邂逅トンネル
文字数 1,460文字
とある企業の取引で、とある田舎町へ出向くことになった
ある程度の商談を終わらせ夜になり、今は後輩の
「お疲れ様です吾妻先輩。これで終わりですね」
風呂上りの寝巻の姿で、歩きながらそう聞いてきた
「そうだな。明日はやっと本社に戻れそうだ」
ここ一週間は、この田舎町で過ごしていたのだ
案外ここもいいところで、残業ばかりだったが、ゆったりと休息が出来たように感じる
すると、喜代太は唐突にこんな話を持ち掛けてきた
「あ、そういえば先輩。邂逅トンネルって知ってます?」
「
後に話を聞けば、彼の知り合いには恋人がいたらしく、五年前に彼女が他界
その事で気に病んでいたらしいのだが、そのトンネルへ訪れ、彼女本人と話し、今では仕事を復帰できるまで回復したのだという
「お前は行ってみないのか?」
私がそう聞けば、いやいや行かないですよと否定した
彼が言うには、亡くなった人の葬式に行こうにも、知らない親戚だったりが多いらしく、本当に会いたい人がいたら、行きますかねと言葉を零す
そのあとは、他愛もない話をして、彼は自室へと向かって休んだ
「……行ってみるか」
私はそう言って、一度旅館を出た
そして今、目の前には、例のトンネルがある
光が所々照らされ、見た目は普通のトンネル
「こんばんわ」
突然後ろから声を掛けられ、びっくりして後ろを振り向く
そこには、男が佇んでいた
執事のような服装で、顔を黒い布で覆い隠している
なんとも怪しかった
「邂逅トンネルへようこそ。貴方を待っている方は、もう既にいらっしゃいますよ」
そう言われ、何を言っているのだと困惑していると──
「吾妻くん」
トンネルの方から、懐かしい声が聞こえてきた
まさかと思い、私はトンネルの方へと目線を向ける
そこには、彼が大切にしていた赤い本を大事そうに持っていた
事故にあった時の姿、そのまま
「……は?”
信じられない
何故、あいつがいるんだ
私は走って彼の目の前まで向かう
「久しぶり…!それと……ごめんね。あんな事になっちゃって…ずっと謝りたかったんだ」
私の姿を見て、彼はすぐに謝ってきた
「…俺の方こそごめんな……あの時、すぐに助けられたのかもしれないのに」
もう少し早ければ
もっと考えていれば
なんて考えが勢いよく走る
「ううん。君が無事なら、それでいいよ」
その後は、互いに飽きるまでゆっくりと話しあった
懐かしいあの頃
悪戯したり、夏に祭りへ足を運んだ時の思い出
それはもう沢山話した
互いに笑って話していると、先程いた執事がこちらに歩み寄る
「小豆沢(あずさわ)様。そろそろお時間です」
死者と話すというのは、少しの時間でしか許されないのだそう
「そうですか…分かりました」
神門は寂しそうな顔をする
もっと話したかったことはあったが、仕方ない
「神門。ありがとう。お陰でこれからも頑張れそうだ」
「こちらこそ、僕の親友になってくれてありがとう」
それはこっちのセリフだと言って、私は彼の肩を軽く叩く
そして、トンネルの中は霧が発生していた
執事の彼から、このまま別れになるのだと伝えられる
「じゃあな。神門」
「うん。またね吾妻くん」
別れを告げ、私はゆっくりと目を閉じる
「先輩ー!早く起きてくださいよぉ」
喜代太の声で目が覚めた
時間を見れば、少し寝坊してしまったようだ
早めに準備し、部屋を出る
今度、彼の墓参りにも行こう
死者との、最後の出会いの場
邂逅トンネル
もしこのトンネルがあるとするなら──
是非、訪れてはいかがでしょうか
END