第1話

文字数 1,137文字

 この年末年始、日本海側の東北地方を日本海低気圧が発達して通過し、数十年に一度の大寒波が襲い天気は大荒れ、大雪が降った。庄内の冬は津々(しんしん)と雪が降り積もる静かな冬ではない。強風と降雪を特徴とする、動的で攻撃的、獰猛(どうもう)な冬なのだ。
 「雪は地面から降る。」「雪は横から降る。」といわれる地吹雪が、庄内では一冬に何回も起こる。春はタンポポが咲くのどかな幹線の農道に「冬期間、地吹雪の時は危険で通行できません」という看板を見かける。
 ホワイトアウト、真っ白で何も見えなくなる。
 写真は2018年2月に車中から撮影した地吹雪の写真だ。驚いたことに、地吹雪の中からはカメラの自動焦点が定まらなかった。一面の白で何の境もなく何も見えないのだから、当然と言えば当然なのだが。

 農道の左の路肩に車を停めてある。前方の左右の道路脇のポールの間が道路でその間を進む。左右の道路脇には20m間隔でポールが立ててあるが、先のポールはわずかに見える程度で視界は20m以下だ。路肩が分からないので端に寄り過ぎると田んぼに落ちる。怖いので道路の中央と思われるところを進むと対向車と正面衝突する。
 以前、東京から来た研修医を乗せて忘年会に向かう途中で地吹雪に遭遇した。ヘッドライトに地面から舞い上がる白い雪のカーテンが照らし出されるが、前も路肩も見えない。「えっ!?これってマジですか?やばくないですか?」と騒ぐ研修医の言葉使いは矢張り若者風だ。
 早朝、地元の朝風呂に向かう途中で、天候が急変し地吹雪になった。自分の後ろの2台の車は、自分の車のテールランプを見失わないように車間を詰めてくる。前は見えない。路肩も分からない。後ろからは(あお)られる。地元の人の運転にはかなわない。先に行ってもらおうと、ハザードランプを点滅させその場に車を停めた。
 そうしたら、後ろの2台も停まってしまった。さすがに動けないらしい。しばらくしてから追い抜いて行った。
 その朝風呂で、常連の一人に「さっき停まっていた先生の車を追い抜いたぞ。」と誇らしげに声を掛けられた。(恐れ入りました…。)
 東京出身の医師が、地吹雪で何も見えなくなった時に、カーナビの地図を最大限に拡大して画面だけを見ながら運転してきたことが話題になった。「対向車もあることだし危険では?」の意見に対し、「どうせ何も見えないのだからカーナビの画面を見ていた方がいい。」とのことだった。
 ん~、成る程、時代は変わる。地吹雪の地方こそ、車の自動運転が役に立つ。そうすれば路肩を踏み外して田んぼに落ちることもなくなる。正面衝突は、地域を一方通行にすれば解決できる。
 田舎であっても、身近なところに新しいアイデアのヒントはたくさんあるのだと思った。
 んだんだ!
(2020年4月)

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