第22話 剣の星、嵐とともに

文字数 3,059文字

一瞬、閃光が走ったが黒い闇のような影に覆われた。
目を閉じていたホーフンドが目を開けると、何処からか現れた全身が黒い鱗に包まれた三つの角を持つ龍がガイアレスの前に立ち塞がっていた。
その龍が翼から放射している闇色の球体によってガイアレスの半身は、地面にある暗黒に落ちかけていた。
「何だこれは・・・。」
ガイアレスは、突然、夜の闇に現れた龍に驚き、攻撃を止めた。

「このすきを待っていた。
アレス、今の貴様は、動けまい。
元は、貴様が作り出した原初の混沌を支配し、我が作り変えた空間に穴を開けた、俗に言うブラックホールに入り込んでいる。」
その龍は、半身が埋もれたガイアレスに顔を近づけ言った。

「あっ、そう、それがどうしたの。
重力を司る僕にそのような攻撃、アリに土を被せるようなものさ。」
ガギィーン
ガイアレスは、その暗黒を吸収させてジルニトラの首に噛みつき持ち上げた。

「たったの数秒、一歩、一瞬で勝負は決まる。」
ジルニトラは、そう言うとガイアレスの体を鋭い爪で振り解けないようにガッシリとしがみついた。

「くだらん、消滅せよ。」
ガイアレスがそう言うと、全身からプラズマが放射され、ジルニトラは眩い光に包まれて言った。

「あぁ、操られたとは言え、我が罪は星よりも重い、邪神に利用された我は冥府のほうがお似合いさ。
だが、未来の軌跡は作られた。
ヘルヴォル、闇から出てくる光よ、今のお前なら神をも落とせよう。」
その龍は、ホーフンドやジゼルを守るために彼らを光で灼かせずにその身を捧げて影となり闇を照らした。

そして、消失したジルニトラを見届けた後、ガイアレスは、二人を見下ろして言った。
「もはや、貴様らの守るものはいなくなった。
僕の渇きも癒せないものに用はない。」
その龍は、腕を振り下ろし二人を潰そうとした。

「師匠、俺が奴を引き受けるから。
早く、逃げて。」
ガキィーン
ホーフンドは、軍神アテナの神盾アイギスを魔剣生成で作り出したものでガイアレスの一撃を受け止めたが、次は銀河の角を発光させ、頭からエネルギー弾を発射させようとした。

「なぜ、逃げないと行けないのだわ。
普通は、弟子を逃がすのが師匠の努め、だから私は逃げないのだわ。」 
ジゼルもアイギスを生成させ、ニ撃目も受け止めようとした。 

「なら、まとめて消滅しろ!!!」
その龍は、二人をまとめて消そうと発射しようとした。

すると夜空は、再び雲が現れ、かの龍にとっては喜ばしくない風が吹いた。
不穏な空気を感じた龍は、攻撃の手を緩め、周辺を見渡した。
ホーフンドやジゼルは、その姿を見ているとアフロディテの声が聞こえた。
「剣を空に捧げて。」

「ホーフンド!!!」
「あぁ、聞こえたぜ師匠。
俺たちがやるのはこれだけだ。」

二人は、両手を広げた。
「森羅万象よ、原子にまで還り魔術により新たなる姿を構築せよ。
それすなわち、科学の英知と魔術の叡智の融合。
ここに至るは、呪われし武器なり。
かつて聖剣と呼ばれたものは、魔剣に堕ちたものもある。
しかし、剣としての人々の願いは失ってはいない。
第一魔剣ティルウィング、
第二魔剣グラム、
第三魔槍ゲイボルグ。
魔剣生成!!!」
二人の詠唱が終わり、地面に手をかざすと・・・。

ドプンッ
メキメキ、バサァー
ある剣は溶岩から、ある槍は地面から飛び出し、空高く飛んでいった。

「俺たちが作り出した剣が空に。」
空へと飛び上がるたくさんの剣や槍は、自由を駆け抜ける鳥のように飛び上がり、雲の中に消えていった。

「そこにいたか、アフロディテ!!!」
黒いブレスを剣が飛び上がった雲に放った、雲に着弾したと同時に爆発した。
爆発が収まり、空を見ると星を隠した曇天のままだった。

