第1話

文字数 2,005文字

その日は朝から晴れていた。
 ここは京急横浜駅だった。
 品川方面のプラットフォームには、多くの乗客が、スマホを観ながら、または、イヤホンで何かを聴いていた。
 三崎口方面から赤色の電車が入ってきた。
ー歩いても歩いても小舟のようにあなたはあなたは揺れてあなたの夢の中
 いしだあゆみ『ブルーライトヨコハマ』が、発車メロディーで流れてきた。
 そこに一人の華奢な男性が、カバンを掲げながら、電車を待っていた。
 シンイチは、いしだあゆみ『ブルーライトヨコハマ』を聴きながら、これから、京急快特青砥行きで、都心の品川まで向かった。
 シンイチは、もう、40代だった。
 そして、京急快特青砥行きの車内は、シンイチと同じような通勤客や通学する学生と乗せながら、横浜駅を出発した。
 40代のシンイチは、これから、会社のある都心へ向かっているのだが、いつもスマホの音楽を聴きながら、京急快特青砥行きに乗っている。
 迷いながら、人生を歩んでいるシンイチだった。
 大学を卒業して、もう20年以上が経過する。
 そして、シンイチは、いつも会社で、要領が悪く、そして、恋人は違う男性と付き合って、結婚し、さらに、会社での仕事も後輩が先に上司になった。それでも、何とか仕事をずっとしてきたのだが、いわゆる、シンイチは、大人しいがゆえに、そのまま、みんなから、いつも見くびられているような感じがしていた。
 シンイチは、両親に言われたままの人生を歩んでいたが、この年齢になると、もう、生きることへの希望がなくなってきた。
ーもう、やけっぱちでも起こそうか。
 と何度も思っていたが、世間でいうところの事件を起こす気力もなく、また、両親に反発する気力もない。
 今日も、後輩になった上司が、いる会社へそのまま行くのは憂鬱だが、それでも、仕事のために、何とか頑張って会社で仕事をしてきたのだが、もう、疲れてきたとも感じていた。
 スマホの音楽を聴いた。
 シンイチは、こんな時、つい好きな音楽を聴いて、いや、時には、一人で、カラオケに行くこともあった。
 確かに、好きなミュージシャンの曲を歌って、ストレス発散をすることもあった。そして、今、横浜市内のハイツに未だに一人で住んでいるのだが、未だに、夜、会社から帰ってきたら、よく歌う。
 元々、シンイチの母親は、ピアノの教師をしていたのだが、それで、シンイチも、子供のころから、音楽は好きだった。
 京急快特青砥行きは、川崎駅を超えて、東京都心へ行き、そして、品川駅に着いた。
 シンイチは、そこから、そのままご多聞に漏れず、音楽を聴いている。電車は、そのまま泉岳寺駅から地下鉄浅草線に入って、シンイチは、新橋駅で下車した。シンイチは、ここの新橋駅の近所の会社で仕事をしている。
 新橋駅を歩くと、シンイチは、ここでよく若いときは、同僚とお酒を飲んだのだが、今は、もう彼らはいなくなった。彼らの中には、地元へ帰って、実家の商売を継いだり、または、農業をする、と言った人もいた。
 新橋あたりで、シンイチは、よくお酒を飲み、パチンコへ行き、時には、女性と遊んだが、そんなかつての面影はなくなっていた。そして、世間では、もう、路上ライブなんてしづらくなり、そして、芸能番組から馴染みのミュージシャンはなくなり、そして、ユーチューバーになってきた。
 確かに、ユーチューバーが、時代の流れになってきたのは、間違いがなかった。
 東海道新幹線の青い車両が、関西方面にシャーッと走っている。
 そして、少し行ったところに、テレビ局がある。
 シンイチは、少し行ったところのビルディングに入って、会社に向かった。タイムカードを押し、そして、自分のデスクに向かった。
 9時になり、いつもの書類のデータを作成しようと思っていた。
 9時の前に、チーフのナガミネが、朝礼を始めた。
ー今度の7月にカラオケ大会をします
 チーフのナガミネは、シンイチよりも10歳若い上司だった。
 ナガミネは、今年の6月からチーフになったのだが、それでも、今の職場で、懇親会を込めて、カラオケ大会をしようとなったらしい。
 「それぞれ曲を決めて発表すること」
 とあった。
 ここの会社には、30代からシンイチは、勤務しているのだが、それでも、今までカラオケ大会をしようは、なかった。
 前は、ボウリング大会だのマラソン大会だの、とあったのだが、シンイチは、運動神経があまり良くないから、いつも女子の社員からは、不評だった。そして、そういう体育会系の男子は、いつも女子のお気に入りになっていた。
 もともと、華奢な身体しかないシンイチは、それこそ、「ああオレは駄目だ」と思い込んでは、自分にコンプレックスを持っていた。
 だが、今度ばかりは、「カラオケ大会」になっている。
 そして、カラオケ大会については「曲はなんでも良いから」とあった。
 シンイチは、少しだけ、自分にも光はないのかと思った。
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