第2話   白峰 楓蓮 

エピソード文字数 4,077文字

 


 ※ 

  

 黒澤家の人間は、一つの体で男と女に入れ替わる事が出来る。

 さぞかし万能な能力じゃないか? そう思われるのだろうが、実は全然そんな事は無い。
 

 俺だってこの能力が便利だと思う時もあれば、笑えないデメリットも多数存在するのだ。

 いや、ぶっちゃけデメリットの方が多い。




 風呂から上がった俺は、先に華凛の髪を乾かすべくドライヤーをしていた。

「お姉ちゃん。今からだと何時に寝ればいいの?」
「お前は気にしなくていい。九時までに寝なきゃいいから楽だろ?」 

 入れ替わるのに必要な行動としては、寝る。そう思っていただけると分かりやすい。


 寝ると言っても、仮眠を取る状態でも十分可能で、心身共にリラックスすれば入れ替わりをする事が出来る。さっきソファーでゆっくりしていたのも、そういう理由なのだ。
 
 ここまで聞くと、とても便利な能力じゃないかと思われそうだが、色々な制限がある。例えば……


 ・入れ替わった直後から約四時間ほどは、再度入れ替わり出来ない。
 ・ずっと片方の性別では居られない。定期的に入れ替わる必要がある。

 
 他にもあるが、基本的なデメリットはこの二つだろう。


 俺達は一日二十四時間の中で、最低一回以上は入れ替わらなければならない。これを無視していると最初は頭痛で知らせてくれるが、次第に我慢できない痛みへと変化する。
 
 最終的にはまともに動けなくなり意識を失う。そして強制的に入れ替わってしまうらしい。らしいと言うのは俺も体験した事が無いからな。


 なので、リミットが来る前に入れ替わりを行うのが、俺らの生活では基本なのだ。




 と、その時ようやく俺のスマホに親父の連絡がくる。 
 華凛の髪も乾いたので開放してやると、早速スマホのパズルゲームをしだした。


 

 すると、今日は遅くなるから飯は勝手にやってろとか。非常に無責任な返答が返って来た。

「お父さん帰ってくるの?」

あの野郎。帰って来れないならもっと早く連絡しろよ。

華凛。俺らで飯買いに行くぞ

 入れ替わった後で言うなよ。ったく。タイミング悪いぜ。

 

 少しばかりイライラしながらも出かける準備をする。って言っても俺の場合は髪の毛を一括りにして、男女共通のシャツとジーンズを履けばそれで出かけられる。

「早くしろ。さっさと済まそう」
「待ってお姉ちゃん。ねぇどっちが可愛い?」
 また服で悩んでやがるのか。どっちでもいいから早くしろよ。


 女性のファッションに興味が無い俺に対し、華凛はとてもおしゃまさんだ。


 戸籍上は男になっているがこういう場面を見ていると、華凛は女の方が良かったんじゃねぇかと思う姉であった。


 家を出ると既に日は沈み、暗くなっていた。

 華凛と手を繋ぎ階段を降りる。マンションの入り口から道路に出ると意外にも明るいのに気が付いた。


 前に住んでいた場所はかなり田舎だったからな。

 この時間だと真っ暗で何も見えないというイメージがあったが、さすがは都会であると思った。


 

 さて、家から一番近いコンビニは歩いて十分ちょっとだ。片側三車線ある道路を超えて、商店街を抜けた先にある。


 ド田舎出身の俺達にとっては歩いてコンビニに行けること自体、都会だと思ってしまうのであった。


 さっさとコンビニで弁当でも買ってトンボ帰りだ。

 今回の出費は、親父が帰ってきてから請求させてもらうぞ。





 商店街に入ると、その先にコンビニが見えてくる。

 だが、その前にやたら装飾された店が視界に入ってくると、俺はじっとその店を見ていた。


 と言うのも、店のガラスに張られた張り紙を見ていたのだ。

 そこには「新規オープンに付きアルバイト募集」と書かれている。

「どうしたの?」
「前々から言われてるんだ。高校に上がればバイトでもしろってな」
「えぇ~? そんな……」

その店は普通の喫茶店だな。

洋風なイメージの白い建物。新築って感じではないが、規模的にはこじんまりとしており、外装は新規オープンという事だけあってわりと綺麗だった

お姉ちゃん。働くの?
学校もあるからな。毎日は無理だが
そんな……一人でお留守番とか、やだよ
でも、バイトすれば華凛にも小遣いやるぞ
「ううん。お姉ちゃんが家にいる方がいい」
「親父の収入が不安定なんだからしょうがねぇだろ? それにお前も六年生なんだから、そろそろ一人で留守番くらい出来るだろ?」
 おいおい。そんな事でヘコむな。顔を上げろよ。

 繋いだ手に力を入れながら下を向く華凛。かなり不満な様子だ。文句は親父に言ってくれ。



 そんな妹をよそに張り紙の内容をマジマジと見ていた。


 カウンタースタッフって事は接客だろうか?

 時給は900円か。それに週二からでもOK。更には週払いかよ。


 おぉっ。これはかなり良い条件なのではないか? 

