第1話

文字数 599文字

別に自分はサディスティックな人間では無いと思う。少し変わったフェティズムらしきものを持っているだけだと。

例えば胸が小さいことにコンプレックスに思っている女の子を抱きしめて、耳元で「貧乳」と囁くのが好きだ。

めちゃくちゃサドじゃ無いか!と叱責が飛んできそうだがそうでは無い。その子を傷つけることを楽しんでるのではなく、その子のコンプレックスそのものを愛してるのだ。そこを傷つけてしまった痛みを持ちながら強く強く大丈夫だよと抱きしめてあげたい。そういう人間だ。

ただの変態と言われればそうなのだろう。だけどそうでは無い人間が一体どこにいるのか。サドもマゾもサイコパスな人も性質が違うだけで本質は変わらない。それを表に出してしまうか、それとも押し殺したまま死んでしまうかの幅の中でみんな生きているだけだ。

自分は押し殺したまま死んでいく側の人間なんだと思っていた。だから一度も「貧乳」と囁いたことはない。一度そんな性癖があるんだよねと話したら、女子から総スカンを食らったことがある。だから自分の中で静かに留めておいて、たまに妄想で楽しむくらいでうまく折り合いをつけながら生きていくはずだった。でも本質とは恐ろしいものでそんな思いをいとも簡単に裏切ってしまう。どうしようもなく深く、深く、深く傷を抱きしめてしまいたいと思ってしまった。

雲一つない空から降ってきた突然の雨は僕も僕の周りも、そして彼女も濡らし続けた。
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