第11話 シナモンロールと誘惑(3)
文字数 1,660文字
真奈の目の前の広がるパン屋は、可愛らしい雰囲気だった。
小さなパン屋で、赤い屋根がちょっと童話風な感じだ。
壁はクリーム色で、看板が出ていた。福音ベーカリーというのが、この店の名前らしい。
何より可愛らしいのが、店の前にある黒板状の看板だった。
そこには、赤ちゃん天使と柴犬のイラストが書かれていた。
今日のおススメはシナモンロールとも書いてある。条件反射のようにシナモンのスパイシーで、食欲を刺激するような香りを思い出す。
くるくるとした見た目やずっすりとした食感のシナモンロールの映像が、ずっと頭の中で再生されてしまう。
シナモンロールといえば、パンの中でもかなりのハイカロリーだ。はっきり言って砂糖と小麦粉の塊だ。
頭の中にあるシナモンロールは、食べてと誘惑してくる。
今日はいいよね?
ダイエットも成功したし。
食べたら何か小説の良いアイディアが浮かぶかもしれない。
頭の中で沢山の言い訳を並べ、パン屋の戸を叩いた。
「いらっしゃいませ!」
「ワンっ!」
なぜか店内にイートインスペースに柴犬がいた。柴犬のくるくるとした尻尾を見ていると、さっきまで考えていたシナモンロールを思い出してしまう。おとなしい性格の犬のようで、一度吠えたら、寝ているようだった。
「どうぞ、トレーとトング です」
店員がトレーとトング を持ってきた。犬の方に気を取られて気づかなかったが、なかなかイケメンな店員だった。アラサーより少し若いぐらいで、ふわふわな茶色い毛が特徴的だった。目を見ると色素が薄いのか、琥珀色だった。外国人かもしれないが、日本語はペラペラでお辞儀もしている。中身は普通の日本人だった。真奈は別にイケメンは嫌いでは無いが、仕事で漫画風のイケメンイラストを見ることも多く、特にときめいたりはしなかった。
パンは、あまり特徴的ではなかった。むしろ、住宅街にあるパン屋らしく、食パン、カレーパン、あんぱん、塩バターパンなど人気メニューが全面にテーブルに並べられている。
シナモンロールは、一押しのようで綺麗なカゴの中で目立つように置かれていた。
ただ、変な部分が二つあった。
一つは、種無しパンという煎餅みたいなパンが置いてある事だった。こんなパン屋は普通のパン屋では見た事が無い。形も地味で、なんでこんなパンがあるのか謎だ。それに動物パンもクマやウサギではなく、なぜか魚の形をしていた。魚が悪いわけでは無いが、子供に人気が出るかわからない。近所に魚好きなさかなくんみたいな子供でもいるんだろうか。
二つ目は、値札がない事だった。値段がわからない。たまに100円均一のパン屋があったりするが、そのような看板も出ていない。
犬が店内にいるのも、衛生的のどうなんだろう。店員はイケメンだが、重労働で低賃金のパン屋をしているのも違和感がある。この顔だったらYouTubeにちょっと出るだけでも再生回数稼げそうだった。
真奈は首を傾げつつ、トレーにシナモンロールをどっさりと入れていく。おかしな点が多いが、シナモンロールは、ツヤツヤな砂糖でコーティングされ、いい臭いもする。くるくるな見た目も、あの柴犬の尻尾みたいで可愛らしい。
値札が無い事が気になったが、高くても1個400円ぐらいだろう。真奈も一応大人であるし、財布には3万円ほど入れていたはずだ。
「お会計お願いします」
そんな事を考えながら、シナモンロールがどっさり載ったトレーをイケメン店員の前に出す。
彼の白いコックコートをよく見ると、胸元に名札があった。天野蒼という名前らしい。小説のキャラの名前にしても良いかもしれない。真奈は、仕事以外の時も、こんな風にネタ探しをする事が多かった。
しかし、こんなイケメン店員の前にハイカロリーのパンを差し出すのは、ちょっと恥ずかしくなってきた。別にイケメンにときめいたりしたわけでは無いが、人並みに羞恥心はあるという事なのだろう。
ちょっと下を向きつつ、財布を取り出そうとする真奈に、イケメン店員・蒼はとんでも無い事を言い始めていた。
小さなパン屋で、赤い屋根がちょっと童話風な感じだ。
壁はクリーム色で、看板が出ていた。福音ベーカリーというのが、この店の名前らしい。
何より可愛らしいのが、店の前にある黒板状の看板だった。
そこには、赤ちゃん天使と柴犬のイラストが書かれていた。
今日のおススメはシナモンロールとも書いてある。条件反射のようにシナモンのスパイシーで、食欲を刺激するような香りを思い出す。
くるくるとした見た目やずっすりとした食感のシナモンロールの映像が、ずっと頭の中で再生されてしまう。
シナモンロールといえば、パンの中でもかなりのハイカロリーだ。はっきり言って砂糖と小麦粉の塊だ。
頭の中にあるシナモンロールは、食べてと誘惑してくる。
今日はいいよね?