 家からも近いし、一回親父に相談してみよう。

華凛。この喫茶店で食べるか? オムライスとかあるみたいだぞ
……いいの? 高いんじゃないの?
親父に請求するから問題ない。久しぶりに外食しよう

 とか言いながら実は喫茶店の雰囲気を見る為でもある。

 まずはどんな店内なのか視察させてもらおう。



 ドアを開けカランコロンという変な音が鳴ると、どこからともなく「いらっしゃいませ~」と挨拶が聞こえてくる。


 俺はその店員の後姿を見た瞬間「え?」と声を出してしまった。



 あのピンクの髪は……

「二名様ですか? こちらのテーブル席にどうぞ」
 店員の服装がふりふりメイド服であったというのにも驚きだったが、そんな事よりも、俺達をテーブル席に案内する彼女が……高校のクラスで一緒になった白竹さんだったって事だ。
「ご注文がお決まりになられましたら、お呼び下さいね」

 ピンクの髪の毛は相変わらずだが、ちょっと童顔チックな顔にメイド服という凶悪な組み合わせに、彼女の女子力が何倍にも膨れ上がってやがる。

 

 似合いすぎててマジでやばい。

 こりゃ女優や一流アイドルにも普通に勝ってるぞ。


 ちなみに俺は、自分自身でも結構美人だと思っていたが、彼女のメイド姿を見て完敗だと思ってしまったほどだ。



 とりあえず、華凛はオムライス。俺はスパゲティを頼むと白竹さんは「かしこまりました」と厨房へ消えてゆく。

 

 その間に店内を見回していると、新規オープンって事で結構客も入っているのはいいのだが、店員らしき人が小太りのじじいと白竹さんしか見かけない。その二人は店内を走り回っていた。


 そして一際目立つのがでかいピアノ。

 あれは誰かが弾いてくれるのだろうか?

「ねぇねぇお姉ちゃん。あの女の人。凄い綺麗だったね?」
 おおっ。華凛も認めるなんて珍しい。

 普段はそんな事言わないのにな。

あのな……
 そう言いながら、テーブルに前のめりになりながら小声で話す。
「あの子。実は高校でクラスが一緒になったんだ。すぐ近くの席だぞ」
「えぇ~? そうなの?」

 内緒だぞ。と言いながら人差し指を口に付け、座りなおした。


 

 その時、ふと厨房内で動く人間が目に入る。どうやら男っぽいな。

 メイド服ではなく、バーテンダーのようないで立ちで、とても目立つ銀髪だった。




 この男もぱっと見ただけで分かる美形だった。どちらかというと中性的な感じであり、メイド服を着ていたらきっと女性だと思うだろうな。



 その男がカウンターにスパゲティとオムライスを置くと、白竹さんがお盆に乗せてこちらに向かって来る。どうやら俺達の分らしい。

「ご注文の品は以上でしょうか? では何かありましたらお呼び下さいね」

 スマイルな白竹さん。華凛が固まってしまうほど凄まじかった。しかもちょっと顔が赤くなってるのには驚いた。

 

 


 さぁ食べようぜ。久しぶりの外食である。


 いつもはコンビニ弁当がメインなので、美味しい物には常に飢えていた。

 目の前に置かれたスパゲティは、外観や匂いだけで十分そそられる。

美味しい!
だな。こりゃ美味い

 俺も華凛も絶賛である。コンビニ弁当にゃ悪いが、格が違う。スパの硬さも絶妙で、ミートソースがやばいくらい美味い。


 手が勝手にモリモリと口に運んでゆくが、量も結構多く申し分ない。食べ終わった頃にはスパゲティだけで腹も十分満たされた。


 華凛は丁寧にライスと卵をスプーンの上で一口サイズにすると、美味しそうに食ってやがる。


 そんな妹のニコニコ笑顔を見ていると、この喫茶店のメニューは花丸満点だと評価させてもらおう。値段に見合う以上の絶品に姉妹揃って満足である。

ありがとうございました。また来て下さいね
 最後に白竹さんの笑顔で締めくくられ、喫茶店を後にした。

 外食でこんなに満足したのは久しぶりな気がする。

「いいなぁお姉ちゃん。あんな綺麗な女の子と同じクラスなんて」

 華凛はやたら白竹さんがお気に入りな様子だ。


 その気持ち分からんでもないぞ。同性でも彼女の笑顔にはグっとくるものがある。圧倒的な可愛さだったからな。

「でもな華凛。今日の事は……」
分かってる。今の私達は男の子の時とは別の人間として考える事だよね? 
「そうそう。お前も結構分かってきたようだな」

 今の俺達は女なのだ。


「白峰家」としてこの世界に存在している。

「黒澤家」とは何ら関係が無い人間なんだ。


 あ、白峰家と言うのは、俺や華凛が女の場合に使う名前であり、親父が決めた名前である。


 何故こんな事をするのかと言うと、俺達の入れ替わり体質を他人に漏らさないようにする為だ。


 あえて別人になりすまし、無関係を貫く。

 それが俺達家族だけのルールである。



 今の俺はただ、白峰楓蓮として妹と一緒に喫茶店に飯を食いにいった。それだけ。


 彼女が高校に通ってて、同じクラスだという情報は楓蓮では絶対に出してはならない。


 逆に蓮では、彼女が喫茶店で働いていると言う情報も出してはならない。当たり前である。



 蓮と楓蓮は同一人物であるが、こういった記憶の線引きはとても重要なのである。


 俺達黒澤家は、こうやって別々の人間を演じ、相手に違和感を持たせてはならない。


 これは俺達が生きていくには仕方のない事なのだ。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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