9:七月前半のこと

文字数 1,845文字

 ということで、大告白大会が終わりまして、七月に入ります。ここら辺最終的にお笑いに行った噂が多いんで、カットして行っちゃいましょうか?
 勿論、七月には大ネタである『あの屋敷』がありますけどね、あれは見たままと言いますか、特に語ることが無いんですよね。ですから、僕が生還し、そう……DVDでも出す時に、ボーナストラックとして無編集版を入れるってことで勘弁ですかね? いや、カットした場面って割とどーでもいい、移動の際の雑談とかなんですけどね。
 あとは『足掴み』『笑う影女』『用水路に蠢く影』ですが、皆さんご存知のように、全て不発でした。

『笑う影女』の方は、近所の人で笑い声を聞いたような気がするという証言が幾つか撮れたので、番組的には良かったのですが、『足掴み』に関しては現場をうろうろ歩いただけで終わってしまいました。

『用水路に蠢く影』は、まあ用水路なんてカッコよく言ってますが、皆さんご存知のように実際はドブでして、ある場所でドブに野良犬が引きずり込まれるのを見た、という話をヤンさんが仕入れてきたんですね。でも行ってみたらドブがゲリラ豪雨の所為か、たっぷたぷでお手上げ。
 まあ、この回は、そのまま某アミューズメント施設に遊びに行き、ウレタンの手裏剣を的に当てるやつで、委員長が早投げ、かつ百発百中の腕に僕の『委員長―っ』という絶叫が被る、皆さんに大人気な映像も撮れたので良し!
 後は――あの『おまじない』の話は語っておかなければダメかな。

 この『おまじない』は結構初期から送られてきていた噂で、委員長が呆れてたやつで、僕も他のネタの方が面白そうだったので後回しになってたものです。
 おまじないはこんな内容でした。

『あるスーパーマーケットの横に神様が住んでいるそうです。そこはスーパーの駐車場と建売住宅に囲まれた空地で、家を建てようとすると祟りがあって駄目で、結局『あきらめられた場所』になってしまいました。
 でも、駐車場側の鉄柵に願い事を書いた紙を結ぶと、神様が暇な時に願いを叶えてくれるそうです』

 ツッコミどころ満載じゃねーか、とは委員長の言葉です。
 このスーパー、委員長の行きつけでして、毎週木曜日は卵が安いのだそうですが、僕らが行った時は水曜日で、冷凍食品セールの日でした。アイス、あの時は冷たくて美味かったですねえ。今は暖かい飲み物が恋しいですが……。

 ああっと元に戻します。

 ツッコミどころとは? と僕は鉄柵にもたれながら委員長を撮影しました。委員長は鉄柵に結ばれたボロボロになった紙を指でちょっといじり、カメラを掴んで下に向けました。
「……ここに願いを結んだ人達も、あたしみたく必死かもしれない。だから、今から言う事は放映しなくていいや」
 勿論、そうなりました。
「ここらは元々沼だったんだって。だから、ほら見て、ここ、水がジュクジュク湧いてるでしょ?」
 成程、草が生い茂っている空地は、よく見れば下がぬかるんでいます。
「だから家が建たない。沼の形よりちょっと大きい空き地、ってのがここの正体よ。虫が多くて周りの人達困ってるみたいだけどね。
 神様って話は、沼があった時に水神様を祀った小さな社があったんだって」
 水神? と僕。水の神様、と委員長。
「龍とか河童とか?」
 僕は鉄柵から上半身を乗り出して下を見ました。
 元沼地は、駐車場から二~三メートル下に結構な大きさで拡がっていました。形は三角形と言っていいでしょう。
「昔はこの沼もっと大きくて、町の中心を流れてるあの川まで繋がってたらしいし、河童が隠れ家にしてたかも」
「うーん、この形が龍っぽくない? 竜の頭」

 委員長はふーむと下を覗くと、男の子って三角形を見ると恐竜を連想する、って学説を発表したら結構ウケると思わない? と言いました。
 なんか、真理に思えて、ちょっと恥ずかしくなってしまいまして、それからダラダラ世間話をして撮影は終了です。
 ちなみに、ばーちゃんは本放送では僕らの会話を抜粋して字幕にし、イメージビデオっぽく処理をしまして、こう、青春って感じの曲が流れていました。委員長は勘弁してくれって悲鳴を上げてましたね。視聴回数は何故か結構高いんですよね、この回は。

 でも、この回、僕は最近何度も見たんですよ。
 まさか、ああいう形でここに辿りつくとは、この時は露程も思わなかったんですよ。

 もっと、こう、勘とか閃きが欲しいものです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み