スタンドバイミー

文字数 985文字

事件以降から時々学校を休んではXに夢中になっていた私。
気になるつぶやきを見かけた。

『就職に失敗して、約2年家で音楽を作ることくらいが楽しみな人間です。誰か話を聞いてくれませんか?』
私は音楽をやる人には男であっても悪い人はいないと信じているので『孵化』くんと連絡をとってみた。

バンドの3人で彼の家に行くことに。
季節は3月になり、春めいてきた。
金曜日の12時に彼の部屋を訪ねると、孵化くんこと倉島くんはパソコンの前でMIDIキーボードを弾いていた。 
「君らか。藍可って名前はもしや…?」
「そうよ、私はあの玖蘭の娘、藍可」
「ストイックに良質な音楽を作ってるベテラン女性シンガーソングライターの娘か。
スゴイ子来ちゃったな」

「で、キーボードで何してたの?」
藍可が倉島くんに尋ねた。
「ああ、ボカロを入力してた」
「ボカロは否定しないけど、人間の女の子の声の良さも教えてあげる」

藍可はノートPCからオケを流しつつ、キュートな歌声を披露し始めた。
「ひたすらボカロで曲作るのも飽きたからこれ歌ってみてくれないか?」
歌い終えた藍可に倉島くんがリクエストをする。

マイナーキーなのにしっかりキャッチーに聴かせるボカロ曲を倉島くんは流し始めた。
なんでしっかりポップなのかというと、コードチェンジのスピードが速いからだろう。

暗い闇の底から
あなたを引きずり込んで
もう戻れなくさせてやる
怖くなんかないよ ふふふ

私と藍可はかわりばんこにその倉島くんの作った暗いボカロを歌った。
キーに合わせて優磨はギターでなぞった。
「ああ、一日が過ぎるのが怖い。音楽を作っているからっていってもメチャクチャ人気が出るわけじゃない。
誕生日が来るのが怖い」

「じゃあ働いたらどうなのよ」
「好きな仕事以外したくない」
「贅沢言わないの」
「紙に適当にバイト書くからダーツで投げて決めるか」

約数分でダーツの内容は決まった。
清掃、ミスド、ローソン、エネオス、マツキヨ、松屋の6択のどれかになる。
倉島くんは自分はダーツ投げるの下手だからと私に投げさせることにした。

そして私の投げたダーツはローソンに決まった。
清掃やガソスタに比べると、まあ何とかなるんじゃないか。

私が今回あまりフラッシュバックに襲われないのは倉島くんも山沢優磨のように冴えない感があるからかも。
彼がコード譜を私たちに見せ、その曲を4人でセッションしてよそ行きの一日は終わった。
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