヤンキーのけんかに巻き込まれて、蹴っちゃいけない所を蹴られて…意識なくした。で、『二つあったアレ』の片方が割れてて、取ってもらった……」
 衝撃的な告白に、私は絶句しました。いとしい人の口元と、体全体が細かく震えていました。
「それ以来、そういうことしたときに傷が痛むんじゃないか、子どもができないんじゃないかって、ずっと恐れてた」

 彼は、私の知らなかった心身のひどい苦痛を抱えてきた…、そのことを想像すると、愛する人に対する憐れさといとしさが込み上げてきて、彼を抱き締めました。
「サラ…?」
「ティム、あなたの体に悲しい欠損があっても、私はあなたの全てを受け入れるわ。だから、あなたも恐れないで、私を抱いて」
 私のいとしい人は、目に涙を浮かべながら、二度ほど深くうなずきました。

 そして、ティムと私は「フルヌード」になり、同じベッドに入りました。


 私たちの熱いひとときは、kissから始まりました。そのすぐあと、私は言いました。
「さあ、あなたの好きなようにして」
「じゃあ…そうするよ」
 最愛のティムは、私に覆いかぶさるように、私を抱きました。

「…大丈夫?傷、痛くない?」
「全然。むしろ、こういうのって、こんなに気持ちいいんだな…」
 彼は少しもつらそうな顔はせず、むしろ愛する人と「直に」密着できた喜びでいっぱいに見えました。私も、お互いの体温と鼓動を感じている間、言葉にできないくらいの快感を覚えました。やだ、私ったら、恥ずかしい…。

 ― 甘美で濃厚な時間は、かなり長く続きました。 ―

 ― 数カ月後 ―

 私は、どうも体調がおかしいと感じ、「月1回来るモノ」がずっと来ていなかったので、産婦人科で診察を受けました。そこで、妊娠が判明したのです。私は、驚きのあまり、人前にもかかわらず叫び声を上げました。心当たりは大いにありました。私が事実を受け入れても、彼は同じように受け入れてくれるかしら…。何とも言えない心境になりました。


 その夜、帰宅したティムは、私の
「おかえりなさい」
 と言う声のトーンがいつもと違うので、心配そうに声をかけました。
「どうした、サラ?何かつらいことでもあった?」
 私は、彼の目をしっかり見つめて、少し震える声で真実を告げました。
「ううん…聞いて、ティム。私…赤ちゃんができたの」
 ティムは、驚ききった顔で私を見ましたが、すぐに顔いっぱいに喜びを示し、私を強く、強く抱き締めました。
「そうか…、良かったな…」
 彼は、嗚咽を漏らし始めました。
「今日、おまえの知らせを聞いて、俺は心の底からうれしい…」
 私も、自然に涙腺が緩みました。
「奇跡って、本当に起こるのね…」
「ああ、こんな日が来るなんて、もうあり得ないと思ってた」
 ティムの涙が、私の肩の辺りを濡らしました。

 このあとの彼の言葉が、私の耳と心に強く刻み込まれました。
「俺は若すぎる。おまえの愛なしじゃ生きられない。だから、どうか一人にしないでほしい」
 抱き締められたまま、私は答えました。
「今夜、あなたのたくさんの笑顔に感謝します。私は一生、あなたを愛します」
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