顰蹙短編「幕」

文字数 1,015文字

私が通っていた学校の体育館のステージには、藍色の舞台幕が垂れ下がっていた。それも、きちんとした一式の舞台が構成されていた。
今考えると、あそこまできちんと揃えるのは、学生には明らかにオーバースペックだと思う。
舞台幕、と一言で言っても、配置された場所によって細かい名称がある。
たとえば、舞台が始まるときの、いわゆる開幕で上がったりする、あの幕を緞帳(どんちょう)という。
ここぞというところで使われる印象のあの幕だが、約束事を無視すれば食事の後に口を拭くのにも使ってもいい。とくに油っぽい食べ物を食べた後には、さぞ拭き心地が良いことだろう!
上部に短くかかっている、細長い幕は、「一文字幕」という。名前からして、しょうもなさそうだが、実際そうである。本来装飾が目的であるゆえに、ふさ飾りがついていたりすることが多い。つまり、無駄な部分だ。口を拭くにも高すぎる場所にあるし、臀部を拭くにも高すぎる場所にあるので、幕の中では一番使い勝手が悪い。
その一文字幕の左右にある、下まで垂れ下がった、幅が狭い幕が袖幕である。この幕はお手軽で、体育などでかいた汗を拭くときなどにちょうどいい。あまりに使い勝手が良いので、交換頻度が一番高いのではと思わせる幕であるが、もちろん、交換されることは滅多にないので、口を拭くには、やはり緞帳が衛生的に考えて最適であるという結論に至る。
次は緞帳の一枚奥にある、舞台の真ん中から左右に大きく開く、かすみ幕。幕の偉さで言えば、緞帳の次に大事な、いわば準主役的な立ち位置にある幕だと言えよう。場所と面積を考えれば、大量の小便でも大便でも自由自在である。
一番奥にある、面積では一番大きい、ホリゾンタル幕は、面積こそ広いが、奥ゆかしさはない。緞帳やかすみ幕のように普段、収納もされず、「どうぞ、いつでも、どこからでも拭いてください」と言わんばかりの佇まいだからである。金をもらって嫌々やってるだけ、という部分では、売春婦のほうがまだ品位が上である。
とりあえず、幕の紹介は今回ここまでとするが、他にも紹介してない幕があるくらい、幕の世界は奥深い。
想像力が豊かな人は、幕を使った服を仕立てることも頭によぎったことだろう。
ただ、体育館で幕を見つけても、勝手に手拭きにすることなく、一言責任者に許可を得てから利用するか、自前で購入した幕を小さく切ったものを持ち歩くことをおすすめする。
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