前編 生まれたとき

文字数 935文字

僕はいま、とても幸せだ。
なぜなら、ご主人様のミサキがとても可愛がってくれるから。
ミサキは人間の子供で、可愛い女の子だ。
僕はそんなミサキのひざによく乗って、いつも背中をなでてもらっている。
ご飯をたべて、ミサキと一緒に昼寝して。一緒にテレビとやらをみたり、そしてまた昼寝して。
今日はそんな幸せ絶頂の、僕のサクセスストーリーを少し語ってみようと思う。


僕はこの家とは別の家で生まれた。
兄弟が六匹くらいいたかな。あんまり覚えてないや。
父親が黒猫、母親が白猫の間に生まれた僕たちは、毛並みが独特だった。
真っ白な子や、真っ黒な子、そして絶妙に黒と白が混ざり合った子とか、どの子もかっこよかった。
皆をみてて、きっと自分もそういう毛並みなんだろうなと思った。

生まれたばかりで母親のおっぱいを飲んでいたころ、僕たちはなぜか一匹ずつ、どこかへ連れられて行った。いま思うと、ミサキのように猫が好きなうちに引き取られていったんだろう。
初めは、真っ白い子がいなくなった。
そして、今度は真っ黒い子が。
そのあと、ぶち毛の子たちがいなくなっていって、僕だけが残った。

僕は、このまま母親と一緒にいられるのかなって思って嬉しかった。
でも、ある日、僕を囲んでそのころのご主人様がいってたんだ。

「やっぱりこの子は引き取り手がつかなかったか」
「うちで飼うにしても、もう手一杯よ」
「外に離すわけにはいかないしなあ」
「やっぱり保健所へ……」

 僕にはさっぱり分からない話だったけど、ご主人様たちは少し悲しそうな顔をして話していた。

「いや、まてまて。俺の会社で猫を飼いたい人をもう一度探してみる」
「そうね、それがいいわ」

 僕には何て言っているかちんぷんかんぷんだったけど。
 そのとき、偶然に僕は窓ガラスに映った自分をみたんだ。
 僕の毛並みは、半分が真っ黒で、半分がまだら、顔半分が黒くて、反対側の顔にもたくさんのブチが入っていた。
 ちょっと他の子たちとは違った毛並みだったんだ。

 他の子と違う毛並みだから、僕は最後まで残ったんだ。
 そのおかげで母親と一緒にいられるなら、僕はその方がいい。
 でも、さっき言っていた保健所ってなんだろう。
 僕は不安になって、母親に甘えて隣に座った。
 母親は僕の毛並みを舐めて、整えてくれた。
 

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