第1話 一話完結
文字数 848文字
スマホの画面を見ると、【5月9日 日曜日 0時50分】と表示していた。
「そろそろいいかな」
僕は高校受験の問題集を閉じた。
静かに部屋を出て、母さんの寝ている部屋の前に立つ。
「母さん、母さん」
呼び掛けても、返事はない。戸をそっと開け、中を覗く。母さんは熟睡していた。少しばかりの音では起きそうにない。仕事で疲れているのだろう。
父さんが亡くなってから、母さんは働き詰めだ。日曜だっていうのに、今日も朝から仕事に出掛ける。
僕はキッチンへ向かった。
「よし、始めるか」
自分に気合を入れた。
ボウルに水を張り、3合の米を一気に入れ、素早くかき混ぜて水を捨てた。米をシャカシャカとかき回し、水を注ぎ、濁った水を捨てる。3回繰り返し、ザルで水を切った。
炊飯器に洗った米を投入し、釜の目盛りの所までミネラルウォーターを注いで、タイマーをセットした。
「ふうー」
ご飯を炊くのは初めてだ。クラスの女子に教えてもらった方法をやってみたが、上手くできただろうか。
次はおかず作りだ。スマホでレシピサイトを開き、昼間にこっそり買っておいた食材を冷蔵庫から出す。
鮭の塩焼き、卵焼き、味噌汁作りに取り掛かった。
レシピ通りに作ろうとするが、思い通りにいかない。鮭は焦げるし、卵焼きは上手く巻けず、ぐちゃぐちゃになった。それに、味噌汁の具を刻んだときには指まで切ってしまった。
最悪だ。でも、これが今の自分の精一杯だ。
テーブルに焦げた鮭の塩焼きと崩れた卵焼きを並べ、味の薄い味噌汁が入った鍋を置く。
母さんはこんなことを毎日やっているんだ。そう思うと、改めて、母の大変さが分かった。
「ようやく終わった。さて、寝るか」
両腕を上げて伸びをすると、大事なことを忘れていたのに気付いた。
戸棚に隠しておいたカーネーションを取り出してテーブルに置き、カードにメッセージを書く。
お母さんへ
母の日のプレゼントの代わりに朝食を作りました。
上手くできなかったけど、よかったら食べてください。
お母さん、いつもありがとう。
<終わり>
「そろそろいいかな」
僕は高校受験の問題集を閉じた。
静かに部屋を出て、母さんの寝ている部屋の前に立つ。
「母さん、母さん」
呼び掛けても、返事はない。戸をそっと開け、中を覗く。母さんは熟睡していた。少しばかりの音では起きそうにない。仕事で疲れているのだろう。
父さんが亡くなってから、母さんは働き詰めだ。日曜だっていうのに、今日も朝から仕事に出掛ける。
僕はキッチンへ向かった。
「よし、始めるか」
自分に気合を入れた。
ボウルに水を張り、3合の米を一気に入れ、素早くかき混ぜて水を捨てた。米をシャカシャカとかき回し、水を注ぎ、濁った水を捨てる。3回繰り返し、ザルで水を切った。
炊飯器に洗った米を投入し、釜の目盛りの所までミネラルウォーターを注いで、タイマーをセットした。
「ふうー」
ご飯を炊くのは初めてだ。クラスの女子に教えてもらった方法をやってみたが、上手くできただろうか。
次はおかず作りだ。スマホでレシピサイトを開き、昼間にこっそり買っておいた食材を冷蔵庫から出す。
鮭の塩焼き、卵焼き、味噌汁作りに取り掛かった。
レシピ通りに作ろうとするが、思い通りにいかない。鮭は焦げるし、卵焼きは上手く巻けず、ぐちゃぐちゃになった。それに、味噌汁の具を刻んだときには指まで切ってしまった。
最悪だ。でも、これが今の自分の精一杯だ。
テーブルに焦げた鮭の塩焼きと崩れた卵焼きを並べ、味の薄い味噌汁が入った鍋を置く。
母さんはこんなことを毎日やっているんだ。そう思うと、改めて、母の大変さが分かった。
「ようやく終わった。さて、寝るか」
両腕を上げて伸びをすると、大事なことを忘れていたのに気付いた。
戸棚に隠しておいたカーネーションを取り出してテーブルに置き、カードにメッセージを書く。
お母さんへ
母の日のプレゼントの代わりに朝食を作りました。
上手くできなかったけど、よかったら食べてください。
お母さん、いつもありがとう。
<終わり>