同じ軛(くびき)(後編)

文字数 693文字

 翌日、順子は博美に電話を入れた。信輔にはそれとなくと言われたが、博美の性格を考えるとどう考えてもストレートに話を切り出さないとそこには行き着きそうにない。
「昨日、衛君から電話もらったのよ」
「衛、お姉ちゃんに電話したの?」
「ううん、私じゃなくて信輔先生に。受洗するにはどうすればいいかって聞いてたわ」
順子の耳に蚊の鳴くような声で博美の
「そう……」
という返事が聞こえる。
「ヒロが止めてるんだって? 衛君の受洗」
「うん……」
「嬉しくないの? それとも衛君のご両親が反対してるの?」
「ううん、それはないと思う」
「まさか、中野先生が反対してる?」
「中野先生には言ってないと思う」
「なら何で」
順子には反対する理由がわからない。
「だって、衛メッセージの時、いつも寝てるんだよ。祈ってるのも聞いた事ないし。それなのに、いきなり『洗礼受けたい』って言い出すんだよ。きっと、私が『同じくびきを負うものじゃなきゃ、結婚なんて長続きしない』って言ったからだよ」
そうか、ヒロは自分と結婚するために衛君がムリをして教会に通っているとそう解釈しているわけか。
「でも、救われるきっかけはどんなところにあるか分からないわよ。ヒロが決めてかかるのも良くないと思うけどな」
「うん……」
そう言っても博美の返事は果々しくない。
「まぁさ、導きならどうあってもいつかは救われると思うから、今は様子見でもいいかもね」
 順子は結局この頑固な妹の性格を考えて押しすぎることを避けた。だが、後々順子はこのときのことを夢に見るほど後悔することになる。

 衛と博美はこの約一年後、24歳で結婚した。
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