文字数 1,024文字

 それはそうだ。と、僕は鼻ちょうちん(風船のように膨らんだ鼻水)をぱちんと破って目覚めながらおもった。丸の内は空の彼方に消えてしまったのだから、その代わりに何か地面が必要なんだから。僕たちはどこかを歩いていたはずなんだ。トンネルだらけの野原。そしてもちろんあれは夢だったんだ。
 僕がいるのはオフィスだとわかったものの、()()むになった目の上下瞼を唇みたいに執拗にむにゃむにゃしてやっと、僕に概要が見えてきた。灰色の煙がゆっくりと晴れていくように。
 奥に立ってプレゼンをしている女性が提携企業からやってきたプランナーであり、夢に出てきた女性教員だった。コの字に組んだテーブルに座って僕たちは彼女の話に耳を傾けているのだが、僕いがい皆、太いストローのようなものを口に銜えている。僕の目のフォーカスは、僕の目の前に落ちたストローのようなものを捉えた。居眠りしているあいだに僕はそれを口から落としてしまったのだろう。
 それにしても一体なんのプロジェクトだ?
 プレゼンターの女性は夢に出てきた教員だから、とうぜんロング・スカートにチューブトップだった。チュウーブトップ、そう。ぽってりした唇にルージュがセクシーだ。そして首には呼子をさげている。
 気づくのが遅かったが、彼女はじっと僕を見ていた。眉間にしわ寄せて。
「あなた。痛恨の失敗ですよ」と彼女がビターな声をだす。
「あ。はー。しっぱい?」と、眠りが頭のどこかに固着していておぼつかない僕はいった。
「まだだいじょうぶよ」と彼女は甘い息を吐く。
 あぶないあぶない。こういのは剣呑だ。呑み込まれ、突き刺される。
 彼女が僕にアテンドしているものだから、自然、会議室内の皆が僕を注視していた。大まじめな顔で、目に不審と嘲りと憤怒の色を赤く濃くして。その口から突き出たストローから児童たちが這い出てきた。もぞもぞと。そしてストローの先にぶらさがる。
 プレゼンターの女性が呼子を銜える。僕の眠気が消える。
「きみたちダメだ! こんなところで大人になっちゃダメなんだ!」戦慄して僕は金切り声を上げていた。

 僕たちはなんとかストローを逆行し、野原のトンネルを抜け出ていた。
 女はスカートにくるまれたまま出られず地面の上でぴょんぴょん必死にもがいている。
「罰をうけなさい!」という叫びはくぐもって、ほとんど聞き取れない。
 僕は他の児童たちと笑った。
 清々しい風が吹き、上空には大きな船がただよっていて、空をゆっくりわたっていく。
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