ダイエットも成功したし。
食べたら何か小説の良いアイディアが浮かぶかもしれない。
頭の中で沢山の言い訳を並べ、パン屋の戸を叩いた。
「いらっしゃいませ!」
「ワンっ!」
なぜか店内にイートインスペースに柴犬がいた。柴犬のくるくるとした尻尾を見ていると、さっきまで考えていたシナモンロールを思い出してしまう。おとなしい性格の犬のようで、一度吠えたら、寝ているようだった。
「どうぞ、トレーとトング です」
店員がトレーとトング を持ってきた。犬の方に気を取られて気づかなかったが、なかなかイケメンな店員だった。アラサーより少し若いぐらいで、ふわふわな茶色い毛が特徴的だった。目を見ると色素が薄いのか、琥珀色だった。外国人かもしれないが、日本語はペラペラでお辞儀もしている。中身は普通の日本人だった。真奈は別にイケメンは嫌いでは無いが、仕事で漫画風のイケメンイラストを見ることも多く、特にときめいたりはしなかった。
パンは、あまり特徴的ではなかった。むしろ、住宅街にあるパン屋らしく、食パン、カレーパン、あんぱん、塩バターパンなど人気メニューが全面にテーブルに並べられている。
シナモンロールは、一押しのようで綺麗なカゴの中で目立つように置かれていた。
ただ、変な部分が二つあった。
一つは、種無しパンという煎餅みたいなパンが置いてある事だった。こんなパン屋は普通のパン屋では見た事が無い。形も地味で、なんでこんなパンがあるのか謎だ。それに動物パンもクマやウサギではなく、なぜか魚の形をしていた。魚が悪いわけでは無いが、子供に人気が出るかわからない。近所に魚好きなさかなくんみたいな子供でもいるんだろうか。
二つ目は、値札がない事だった。値段がわからない。たまに100円均一のパン屋があったりするが、そのような看板も出ていない。
犬が店内にいるのも、衛生的のどうなんだろう。店員はイケメンだが、重労働で低賃金のパン屋をしているのも違和感がある。この顔だったらYouTubeにちょっと出るだけでも再生回数稼げそうだった。
真奈は首を傾げつつ、トレーにシナモンロールをどっさりと入れていく。おかしな点が多いが、シナモンロールは、ツヤツヤな砂糖でコーティングされ、いい臭いもする。くるくるな見た目も、あの柴犬の尻尾みたいで可愛らしい。
値札が無い事が気になったが、高くても1個400円ぐらいだろう。真奈も一応大人であるし、財布には3万円ほど入れていたはずだ。
「お会計お願いします」
そんな事を考えながら、シナモンロールがどっさり載ったトレーをイケメン店員の前に出す。
彼の白いコックコートをよく見ると、胸元に名札があった。天野蒼という名前らしい。小説のキャラの名前にしても良いかもしれない。真奈は、仕事以外の時も、こんな風にネタ探しをする事が多かった。
しかし、こんなイケメン店員の前にハイカロリーのパンを差し出すのは、ちょっと恥ずかしくなってきた。別にイケメンにときめいたりしたわけでは無いが、人並みに羞恥心はあるという事なのだろう。
ちょっと下を向きつつ、財布を取り出そうとする真奈に、イケメン店員・蒼はとんでも無い事を言い始めていた。