第27話 平原の場合3
文字数 1,621文字
石原は先にメールに返信するように指示をした。金城がメールへの返信を終えるのを待った後、いつものように金城にも考える機会を持ってもらえるように、少し遠回りに質問をした。
「からくりの話だね。ちなみに金城さんはなぜ今回、良い返信をしてもらえたと思う?」
「う~ん、そうですね、、、パっと思いつくのは2つですね。」
不意の質問にも、さっと答えを出せること、そして先に思いついたことの数を伝えられるのは金城の武器だな、と改めて石原は感じながら聞いていた。
「1つは石原さんのアドバイスのおかげで、メール文章が良いものになっていた。」
石原は相変わらず褒められるのが得意ではなく、年甲斐もなくはにかみながら答えた。
「ありがとう。メール文章の質も要因の一つだけど、もっと大きな要因があるかな。」
「なるほど、じゃ2つ目は平原さんの経歴が良かったから興味を持ってもらえた、ですか?」
「うん、そうだね。それも一つだね。でももっと大きなものがあるよ。」
「もっと大きなものですか、、、」
考え込む金城を見て、考える時間も財産になることを知っている石原は十分にその機会を与えながら、頃合いを見てヒントを出した。
「メール文章の質が良くても、平原さんの経歴が良くても、そもそもメールを見てくれないと意味がないよね?」
「、、、そりゃそうですけど、、、」
また金城は考えた。そして今回はすぐに答えに辿り着いたようだ。
「プランツェの人事担当者の方が仕事のできる方だった!」
「うん、ほぼ正解かな。」
金城はほぼ、という言葉に引っかかって、強い口調ですぐ聞き直してしまった。
「ほぼ、ってことは正しくは何ですか!?」
前職の時にも同じように上司に食ってかかるような質問をしてひどく怒られたことを思い出した。どうしても気になることは聞いてしまう性格、しかも気になればなるほど、熱くなってしまう性格で、新卒時代には何度も何度も上司に怒られた。繰り返し怒られることで、どんどん上司の怒り方も激しくなり、最後には金城は泣きながら謝ることしかできなくなってしまった。また悪い癖がまた出てしまったことを瞬時に悟った金城はすぐに謝ろうとした。
「あっ、すみm、、、」
謝罪よりも早く、全てを察した石原は言葉の途中で割って入ってきた。
「大丈夫!、、、大丈夫だから!」
そう言うと石原はいつも以上の温かい目で続けた。
「その好奇心は金城さんの武器だから絶対に無くしてはダメ。ね。じゃ話を戻すけど、、、」
金城は不意に前職のトラウマが思い出されて、それがあっという間に解消されたことで、頭が真っ白になっていた。新卒の時にあれほど怒られたことが、GEARでは全く反対のことを言われた。パラダイムシフト(価値観の変化)は大きなものから小さなものまで、ふとしたきっかけで起こるものなのだ。そしてパラダイムシフトが起こった瞬間は、世界が広がる錯覚に陥ることもあれば、今回のように完全に思考が停止してしまうこともあるのだ。石原もその様子に気付き、
「おーい、、、大丈夫??」
と金城の目の前で、手を左右に動かしながら視線から意識の確認をするべく、顔を覗き込んだ。3,40cmほど離れていた2人の顔だが、角度によっては重なって見えるほどの距離だった。
「バシャーーン!!」
その音に振り返ると、コーヒーでびしょびしょの床、そして呆然と立ち尽くす桜井がいた。ちょうど事務所に戻って来た桜井からは2人がキスしようと見えたのだ。その驚きのあまり持っていたコーヒーを落とした音だった。
その音と、慌てて拭くものを探す石原の様子に、金城はようやくこの世界に帰ってこられたようだった。しばらく片づけをする石原を見据えながら、ようやく事態を飲み込んで、片づけを手伝うことにした。
まだ桜井は呆然と立ち尽くしたままだった。
「からくりの話だね。ちなみに金城さんはなぜ今回、良い返信をしてもらえたと思う?」
「う~ん、そうですね、、、パっと思いつくのは2つですね。」
不意の質問にも、さっと答えを出せること、そして先に思いついたことの数を伝えられるのは金城の武器だな、と改めて石原は感じながら聞いていた。
「1つは石原さんのアドバイスのおかげで、メール文章が良いものになっていた。」
石原は相変わらず褒められるのが得意ではなく、年甲斐もなくはにかみながら答えた。
「ありがとう。メール文章の質も要因の一つだけど、もっと大きな要因があるかな。」
「なるほど、じゃ2つ目は平原さんの経歴が良かったから興味を持ってもらえた、ですか?」
「うん、そうだね。それも一つだね。でももっと大きなものがあるよ。」
「もっと大きなものですか、、、」
考え込む金城を見て、考える時間も財産になることを知っている石原は十分にその機会を与えながら、頃合いを見てヒントを出した。
「メール文章の質が良くても、平原さんの経歴が良くても、そもそもメールを見てくれないと意味がないよね?」
「、、、そりゃそうですけど、、、」
また金城は考えた。そして今回はすぐに答えに辿り着いたようだ。
「プランツェの人事担当者の方が仕事のできる方だった!」
「うん、ほぼ正解かな。」
金城はほぼ、という言葉に引っかかって、強い口調ですぐ聞き直してしまった。
「ほぼ、ってことは正しくは何ですか!?」
前職の時にも同じように上司に食ってかかるような質問をしてひどく怒られたことを思い出した。どうしても気になることは聞いてしまう性格、しかも気になればなるほど、熱くなってしまう性格で、新卒時代には何度も何度も上司に怒られた。繰り返し怒られることで、どんどん上司の怒り方も激しくなり、最後には金城は泣きながら謝ることしかできなくなってしまった。また悪い癖がまた出てしまったことを瞬時に悟った金城はすぐに謝ろうとした。
「あっ、すみm、、、」
謝罪よりも早く、全てを察した石原は言葉の途中で割って入ってきた。
「大丈夫!、、、大丈夫だから!」
そう言うと石原はいつも以上の温かい目で続けた。
「その好奇心は金城さんの武器だから絶対に無くしてはダメ。ね。じゃ話を戻すけど、、、」
金城は不意に前職のトラウマが思い出されて、それがあっという間に解消されたことで、頭が真っ白になっていた。新卒の時にあれほど怒られたことが、GEARでは全く反対のことを言われた。パラダイムシフト(価値観の変化)は大きなものから小さなものまで、ふとしたきっかけで起こるものなのだ。そしてパラダイムシフトが起こった瞬間は、世界が広がる錯覚に陥ることもあれば、今回のように完全に思考が停止してしまうこともあるのだ。石原もその様子に気付き、
「おーい、、、大丈夫??」
と金城の目の前で、手を左右に動かしながら視線から意識の確認をするべく、顔を覗き込んだ。3,40cmほど離れていた2人の顔だが、角度によっては重なって見えるほどの距離だった。
「バシャーーン!!」
その音に振り返ると、コーヒーでびしょびしょの床、そして呆然と立ち尽くす桜井がいた。ちょうど事務所に戻って来た桜井からは2人がキスしようと見えたのだ。その驚きのあまり持っていたコーヒーを落とした音だった。
その音と、慌てて拭くものを探す石原の様子に、金城はようやくこの世界に帰ってこられたようだった。しばらく片づけをする石原を見据えながら、ようやく事態を飲み込んで、片づけを手伝うことにした。
まだ桜井は呆然と立ち尽くしたままだった。