第5話

文字数 1,387文字

おまけ②【最期】













 それは、斎御司と眞戸部の最後の時間である。


 「眞戸部、ちょっといいか」
 「はい、なんでしょう」
 「念の為、言っておくが」
 「なんです?」
 「もし私の身に何かあった場合なんだが」
 「どうしたんです?何かあるんですか?」
 「いいから聞きなさい」
 「はいはい」
 「もし何かあったときは、私が信頼している人のもとへ異動願いを出しなさい」
 「そしたら将烈さんのとこでも行きますよ」
 「将烈にも何かあったときだ」
 「え、もしかして、休暇とかいいつつ、やっぱりどっか調査しに行ってるんですか?なんとなくわかってましたけど。戻って来ない心算です?」
 「将烈はしばらく連絡が取れないと思いなさい」
 「斎御司さんまで何かあるって・・・。もしかして、これから何か起こります?」
 「わからん。だからもしもの時だ」
 「・・・これ、どちら様です?」
 「古い友人だ。一時は、何処かの城で騎士をやっていたそうだ」
 「警察の方・・・ってわけじゃなさそうですね?」
 「まあな。もしくはこっちにするか?」
 「こちらは?」
 「一応お医者様だ」
 「・・・・・・お二人とも、すぐに連絡取れるんですか?」
 「すぐには取れないかもな」
 「意味無いじゃないですか」
 「だが、ここにいる年寄り連中より信頼できるぞ」
 「鬧影さんたちがいますよ」
 「奴らとて危険に晒されるかもしれんだろう」
 「へー」
 「ちゃんと聞きなさい」
 「はーい」
 「いいか。警察だけが全てじゃない。もしも生死の危険性を感じれば、こんな組織さっさと辞めて、そいつらに連絡を取りなさい」
 「生死の危険性?」
 「あとは、お前の判断でいい」
 「・・・・・・」
 「眞戸部」
 「はい」
 「頼んだぞ」
 「はい?」



 鬧影に連れられ鬧影の部屋で呆然とする眞戸部。
 鬧影はお茶を淹れてテーブルに置くが、眞戸部の顔は涙でボロボロだ。
 「眞戸部」
 何度も呼んだが、眞戸部は返事をしない。
 何処を見ているのかもわからない視線の先には、先程の映像が映し出されているのかもしれない。
 しばらくそのままにしておいた鬧影だが、数日経っても眞戸部に変化はなかった。
 しまいには、ブツブツと何か言いだした眞戸部に、鬧影は前髪をかきあげて近づいて行く。
 
 パシンッ

 「いい加減にしろ」
 「・・・・・・」
 「眞戸部、お前は斎御司さんの最後の部下だ。お前が動かなくてどうする」
 「・・・・・・」
 「斎御司さんの最後の姿を知っているのはお前だけなんだ。思い出せ」
 「・・・・・・っ」
 「大丈夫だ。俺達もいる。斎御司さんに着せられた汚名は晴らす」
 「・・・・・・」
 「斎御司さんのことだから、前以て何か伝えてたんじゃないか?」
 「・・・・・・あ」
 思い出したように、斎御司に渡された友人の連絡先が書かれた紙を取り出す。
 「お前はお前の好きに動け。こっちは俺達でなんとかする」
 「けど・・・」
 「いいか。人にはそれぞれ出来ることとやるべきことがある。今はそれを、やるしかないんだ」
 「・・・・・・」
 鬧影の言葉に、眞戸部は決意する。
 休暇届けを出し、斎御司からもらった連絡先へとかける。
 これからどうなるかは分からないが、それでも、進むしかないと背中を押され。



 何日かかけ続けると、ようやく、その人物へと繋がる。
 第一声は、なんとも言えないほど不機嫌であったのは確かだ。


 『・・・誰だ?』
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登場人物紹介

斎御司(さいおんじ):眞戸部の上司。愛する妻と娘がいるが、娘はある男に惚れている。。。

眞戸部(まとべ):斎御司の部下。飄々としていて、潜入捜査などもこなす。斎御司と将烈に恩がある。

波幸(はゆき):元将烈の部下。淡々と仕事をこなす一方、将烈のことには敏感に反応する忠実な子。

火鷹(ほだか):元将烈の部下。観察力、洞察力に優れている。将烈のことを『将さん』と呼ぶ。

鬧影(どうえい):将烈の同期で、今は波幸と火鷹の上司。将烈が唯一、同期の中では信頼している。

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