ヘビに睨まれたシスター

エピソード文字数 843文字

 これほど目つきの悪い人を、見たことがない。
 亜麻色の髪の下からのぞく、嫌悪に歪んだ青い目に、私は身をすくませた。

 ――私は…あなたの包帯を変えに来ただけですよ、アルバートさん…。

 ヘビに睨まれたカエルのような心地だ。
 水桶と、道具をテーブルに置いて、私は無理に笑みを浮かべた。

 この街に、空から悪魔の火が降ったのは、四日前のこと。
 国境を守ろうと進軍していた兵隊を、悪魔は街ごと焼き払ったのだ。
 いつもは塀の中で暮らす修道女たちも、街の復興と、負傷者の手当てにたずさわった。
 私もその一人として、この治療所で奉仕をしていた。
 ここは廃墟の宿屋だったが、病院の寝台が足りず、第二治療所として機能していた。

 たくさんの患者様の中で、私には苦手な人がいる。

 今まさに目の前にいる、このアルバートという若い男性兵士だ。
 美形だが創造主の神様も頭を抱えるほどに、彼はいつも仏頂面で、無口で、なおかつ目つきが悪い。

 ――いつも……人を殺すような目で、私を見るのは、なぜですか…。

 不機嫌の理由をたずねたい私だが、それができない。
 修道者は「沈黙」の掟を守らなければならないからだ。

 彼は、本がなによりの薬といわんばかりに、読書に没頭している。
 治療中は、いつもぴくりとも動かない。
 「痛い」と言ったり、治療の文句を言われることもなく、その点、彼の治療はとてもしやすかった。

 ――それにしても、ひどい怪我だわ。

 肩に銃弾が二発。足に二発。

 ――幸い弾は貫通しているそうだけど、さぞ痛かったことでしょう。

 包帯の交換が終わると、彼は無言で、頭を下げた。
 無口だが、いつも頭を下げてくれる。礼儀正しい人だ。

 ――どうか、あなたのケガが、早く良くなりますように。

 彼に微笑んだが、あからさまに視線をそらされる。

 ――私はどうして、アルバートさんにこんなに嫌われてしまったのかしら…。

 私は、とぼとぼと裏へ下がった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み