クリスマスのリアル

文字数 2,451文字

「キリストさえ、いなければ・・・!」
「っ、いきなりどうした?!」

俺、佐藤よしゅあ。高校二年生。
そして冒頭から物騒なことを言ったのは同級生で親友の 丹波 葉一。
唐突な台詞に驚いた理由は2つあって、
一つは、ここが超・おしゃれなカフェだということ。
田舎に住んでる女子高生が一度は行ってみたい!と憧れるようなカフェー。
だからこういうところに慣れていない俺は落ち着かないし、いたたまれない・・・。

「お前もさー、自分とこの神さんに言っといてよー・・・
どうせ生まれるならクリスマス以外にしといてください!ってさー。」
「いや、キリストの誕生日がクリスマスだから。
それ以外の時に生まれたらその時がクリスマスになるだろ・・・」
「なにそれ、哲学?問答?」
そう言って葉一はおしゃれなテーブルにつっぷして、ブツブツ言いだした。
・・・キリスト・・・滅・・・クリスマス・・・滅べ・・・!
「・・・いや、キリスト、一回滅してるから・・・」
復活したけど。

まぁ、葉一が珍しくクサるのもわかる気がする。
俺たち男二人がオシャレなカフェに向いあって座っていて、まわりはオールカップル。
クリスマスが近いせいか、いちゃいちゃ率が高い気がするというか・・・
そんな中、男二人。
正しく言うと、合コン?デート?をすっぽかされた二人だし。

もともと俺は興味なかったけど、
葉一の『彼女が欲しい!彼女と過ごす青春!』いう涙ぐましい努力が実を結び、
今日、とうとうおでかけすることになった、いや、なってたから。
『女の子が友達連れてくるから!Wデートしたいっていうからさ!』
お前を男を見込んで頼む、俺たち親友だろぉおおぉ!!
と叫ぶ葉一にほだされて一緒に来ただけ。
正直にいうと野次馬根性で葉一の初彼女!を見てみたかっただけなんだけど、
まさか
『ごめんなさーい。先輩がカラオケ誘ってくれたんでー、また今度!』
というライン画面の生き証人になるとは思ってもみなかった・・・
(てか、この文面とスタンプのチョイスって、お前彼氏候補にもなってなくない・・・)
いまだテーブルから顔をあげない葉一になんと声をかけたらよいやら。

そうそう、最初の葉一の台詞
「キリストさえ、いなければ・・・」に、驚いたもう一つの理由を言っておくと。

俺、佐藤よしゅあはクリスチャン、だから。
・・・この名前の為、外国の方ですか?と間違われて、
いいえ、親がクリスチャンで・・・牧師だったんで、聖書の人物からとっただけなんです・・・と説明することもしばしば。
聖書からとるにしても、他にいい名前あるだろ!と親父に文句言ったこともあるけど、
もう諦めた。
親父もお袋も、文句を言うには遠いところにいってしまったから。
俺が一五の時に事故で。

それで、
「けどさー。よしゅあはいいよなー!
牧師先生ともなると、クリスマスいろいろ楽しめるんだろー?
クリスチャン女子に囲まれてクリスマス会とかさー!」

・・・それで、牧師、やってるから・・・!

牧師だけど、こういう人中でキリストだの牧師だのクリスチャンだの言われると何故かビビる。
葉一はそんな俺を『隠れキリシタンか!』と面白がってからかってくるんだけれども。

「あー、いいなー、よしゅあ君はクリスチャン女子と聖なるクリスマスかー。」
「・・・お前、今日はやたらとひがみっぽいというか、落ち込んでるな・・・」
「そりゃそうだろー。俺なんか、とうとう今年もクリボッチ確定なんだからなー」
だって涙がでちゃう、男の子だもん!と言って葉一は紅茶をずずずっと飲み干した。
「そりゃ、クリボッチではないけどさ・・・忙しいんだぞ?
小学生のクリスマス会にイブのクリスマス会に日曜のクリスマス会があって・・・」
「ほほう。」
「大体、俺の教会に女子が何人いるか、お前も夏のキャンプで来たから知ってるだろ・・・
小学生のぼたんちゃんと中学生のひまわりちゃんだけだぞ・・・」
ダリアもいないし、と一応付け加えておく。
「え、さくらさんは?教会来ないの?」
「さくらはただの幼馴染でクリスチャンじゃないから。」
家が隣だから、昔はよく来てたけど。
「・・・あとは・・・平均年齢高いし・・・」
「それはトラじーさんとかが平均あげてるんじゃなくて?」
「・・・お前、いつの間にかトラじーちゃんとライン友になってたよな・・・」
そんなにコミュ力高いのに彼女ができないのはなんでだろうな?
「とにかく、お前が想像しているようなクリスマス会じゃないって。
まだ11月だから俺もこうしていられるけど、12月に入ったら怒涛の準備が始まるし、
特に今年はまだ何をするかも決まってなくて、」
「それだ」
「んん?」
「俺の想像するクリスマス会をしたらいいんだ!よしゅあんちで!」
「はぁ?」
つまりさ!この前のキャンプのときのコンサートみたいにさ!
なんかしたらよくない?
さくらさんとかゆりさんとかも巻き込んでさー!!
ダリアさんにもまた来て歌ってもらったり、
樹太郎くんにケーキとか作ってもらってさー!!

勢いづいて話しだした葉一の言葉で、
夏のキャンプの夜のコンサートの大盛況っぷりを思い出した。
あの時は教会に来た人、皆すごく楽しそうだったな・・・。
やまのべ教会にあんなに沢山の人が来たのも久しぶりだったし、
なんというか、不思議な一体感があって。
そうだな、あんなイベントがまたできたら・・・。
「いや、無理だから。」
あれはな、たまたまなの!
普通はノンクリスチャンが教会のイベントに関わることないから!
「だってさー、俺さー、あんとき感動したんだよー。
皆で一つの目標にむかうカンジっていうか、教会っていいもんじゃね?って。」
またしたいー!無理だっつーの、と攻防を繰り返していると葉一はニヤっ、として言った。
「よしゅあ君、夢がないー!
『神にとって、不可能なことは一つもありません』なんだろー?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み