世界は、チャレンジにあふれている

文字数 1,576文字

 猫をかぶるという言葉に、ネガティブなイメージを持っている人が多いかもしれない。でも本当にそうだろうか?
 猫をかぶるというのは、本性を隠して、おとなしそうなふりをすることだ。それでは、どういうときに人は猫をかぶるか?本性を隠すというのだから、自分のことをよく知っている人たちの前では意味がない。猫をかぶるのは、知らない人たちと交わるときだろう。
 例えば進学や就職がそうだ。新しい学校や職場で、普段の自分を出せずに、不安やストレスを抱えた経験をしたことは、きっと誰にでもあるはずだ。だから、分かるのだ。猫をかぶらないといけない状況が、どれだけ大変かということが。
 出来ることなら、気心の知れた人たちに囲まれて、いつだって自分らしくありたい。そう考えるのが当たり前だ。
 それにもかかわらず、自分自身の意思で新しい環境・未知の世界に飛び込み、猫をかぶる人たちがいる。彼女たち、彼たちにはあるのだ、本来の自分を押し殺してでも、どうしても手に入れたい何か、どうしても成し遂げたい何かが。
 猫をかぶっている人は、きっと熱い思いを心に秘めてチャレンジしている人だ。

 バレンタインデーは、今も昔も、好きな人に自分の気持ちを伝えるチャンスだ。
 だけど、チャンスはピンチでもある。もし、チョコレートを渡して告白し、男の子に自分の気持ちを受け止めてもらえれば晴れてハッピーエンドだ。でも、もし否定されてしまえば、ささやかな片思いという恋さえ終わってしまう。
 チョコレートを渡して気持ちは伝えたい。その一方で否定されるのは怖い。その間で、悩んで悩んで悩みぬいた結果、いかにも義理だという感じでチョコレートを渡すという決断をする女の子もいる。
 手作りの気持ちがこもったチョコレートではなくて、市販の板チョコみたいなやつを渡すのだ。そして、相手の様子を反応を見て一喜一憂する。
 これは有効な作戦だ。ただ、問題もある。市販のチョコレートを選択した場合、他の女の子とチョコレートがかぶってしまうことがあるのだ。こうなってくると意中の男子の反応も気になるけれど、同じチョコレートを渡した女の子の気持ちも気になる。
 そんな風にしてより複雑に、それでも女の子の恋は続いていく。その恋する時間は、自分にできる最大限の勇気を振り絞った、女の子に与えられたご褒美なのかもしれない。
 恋敵とかぶったチョコレート、それは青春の一ページに鮮明に刻まれたチャレンジの記憶だ。

 目覚まし時計が鳴って、すぐに起きてくるお父さんは少ないだろう。目覚まし時計が手の届く場所にあれば、すぐに止める。わざと手の届かない場所にセットしていても、布団をかぶって、何とか一日の始まりをあと五分、あと十分と遅らせようとする。
 それは昨日の夜が遅かったからだけじゃない。
 毎日は、平凡で素晴らしくて、そして大変だ。得意先の無理難題、上司の評価、同僚との人間関係、部下とのジェネレーションギャップ。今日も会社では、大小無数のトラブルがお父さんを待ち構えている。このまま布団の中にずっといたい、会社に行きたくない、そう思うお父さんを誰が責められるだろう。
 それでも、お父さんはやがて布団から出てきて、スーツに着替える。
 目覚まし時計が鳴り続ける部屋の中で、布団をかぶっているお父さんは、怠惰な睡眠をむさぼっているわけじゃない。お父さんは、蓄えているのだ。パワーを、家族のためにその日一日戦い抜くパワーを。大きくジャンプする前に、一度深くしゃがみ込むように。
 布団をかぶっているお父さんの、その日のチャレンジはもう始まっている。

    かぶることは逃げることじゃない。それは、あなたの新しいチャレンジだ。
              さあ、一歩踏み出そう。
  
                             日本かつら振興会
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