第1話

文字数 594文字

生きている絵画

虎は死して皮を残し 人は死して名を残す
というが いったい人はこの世に
どんな生きた軌跡を残すというのだろう

先日 数枚の絵を手に入れた
ネットオークションというもので
直筆の絵画がこんなに簡単にしかも
安価に手に入るということを知った
いくら何でもこんな値段では悪いだろうと
思ったがどこかの蔵の中に眠っているより
こうして絵の好きな人間に愛されている方が
絵にとっても画家にとっても幸せなのか

毎晩 手に入れたばかりの
三枚の絵画を目の前に並べて
酒を呑みながら想いに耽っている
有名だろうが 無名だろうがそんなことは
ちっとも関係ない それは世間が下した
一方的な評価でたまたまそうなっただけだ
あのゴッホだって生きているうちは
まるで無名だったではないか

生きた絵画はやはり素晴らしい 何か
人をひきつけずにおかないオーラを放つ
ゴッホの展覧会を見に行った時に感じた
それを描いた人間の息吹と魂が宿っている
ゴッホの絵を見たときにまず感じたのは 
絵の中にまだ脈々と息づいている
彼の命そのものだった

確かにここにはこれを書いた人間の軌跡が
くっきりと鮮やかに刻印されているのだ
この画家はいわゆる名は残せなかったかも
知れないが虎の皮は立派に残している
この一枚の絵の中に彼は今でも生きていて
それを見る生者に彼の存在を放射している
それは確かなことで それをそうと
受け止めることができるのも やはり
この生きている人間だけなのだ

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