第2話

文字数 705文字

また目が覚めた。まだ、列車の中にいた。はやく目的地に着いて欲しいのに一向に着く気配はない。誰かが心地の良いそこにいると、そこに行けば会えるとそんな気がしている。会いたいと潜在的な部分で熱望している自分に戸惑いつつ、外を見ると空はまだ青空のままだった。
ふと今度は昨日の夕日を思い出した。花火を見に行く前に君と花火会場の少し手前にある大橋で私はソーダ味の氷菓子を君は夕張メロンそふとをたべていた。大橋の下を通る川はとても大きくは無く流れは大抵穏やかで君が言うには下流では海に解けるように水が流れ込むらしい。
まだ花火大会まで四十分以上もあるのにもうたくさんのカップルや子供連れの家族がわらわらと会場へ向かっていた。時計もスマホも持っていなかった私は不安になって早く行こうと言ったのに、君が「まだもう少し一緒にいたい。」って言うから氷菓子の木の棒をただ噛んで君が夕張そふとを食べ終わるのを待っていた。その時ほのかな木の味を味わいながら見た夕日は沈んでしまうのが惜しいほど美しかった。
あの時の夕焼けが透けて凛とした君の顔がたまらなく好きだった。夕焼けに透けて消えてしまいそうな君。でもどこかに強い美しいものを追い求める君の熱情が夏の暑さとともに私の頬に伝わってきて今もほのかに頬が熱い。
今度は少し胸が暖かくなって幸せが広がるとともにもう味わえない幸福感だと間接的に現実を知らしめてくる。
やっぱり涙は抑えられなかった。
今度は大粒の涙がぽろぽろとあふれでてきた。
私の声を上げて泣くのを抑える呻き声だけが列車内に響いた。
列車が走る音も耳が塞がって聞こえなかった。
意識が遠のいていく。
その時の悲しみを表す言葉なんかいらなかった。
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