曇天から一筋の光が見えガイアレスのところにハヤブサのように滑空している白き流星が見えた。
その瞬間ホーフンドやジゼルは、誰かに抱え込まれて遠くに連れて行かれた。

「アフロディテちゃん、無事だったの。」
ジゼルは、その高速で移動されながらも抱え込んでいるのがアフロディテだと気付いた。

「あの黒い龍がガイアレスの攻撃を受ける前に黒い龍の闇に私を避難させて保護してくれたの。
でも、私がすぐに出られたということは、あの龍は・・・。」

離れていく三人を見ながら、ガイアレスは笑みが出て来たような表情が出て来た。
「あぁ、アフロディテ生きていたとは、また僕の渇きを癒やしてくれるのかい。
まぁ、次も一瞬だけどね。
フォボス・ルッジート!!!」
城壁を瓦解する牙を持つ大口を開けて黒い魔力の球体を発射させようとした。

ヒューーー
ザッ、バァッン!!!
すると突然、空から魔槍ゲイボルグが落下して、黒い魔力の球体に激突し、ガイアレスの口から山を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。

「ギシャアアア!!!」
苦痛の声は、三人にも聞こえた。
アフロディテは、遠く離れた安全なところに二人を降ろした。

「ありがとう、ホーフンドさん、ジゼルさん。
もし、ヘルヴォルさんにあったら私に生きる意味を教えて下さりありがとうございますと言ってください。」
ガシッ
飛び去ろうとしたアフロディテの腕をホーフンドが掴んだ。
「待て、ヘルヴォルはそんなことを絶対に望まないぞ。」

不服そうな顔をしたホーフンドにアフロディテは、笑顔で言った。
「分かっています、でも私の生きる意味は人々の笑顔を守らないと。」

ホーフンドは、何も言い返せずに掴んだ腕を緩めて、下を向いた。
「ありがとうございます、ホーフンドさん。」
最後に彼女は、そう言い残しガイアレスに向かって飛んで行った。

「ホーフンドさん、私も同じ意見だけど、彼女を英雄にさせるしか、かの龍を倒す方法はないのだわ。」
ジゼルの悲しげな声だけがホーフンドの耳に残り続けた。

ヒュー、ヒュー
ウラノスの力によって空高く舞い上がった魔剣は、消滅したジルニトラのブラックホールの残骸によって更に威力を強め。
魔剣や魔槍は、落下時の空気摩擦により半ば溶け、隕石のように光を放ちながらガイアレスを襲った。
「ガラララァァァァ!!!」
降やむことのない魔剣の雨によってガイアレスは、怒りを混じった苦痛の叫びを上げた。
叫びを上げながら視界を前に移すと、音を越え、飛び去った後の溶岩は巻き上がりその龍に向かって来るものがいた。

「これが人と龍と神の力によって体現させた邪龍神を倒す技。
剣星の嵐!!!」
アフロディテは、魔剣の雨で動けないガイアレスの胸に目掛けて、手に持った氷の槍を突き刺すように体を一本の槍のような構えで突撃した。

ガイアレスも角を削り、鱗も一つ一つ剥ぐ魔剣の雨を耐えながらも口から黒い魔力のブレスを発射させた。
ババァー!!! ギュィィィィン!!!
そのブレスにも負けずにも彼女は、進んだ。
たったの一ミリでもいい、自分が出せる力全てをだした決死の覚悟は、彼女を戦いの恐怖、絶望、悲哀の更に一歩へと至った。

「来るな、来るな、来るなぁぁぁ!!!」
戦いに飢えた龍は、初めて戦いの恐怖を植え付けられた。
本来、自身が司るべき戦争の恐怖を、彼自身に刻んでしまったのだ。

・・・。
もはや、音として成立しない何かが壊れていく不協和音がただ聞こえただけだった。
その音こそが、二体の天と地の神々の戦いに終止符が打たれ、また崩れ去った瞬間であった。
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