始まり

文字数 1,085文字

 「どこだ?」、「なんだ?」そんな言葉が飛び交う教室に颯爽と私。必然、注意は私一点に。
静粛に

 抑える仕草とともに一言。……一度はやってみたかったことだが、素直にしんとなる反応に充実をおぼえる。

 だが……。だがそう、私の望むものはこの先だ――

今から皆さんには殺し合いをしてもらいます

 言った! 言ったぞ!! デスゲームの宣言。私はこれを心待ちにしていた。フィクションの世界で扱われるデスゲーム、それを現実に行えばどうなるか、長年の課題が解き明かされる瞬間!!

 文科省、しかも大臣直轄の秘密機関に所属する私の願い……いや、このテーマの答えを知りたく思う者は多い筈だ。だからこそこうして実験に許可が降りたのだ。

 まさに歓喜!! それでいて実験体の絶望!!

(……の筈なんだが……)
 ……何かか違う気がする。彼等の反応が不思議と淡泊に感じる。絶叫どころがどよめきすらも出てこない。あまりのことに思考が追い付かないのだろうか?
(まぁ、映画はきっと演出なんだろう。いや、むしろ「正しい」反応を知れて良かったじゃないか)
 そう納得することにし、次に移ることにした。
それでは今から皆さんには――

 簡単にルール、要は「皆殺しして一人だけ生き残れますよ」のお約束だ、を説明し、係の者に殺し道具が入った袋を配らせる。


 ……が、そこにも違和感が生じた。

(……なんだ?)
 きっと係も同じよう放心したに違いない。最初の机に袋を置かれた生徒は淡々と後ろの席に回した。回された者もまたそれを……と。戸惑いの類は見られない。
回したらダメだったですか?

 先頭の男子生徒が心配そうたずねてきた。彼の心にあるのは我々への気遣い、もしくは己が判断が間違っているのではという不安。これからへの恐怖とかそういうものは感じない。いつものように配布物を列の最後まで回す、それだけの感覚。

 見れば他の生徒も似たような表情だ。

いや……構わんよ
 なんだ? 何かおかしいぞこいつら。それともこれが生の反応であり、貴重なデータなのか? きっと顔には出ていないだろうが、内心とても手遊びがしたくて堪らなかった。真新しい体験が目の前だというのに、ここから抜け出たくて仕方なかった。……仮にも私は研究者だぞ?


 その後、彼等は規律正しく列を乱さずに、避難訓練でもするよう教室を出て行った。

(どうなってるんだ……)

 誰も泣き喚かない、暴れない。当然のことと受容していた。ひょっとして私こそが観察対象でドッキリでも仕掛けられたのか? なんて疑りすら抱いた。


 けれども仕掛け人が現れることはなく、彼等は忠実に殺し合い、実験はつつがなく終了した――

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